26話 体育祭(神谷傑)

 ★神谷傑(side)


 今日は体育祭だけど全然気が乗らない。

 中学の頃は幼馴染達と楽しい体育祭を過ごしていた。

 でも今年はそうはなりそうにない。

 春香に至ってはもうずっと佐野の野郎に引っ付いてるし、愛は最近素っ気ない上に言い合いにまでなった。

 今信用出来るのは沙羅だけだ。

 どうやったら2人の気持ちを取り戻せるかを考える事で精一杯だ。


 春香がパン食い競争に向かった。

 俺の方は見向きもしないで人目も気にせずにイチャイチャしてる、去年まではそのポジションは俺だったのに。

 パン食い競争が始まった。


「流石春香だな」


 当たり前の様に1位を取った春香が佐野に抱き着いた。


「はぁぁぁ!!何でだよ、中学生の頃は俺に抱き着いて来た事なんて無かったじゃないか」


「俺達は何年も一緒にいたのに、佐野との2.3か月の方が春香には大きいのかよ……」


 いつからこうなったのか、やっぱりあの時見捨てた時か…いや、でもそれは気にしなくていいと言ってたし。

 分からない、分からない。

 

 いや今は春香の事を考えるのは止めよう。

 俺の最優先は沙羅と愛だ。

 愛は佐野の事を気にしてはいるものの、そこまで関係は進んでないからまだ大丈夫だ。

 沙羅は佐野と話してる所すら見たことない。

 2人を繋ぎ止める事に集中しなければ。


 愛が100メートル走で1位になった。

 俺は佐野とこっそりやり取りしているのをしっかり見ていた。


「チッ、愛もあからさまに意識しやがって」


 でもやっぱり愛と佐野はたいして関係は進展してない。

 俺は愛の元に行った。


「愛!お疲れ、流石だな!」

「えぇ、ありがとう」


 いつも通りの愛だった、言い合いになった事はもう気にしてないのか、良かった。

 にしても久しぶりに落ち着いた気持ちで見たら、愛ってマジでスタイル良いな。

 おっと、自分の世界に入っては駄目だ、よし!もっと褒めよう。


「いやー、勉強も運動も出来ちゃうなんて流石過ぎるよ」

「急にどうしたのかしら?高校に入ってからは褒める事なんて無かったのに」


 え?そうだったか?確かに思い返して見ればそんな気もして来た。


「いやいや、改めて思ったからさ、高校に入ってからは少し照れくさくてな、ハハ」

「そう、まぁ、褒められて悪い気はしないわ、ありがと」

「あぁ、ほんとかっこよかったぞ」


 よし!手ごたえはあった、愛はまだ大丈夫そうだ。


 傑は喜び過ぎて気づいていなかった、愛が小さくため息を付いていた事に……


「おっ、次は沙羅か」


 沙羅の借り物競争の時間になった。

 沙羅が紙を取ってキョロキョロしている。


「どうしたんだ?お題は何なんだ?」

「それに俺の方と何処かを交互に見てる、一体だれを?」


 そう思い沙羅の視線を追った。


「は!?何で佐野???」


 2人は他人のはずじゃ?

 もしかしたら俺の知らない所で関係が?いや、まだお題はが何かも分からないんだから下手に変な考えを持つのは止めよう。

 

 そんな事考えていたら沙羅が佐野の方に走って行った。


「結局そっちに行くのか……」


 沙羅が足を挫いて佐野に抱えられた。


「はぁ!!何してるんだよあいつ!!沙羅は目立つのが嫌いなんだぞ!!!」


 そのまま1位でゴールした。

 会場の人達が、カップルを冷やかす様に盛り上がってる。


「チッ、何も知らない奴らが、お前たちのせいで沙羅が前も向けてないじゃないか」


 司会の女性がお題を発表しようとしている時に沙羅は凄く慌てていた。

 俺はどうしたんだろうと思っていたら


「お題はーーー王子様でーす」


 会場はどっと盛り上がった。

 しかし俺は数秒間フリーズした。


「お、王子さま?」


 王子さまってなんだ?沙羅は何を考えて佐野を選んだんだ?俺と見比べて何で佐野なんだ?

 確かに見た目だけなら、俺より佐野の方が王子様っぽい、それは認める。

 しかし、見た目以外はろくでも無い奴じゃないか、て言うか王子様と言うより佐野はどっちかというと悪役じゃないか。

 いや、もしかしたら沙羅は会場を盛り上げる為にわざと見た目の良い佐野を選んだのでは?そうだそうとしか考えられ無い。


 目立つ事が苦手な沙羅がそんな事するはずない事を傑は考えなかった、いや、考えたく無く自然と頭の中から消えていた。

 傑がそんな事考えている間に沙羅と悪琉はいなくなっていたが、考え過ぎて傑は気が付かなかった。


 昼食の時間沙羅がいなかった、何故か嫌な予感がした俺は一緒にいた愛と春香に聞いた。


「な、なぁ、沙羅はどうしたんだ?」

「分からないわ」

「私もー」


 2人は全然表情を変えずにそう答えた。

 まぁ、2人が心配していないなら大丈夫なんだろう、俺はそう思った。


 少ししたら沙羅が帰って来た、しかしどこかぼーとしている。

 愛は訝しげに見ていて春香は何故か嬉しそうだ。


「沙羅ちーーー」


 春香がそう言うと、沙羅は我に返った。


「あ。春香ちゃん?」

「ご飯食べよー」

「あ、う、うん」


 その後の沙羅はいつも通り?の沙羅だった。

 でも何故か違和感を感じるがその正体は分からなかった。


 そんな時LIMEが鳴った。

 こんな時に誰だ?そう思いスマホを見たら友人の佐藤だった。


『今すぐ家庭科室に来い!!』


 俺は何言ってんだコイツって思った。


『なんでだよ、今忙しいんだよ』

『来ないと後悔するぞ!!』

『いや、てか何で家庭科室なんだよ』

『誰にも聞かれちゃいけない話をするからだよ!!!』


 佐藤は普段適当な奴だけど、真剣なときはちゃんとした奴だ、少なくとも今回は本当に緊急事態らしい。

 おれは3人に用事が出来たと誤魔化して家庭科室に向かう事にした。

 急な事だったので少し愛に怪しまれたが今は気にしてられない。


「なぁ、最近幼馴染達とはどうなんだよ」

 

 家庭科室に着くなり佐藤にそう言われた。


「どうって、ふ、普通だよ!」

「そうか?それにしては七瀬さんはずっと佐野と一緒にいないか?」

「お前には関係ないだろ!!!」


 俺は春香と佐野の関係性に触れられて切れてしまった。


「はぁー、まぁ、お前がそう言うならいいんだけどよ、これ見てみろよ」


 そう言って佐藤は、1つの写真を見せて来た。

 それを見て俺は言葉が出なくなり、怒りが込みあがって来た。

 写真に写っていたのは、保健室で佐野に押し倒されてる沙羅の写真だった。

 2人の顔は見えないが間違いなく、沙羅と佐野だ。


「こ、これは?」

「さっきたまたま保健室の前通ったら何かが倒れる音がして覗いたらこうなってたから撮ったんだ」

「な、何でこの状況に?」

「いやそれは知らない、俺が見たのは押し倒されてる相沢さんがその後、慌てて出て行く姿だけだ」

「と、取り敢えずこの写真は俺にくれ、そして佐藤は消してくれ」

「あぁ、それは構わないが、どうするつもりだ?まさか広めたりは?」

「する訳ないだろ、そんな事したら沙羅がショック受けるだろ!!まず間違いなく佐野が無理矢理襲ったんだろう!!」

「そうかなぁ?」

「当たり前だろ!!取り敢えずタイミングを見て俺は沙羅と話し合って、助けてあげる事にするよ!!」

「お、おぅ」


 そう言って傑は家庭科室を後にした。

 その後佐藤は呟いた

「んー?相沢さん嫌がってる様にはみえなかったけどな、それに七瀬さんに関しては明らかだし……ま、いっか恋愛は自由だから俺が憶測でどうこう言ってもだしな」


 佐藤の話を聞いて俺は1人で考えていた。

 そうか、これで納得した。

 さっき沙羅は明らか様子がおかしかった、恐らく王子様と言うお題に勘違いした佐野に迫られたのだろう、沙羅の事だきっと佐野が怖くて誰にも話せなくて悩んでいたのか。

 丁度良くもう少しで俺の誕生日会がある、その時話し合うとしよう。


 ~その日の夜~


 傑は4人のグループチャットで話した。


『なぁ、俺の誕生日会いつも通り俺の家で良いか』

『えぇ、大丈夫よ』

『私もいいよ』

『えっと、大丈夫』


 ん?春香だけ返事が遅かったがまぁ、いいか。


『おっけーじゃあよろしくなー』


「はぁー」

 

 傑は落ち着いて連絡をしていたが内心ではかなりイライラしていた。

 3人が少しずつ自分から離れて行っていて、自分の思い通りにいかない事に。

 そして、佐野はどうせ直ぐに問題を起こして3人に嫌われると高を括っていたがそうならない事に。

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