29話 春香と香織の想い

神谷家を出た後


「ごめんね、愛ちゃん…っ」

「大丈夫よ、て言うか沙羅が謝る理由なんて1つも無いわよ」

「うん、ありがとう」

「取り敢えず今日の事を春香にも共有しましょうか」

「そうだね」


 そう言って愛は春香に連絡を取る事にした。


『春香、今大丈夫?』

『愛ちゃん大丈夫だよ、どうしたの?』

『実はね…』


『そんな事があったんだね、沙羅ちは大丈夫なの?』

『えぇ、さっきまで泣いていたけど今は落ち着いてるわ』

『取り敢えずさ、2人も家来てよ!そこで話そう』

『分かったわ、沙羅も連れて行くわね』


 ピンポーン


「2人もお疲れ様、ごめんね、私だけ楽しちゃって」

「そんな事気にしなくて良いわよ」

「そうだよ、春香ちゃん」

「ありがとう、2人共、取り敢えず上がって」


 3人は春香の部屋に向かった。


「それにしても、盗撮までして来たのね」

「えぇ」

「ねぇ、2人共?やっぱり傑に対して何か対抗策を考えておくべきなんじゃないかな?」

「そうだね、正直最近の傑君は少し怖く感じる事があるし」

「そうね、しかも私達はこれから佐野君と仲良くして行こうとしてるしね」

「そこなんだよね、このままじゃ悪琉にも迷惑かける事になっちゃうんだよね」

「そもそも何で傑は佐野君に対してあんなにも敵対視してるのかしら」

「んー、それはね愛ちゃん、只々私達が悪琉に取られると思ってるからだと思うよ」

「え?取られるって、そもそも私達は傑と付き合ってすら無いじゃない」

「ふふ、愛ちゃん頭いいのにそう言う事には鈍いよね、沙羅ちは分かる?」

「えっと、多分だけど、傑君は私達の事を勝手に恋人として男友達に紹介する位だから、私達を独占したいんじゃないかな?」


 それを聞いた愛は渋い顔をした


「それにしてもやり過ぎなんじゃ…」

「そう、そこなの、最近の傑は私達が踏み込んで欲しくない所までズケズケと踏み込んでくるし、変な噂を流すしで明らかに私達の気持ちを考えてないんだよね」

「た、確かにそうだね」

「だからさ、私達の為にも、悪琉の為にも何か対策を考えるべきだと思うの。それに傑がこれ以上間違いを起こさない為にもね…」

「そうね」

「うん」

「でも具体的にどうするの?」

「私みたいに親に相談すれば結構簡単に解決出来そうだけど、それじゃ親同士が気まずくなりそうだからそれは候補としては保留かな」

「思うんだけどね、私達と傑君との距離が近すぎたんじゃないかな」

「そうね、小さい頃から4人でずっと一緒にいたからね」

「それでさ、そのせいで傑君が私達が近くにいて当たり前って思う様になったんじゃないかな?」

「うん、今までの行動を見るにそれはかなり信憑性あるよ」

「なるほどね、じゃあ私達は傑と接触する回数を減らすって事ね」

「うん、簡単に言ったらそうなるね」

「でもさ、そんな事したらむしろ変な事して来るなんて事無い?」

「そうね、その可能性は十分あるけれど、もしかしたら大人しく諦めてくれる可能性も考えられるわよ」

「うん、結構望み薄だけど、これを期に目覚めてくれれば…」

「うーん、まぁこれ以上に良い案も浮かびそうに無いしね、取り敢えずそれで様子見かな」

「そうね」


 無言で気まずい時間が少し続き


「よし!2人共、次は楽しい事をかんがえよう!」

「そうね、少し辛気臭くなったものね」

「うん!」

「じゃあ明日さ、皆でお弁当作ろうよ!」

「「お弁当?」」

「そう!体育祭で私と沙羅ちが悪琉に作るって言ったじゃん」

「そう言えば言ってたわね、でも私は料理出来ないわよ?」

「だから私達と一緒に作るんだよ!!苦手でも悪琉に作ってあげたいと思わない?」

「それは…」

「良い考えだね!春香ちゃん!愛ちゃんも一緒に作ろうよ」

「でも…おいしく作れる自信が…」

「大丈夫大丈夫、私達がサポートするし例え美味しく作れなくても気持ちだよ気持ち!!」

「そうだよ愛ちゃん、それに悪琉君は愛ちゃんが料理得意じゃ無いって知ってるんだから作ってくれるだけで喜ぶよ!!」

「そ、そうね、じゃあ頑張ってみるわ」

「いいねいいね」

「うん、頑張ろう!!」


 その後、3人は会話を楽しんだ。


 ~その日の夜~


「おかーさん」

「どうしたの春香?」

「悪琉の誕生日会あるじゃん?」

「そうね、たのしみね」

「それでね、おかーさんとちょっと話し合いたいなって思って」

「ふふ、良いわよ、何かサプライズしたいとかかしら?」

「そうじゃなくてね、悪琉の事で…」

「悪琉君の事?」


 春香は5秒位黙って話始める。


「おかーさんさ、悪琉の事…好きなんでしょ?」

「えぇ、勿論好きよ?それがどうしたの?」

「そうじゃ無くて、その…男として好きなんでしょって事だよ」


 香織は表情は変えないが動揺して、少しの間黙ってしまった。


「うん、やっぱりそうなんだね!」

「ち、違うそんなんじゃ」


 香織は珍しく焦っていた。

 娘と同じ年の男の子をしかも娘と同じ人を好きになった事がばれたら引かれると思っていたからだ。


「大丈夫だよ、おかーさん、おかーさんが悪琉の事を好きになったって私前から気付いてたから」

「……ごめんね」

「え?何で謝るの」

「だって、娘と同じ人を好きになるなんて、しかも春香と同い年の子を…」

「えっと?おかーさん?何か勘違いしてそうだけどね、おかーさんが悪琉の事が好きって、私からしたらむしろ嬉しい事なんだよ?

「ほえ?」


 香織は意外過ぎる返答が来て変な声が出た。


「だってね、私が結婚しちゃったらおかーさんと一緒にいられる時間が減っちゃうじゃん」

「そうね」

「でもね、もしおかーさんと同じ人と私が結婚したらさ、ずっと一緒にくらせるじゃん!!!」

「えっ、ほんとにそんな事いいの…?」

「良いも何も、実はこの事はね昔から考えてたんだよ、でもその機会が来るとは思って無かったから言えなかったけど、悪琉が現れてやっとその願いが叶えられそうなんだ!」

「そう…でも悪琉君が受け入れてくれるとは…」

「おかーさん?ほんとにそう思ってる?おかーさんが気付いて無い訳ないよね」

「……」

「その感じだと気付いてるんだね」


 悪琉が香織を見る目は春香を見る目と何ら変わりなかった事に2人とも気付いていた。


「でも愛ちゃんと沙羅ちゃんが…」

「そうだね、正直言ってあの2人は時間が必要とはいえ間違いなく悪琉の事が好きだよ、でも実はね、おかーさんの事はもう話してあるんだよね」

「え?」

「だからね、もう2人には話してあるんだ、もし2人が悪琉の事が好きだと思い、付き合う事があればその時はおかーさんも多分一緒になると思うってね」


 そう、春香は香織が悪琉の事が好きと気付いており、少し前に2人に許可を取っていたのだ。


「それでね、愛ちゃんは、「香織さんなら何の問題も無いわ、まぁ、私が佐野君と付き合うかなんて分らないけどね」だって、好きなくせに素直じゃないんだよね、ホント愛ちゃんらしいよね」

「……」

「そして沙羅ちに至っては「香織さんと家族になれるのならむしろ嬉しいです!あっ、あくまでの話ですけどね、私が悪琉君と付き合うって訳じゃないからね」だよ、まぁ、沙羅ちは小さい頃からおかーさんに懐いてたからね」

「そっか」

「だからね、おかーさん?もう我慢しなくていいんだよ?これからは私の為じゃ無くて自分の為に生きて楽しんでね?」


 春香がそう言うと、香織は自然と涙が溢れて来た。

 春香が成長した喜び、自分の為に生きてと言う気遣いに、そして春香と悪琉とこれからもずっと一緒に居れるんだとおもったから。

 その後2人はしばらくの間ハグし合っていた。


「ありがとう、春香」

「うん、これからは一緒に幸せになろ!」


 春香は満面の笑みでそう言った。

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