20話 進んだ関係

 ★神谷 傑(side)


 最近全然上手く行かない。

 愛が佐野の事を最近ずっと気にしている、その上春香まで佐野と話し始めた。

 意味が分からない、なんで急にそんな事になっているんだ。

 気に食わない。


 春香がこれ以上佐野と仲良くならないようにしようと思い春香と帰ろうとした。

 あっさりいいよと言われ一緒に帰る事にした。


 しかしいくら話かけても返事が素っ気なかった。

 あっという間に家の近くに着いた。

 春香が「じゃあね」と言って来た。

 俺は焦って家に行きたいと言った。

 中学の頃はよく行ってし、むしろ春香の方から来てと言って来ていた。

 だから勿論良いと言われると思い、我ながら良く言ったと思った。


 そしたらまさか断られるなんて…

 意味分からなくて口論になってしまった。

 それからあの事件が起こった。

 

 俺は逃げた後、直ぐに帰って部屋に入った。

 春香には悪いけどあの状況で俺に出来る事は無かった。

 勿論逃げた事に対する後悔もあった。

 今思えば警察に連絡するなり近所の人に助けを求めるなりと出来る事はあったんじゃないかと考えていた。

 そんな事を考えていたらいつの間にか寝ていた。


 次の日春香は学校に来なかった、愛が言うには体調不良らしいけどそんな訳無い。

 春香が今どうなってるか想像したら吐きそうになった。

 それと、佐野が暴力沙汰で病院に運ばれたと噂がたった。

 俺はそれを聞いて、少し元気になった。

 やっぱり佐野は佐野だ、噂はやっぱり本当だったんだと。


 月曜日に登校したら春香がいた。

 見た感じは特に変化はない、俺は恐る恐る挨拶をした。

 予想とは裏腹に普通に返事をされた。

 話してみたらあの日あの後、警察が来て何事も無く助かったと、そう言われた。

 しかも、その時の事は気にしなくて良いと言われた。

 俺は安心した、もしかしたらもう話せないまで思っていたからだ。


 俺はここ数日の憂鬱な気が一気に晴れた。

 

 しかしその後春香がずっと佐野と話していた。

 勿論面白くは無いが、今は気分が良かったからスルー出来た。

 昼休みに春香と食べようとしたら、居なかったから愛に聞いたら、佐野とどっか行ったと言われた。

 

 流石に我慢出来なくなり探しに行くことにした。

 人に聞いてみたら、どうやら屋上に行ったらしい。

 最近危険な目にあったばっかりで、次は佐野だ。

 佐野は先日暴力事件を起こした奴だ、春香を危険な奴と一緒にする訳には行かない。

 前は逃げて後悔した、しかしもう逃げない、絶対に佐野から救って見せる。


 そう意気込んで屋上に行った。

 何故か春香は佐野を庇っている。

 恐らく何か吹き込まれでもしたんだろう、そう思うと更にイライラした。

 チャイムが鳴ったので腕を掴んで帰った。

 放せと言う割には抵抗しなかった。

 これではっきりした、春香が何らかの理由があり佐野と一緒にいるという事だ。


 傑は気付いていない、春香はただチャイムが鳴ってどうせ教室に戻るから無理に抵抗して遅れたくなかっただけな上に、悪琉と一緒にいる理由がただ悪琉の事が好きだというシンプルな理由だと考えもしなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 テスト当日の金曜日


「はぁ~テスト終わった~」


 やっとテストが終わった。


「悪琉~」

「あぁ、春香、テストどうだった?」

「う~ん、まぁまぁかな?」

「何で疑問形なんだよ、ちゃんと勉強しろよ?」

「へへ、分かってるよ、悪琉こそ赤点無いといいね」

「ある訳ないだろ」

「ほんとかな~」


 俺的には恐らく5教科全部100点だと思ってるので、春香は結果が出たら驚くんだろうなと思いつつも、春香の驚いた顔が見てみたいので、内緒にしよう。


「あ、春香今日家行っていいか?」

「うん!いいよ!おかーさんに連絡するね」

「悪いなホントは予め言っておかないとなんだけどな」

「悪琉なら大丈夫だよ、むしろおかーさんは喜ぶよ」

「そうかなら良かったよ」

「じゃ、一緒に行こっか」

「あぁ」


 にしてもやっぱ注目されてるな、学校中の皆がこっち見て来るな。

 最近一緒にい過ぎて忘れてたけど、幼馴染3人組は学校の三大美女って言われてるんだったな、そりゃ目立つよな。

 男子からは嫉妬の声が凄いけどまぁ、最初より嫌悪の視線は大分減って来たな。

 嫌悪の視線と比べたら嫉妬の視線は全然ましだな、当たり前だけどな。


 下校中他愛のない話をしていたらあっと言う間に七瀬家に着いた。


「お邪魔します、香織さん」

「あら悪琉君待ってたよ~」


 そう言って香織さんが抱きしめて来た。

 俺はまぁ、恥ずかしい気持ちが無いとは言わないけど、男としては嬉しいので受け入れた。

 顔に出ないようするのは難しいけどね。


「ちょっとおかーさん!何してるの!悪琉も何で普通に受け入れてるのよ!」

「あらあら、春香ったら随分と悪琉君と仲良くなって、悪琉呼びになったのね」

「ちょっ、変な事言わないでよ!、てか早く離しておかーさん」

「ふふっ」


 そう言って香織さんはキッチンに向かった。


「ちょっと悪琉!人のおかーさんに欲情しないでよね」

「おいおい、俺を何だと思ってるんだ」

「ふんっ」


 こう言って春香と冗談言える仲になったんだな、と思うと何だか感慨深いな。

 まぁ、香織さんに欲情するなは、ちょっと難しいけどな…。


 春香の部屋に移動して俺たちは本を読んでいた。

 春香曰く、沙羅が好きでその影響で軽く読むようになったとの事だ。


「ねぇ、悪琉?」

「何だ?」

「悪琉の誕生日っていつ?」


 因みにそんな事を聞いて来る春香は腕と腕がくっつくほど近い距離にいた。

 そのせいで俺は漫画に全然集中出来ていない。

 参考までに前世の俺は女性経験は結構多い方だった。

 でもね、春香の可愛さは、前世の誰よりも圧倒的に可愛いんだ。

 流石に俺もドキドキしちゃうよね。

 俺は平然とした感じを装っていた。


「6月25日だぞ」

「もうすぐじゃない」

「後一ヶ月後だな」

「誰かと祝ったりするの?」

「あぁ、今年は両親と一緒だな」

「ふ~ん、じゃあさ26日は空けて、家きてよ!おかーさんも祝いたいと思うからさ」

「え?祝ってくれるのか?」

「あっ、当たり前じゃない、ま、まぁ、私がじゃなくておかーさんがね」

「ふ~ん、じゃあ春香は祝ってくれないのか?」

「そ、そんな事言ってないじゃない!」


 そう言って、春香は顔を赤くして腕をポコポコ叩いて来た。


「じゃあ、春香と香織さんの誕生日はいつだ?」

「ふふふ、聞いて驚かないでよ、それがね実は私が1月23日でおかーさんも1月23日なんだ」

「え?まじかそんな事あるんだな、母子揃って同じってちょっと面白いな」


 まぁ、知ってたんだけどな。


「だからね、私とおかーさんは23日にお互い祝い合うって言うのが当たり前なんだ」

「へぇ~幼馴染組でも祝い合うのか?」

「うん、皆には24日に祝ってもらってるよ」

「へ~、23日さ俺も参加していいか?」

「え?何当たり前の事聞いてるの?」

「そ、そうか、なら参加させてもらうな」

「う、うん」


 少しの沈黙の後


「ねぇ、悪琉ってさ好きな人とかいるの?」

「う~ん、正直に言うと好きかは分からないけど、大切に思ってる人は何人かいる、かな?」


 これは噓じゃない、前世の俺は幼馴染3人組の事がお気に入りだった。

 でも、ゲームの世界の彼女らとこの世界の彼女らは、傑ほどじゃないが、多少なりとも違いがある。

 その、違いに戸惑う事もあり、まだ心から好きとは言えない。

 ゲームの世界の彼女らと、この世界の彼女らを重ねたくないからだ。

 俺が自信をもってこの世界の彼女らが好きと言えるようになるまでは、好きと口にはしたくない。

 まぁ、でも強いていうなら、香織さんはゲームでもほとんど出てなかったし、好きと言えるレベルなのかもしれない。


「大切なひとねぇ~、それって私は入ってる?」

「あぁ、入って無きゃ自分を犠牲にしてまで、必死に助けたりしないぞ」

「ならいいね」


 その瞬間、唇が温かくなった。

 そう、春香が唇を重ねて来たのだ。

 唇が離れ見つめ合う。

 お互いに顔が真っ赤になってるのが分かる。

 そしてもう一度唇が重なり合う、今度は舌も交えた深いキスだ。

 数分間唇を重ね合っていたら


「2人とも~ご飯の用意出来たから、こっち来て~」


 そう香織さんの声が聞こえて来たので、唇を離した。

 お互い少しだけ見つめ合ってから目を反らした。

 少し時間を空けて2人で向かった。


 食事中自分でも分かる位、春香と話せてない。

 香織さんは何があったのかお見通しかのように「あらあら、ふふふ」と言ってニコニコしていた。

 結局食事が終わるまでろくに話す事が出来なかった。


 帰る時間になり、香織さんが


「春香~悪琉君の事玄関前まで見送って来てね~、ふふふ♪」

「う、うん」


 香織さんは明らかに楽しんでいるなって感じる。

 玄関の外に出た。


「「なぁ(ねぇ)」」


 声を出すタイミングが重なった。

 俺は先にどうぞとジェスチャーをした。


「キ、キスした事を受け入れてくれたって事は嫌じゃ無かったんだよね?」

「あ、あぁ、むしろう、嬉しかったぞ」

「そ、そう、なら良かった、何であんたが好きじゃ無いのに大切なのかは分からないけど、絶対に好きにさせるからね」

「うん、お手柔らかにな」


 そう言って2人が無言になって、次第に顔が近づいて再び唇を重ねていた。

 今回は唇だけの軽いキスだった。

 お互い真っ赤になった顔で言った。


「じゃ、じゃぁまた月曜日にな」

「う、うん、またね」


 そう言ってお別れした。

 少し歩いた後俺は夜風が気持ち良く空を見上げた。

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