19話 気持ちの変化

★七瀬 春香(side) 


 事件から数日が経って、私とおかーさんはすっかり元気になった。

 

 私は1人で考えていた、事件の事を愛ちゃんと沙羅ちに話すかどうかを。

 でも終わった事をわざわざ言って2人に心配かける必要も無いよね。

 そう思い2人に隠す事にした。


 この時私の中の傑への想いは完全に無くなっていた。

 変な事を吹聴していたり、あっさり見捨てられた事、それらが重なっていたからだ。

 いや、それよりも佐野が上書きした、と言った方が適切かもしれない。


 でも、まぁ、傑が本気で向き合ってくれたら、友達関係位は保ってもいいとも思っていた。

 恋愛感情が無くなった今となっては、噂とか正直どうでも良くなっていたからだ。

 私的には佐野が誤解してなければそれで良かった。


 事件があったのは木曜日で佐野が退院したのが日曜日。

 事件翌日の金曜日は私も佐野も学校を休んだ。


 月曜日になり私は少し早めに登校した。

 愛ちゃんと沙羅ちはいつも早めに登校しているので勿論教室に既にいた。

 休んだ理由は体調不良って事で連絡を取り合っていたので特にいつもと変化は無かった。

 

 そんな時、傑達の声が聞こえて来た。


「なぁ、傑この前の噂どうやら本当っぽいぜ」

「まじでか!証拠みたいなのはあるか?」


 噂?傑があんなに興味持つ様な事だから少しだけ気になるな。

 そんな事を思っていた。


「証拠は無いけど、俺の友達の母親が働いてる病院に気を失ってる佐野が運ばれて来たって言ってたぞ」

「ハハハ!やっぱりそうだよな!!」


 そんな事を言ってる傑は気味悪くニヤニヤしていた。

 それが気味悪く少しだけ引いた。

 佐野の噂については余り気にする事は無かった。

 だって佐野自身どうせ全く気にしないであろうから。

 それに、例え私の事が原因であろうと、それを私が気に病む方が佐野は気にしてしまう事も分かっていたからだ。

 佐野はそんなお人好しだ、そんな事を考えていたら、

 

「ふふっ」


 そう声が漏れてしまった。

 愛ちゃんと沙羅ちが不思議そうにこっちを見ていたが、何でもないと誤魔化した。


 教室でスマホをいじっていたら、急に教室が静まり返った。

 私はその瞬間、佐野が来たと理解して佐野の方を見ると、少し固まってしまった。

 病院の時と同じように話しかけよう思っていたのに、教室だと人がいっぱいいて何故か凄く緊張した。

 それに佐野を見ると病院で話していた時よりドキドキしていて心臓の音がうるさかった。


「春香?」


 ふいに愛ちゃんの方を見たらびっくりしたような顔でこちらを見ていて我に返って気づいた。

 愛ちゃんが表情を変えるほど私は自分の世界に入っていたのだと。

 

 私は愛ちゃんに「何でもないよ」と笑ってごまかして佐野の方に向かった。

 私が佐野に話かけたら、「春香」と呼ばれた。

 私は自分でも信じられない位顔が赤くなっていると分かった。

 ドキドキし過ぎてその場から逃げた。


 私は意を決して休み時間の度に佐野と話した。

 その時、悪琉と呼んでみた、凄く恥ずかしかった、顔も熱かった。

 そんな私を見て悪琉は一瞬びっくりしていたが直ぐに笑顔になった。


 昼休みになり悪琉呼びにも慣れてきて、普通に話せる様になっていた。

 時々冗談で笑わせて来る悪琉と一緒に話す時間は凄く落ち着けた。

 そんな幸せな時間に邪魔者が来た。


 傑が悪琉の事を悪く言って来た。

 私は自分でもびっくりする位イライラして言い返していた。

 チャイムが鳴って、傑に腕を掴まれ教室まで連れてかれた。

 その間は無言だった。


 私は自習の時間考えていた。

 たしかに傑には、あの日あの後誰かが通報してくれて警察が来て何事も無く解決したと、そう伝えた。

 私は怒ってもいなかったから、気にしなくて良いともいった。

 だからいつも通り話すのは別に良い。


 でもね、悪琉に関して何か言って来るようなら、私も黙っていないよ?

 今は、愛ちゃんや沙羅ちが居るから余り拒絶しないだけだよ?

 2人には迷惑かけたくないからね。

 

 そんな事を考えていた翌日、愛ちゃんと沙羅ちと話した。

 そこでなんとなく分かった。

 愛ちゃんが悪琉の事が好きなんじゃないかと。

 私は嬉しくなった、2人とはずっと一緒にいたい、将来違う人を好きになったら必然と一緒にいる時間は減る。


 だから、愛ちゃんの気持ちを知り思いついた。

 3人で悪琉の事を好きになれればと。

 そんな事を思ったけど、誰かの気持ちを操るみたいな事は違うなと感じた。

 それになんとなくだけど私は予想していた、私が何かする必要も無く皆が悪琉に好意を寄せるんじゃないかと。


「ふふっ、何の根拠もないけどね♪」


★矢野 愛 (side)


 私はいつも通り学校に来た。

 何故か佐野君と春香が居ない。

 佐野君と春香に連絡したら、佐野君は何故か返信が無い、春香は体調不良と返って来た。


 佐野君からの返信が2日も無く心配していた時返信が来た。


『すまん、訳あって返信出来なかったけど、大丈夫!月曜日からは登校する』


 そう返信が来てほっとした。


 月曜日になり登校した、席に着き持って来た小説を読み始めた。

 春香はいつも通りの様に見えたけど、何故か傑とはギクシャクしていた。

 何を話しているのかは聞こえないけど、春香は笑顔だけど何処か寒気がする感じで、傑はおどおどしている。

 そう思ったら、傑が急に元気になった、最初はヤバくなったら止めようと思っていたけど、大丈夫そうだったので、読書を続けた。


 教室が静まり返った、佐野君が来たんだなと思い彼の方を見た。

 色々変な噂が出回っていたけど、元気そうな彼を見て安心したので読書を続けようとして、視線を戻そうとした時、春香の異変に気付いた。

 4日前会った時は全くそんな感じじゃ無かったのに今の春香の顔はまるで、恋する乙女そのものだった。

 私は驚き過ぎて「春香」と声が漏れた、そんな私に気付いて春香は「何でもない」とだけ言って佐野君の方に歩いて行った。


 そう思ったら直ぐに帰って来た。

 何があったのか、顔を真っ赤にして机に伏せた。

 しかもその後、休み時間の度に佐野君と話しているし、トイレに行く時に聞こえた、春香が悪琉と呼んでいた。

 何があったか聞きたかったけど何となく春香には聞きずらくて聞けなかった。


 家に帰って佐野君にLIMEしたら佐野君からは話せないと言われた。

 私の知らない所で春香と佐野君が仲良くなっていて少し胸が痛くなった。


 次の日の昼思い切って春香に聞いた。

 最初は少し渋っていたけど話してくれた。

 想像以上に衝撃的な内容だった。

 当たり前だけど佐野君の好感度が上がり、傑の好感度は下がった。

 傑との関わり方を少し考え直す必要があるなと感じた。


 そんな時沙羅が言って来た。

 佐野君の事をどう思っているのかって、しかも自分でも好意を隠せてないらしい。

 春香は明らかに佐野君の事が好きなんだろう、笑顔が今までに見た事無いくらい素敵だ。

 そんな春香が眩しくて私は自分自身に正直になれなくてつい、「分からない」と言ってしまった。

 

 でもそれと同時に、胸がチクって痛くなった。

 自分に正直になれない事が凄く嫌だった。

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