13話 神谷傑の思惑&七瀬春香の気持ち

★ 神谷傑(side)


「なんで愛も春香もあんな奴の事を気にしてるんだよ、普通ありえねーだろ」


 傑はどうしても気に食わなかった。

 傑からしたら佐野は危険人物だった、何故なら決して自分以外の異性と仲良くしようとしなかった愛の事があったからだ。

 そして、バスケ部1年のエースは完全に佐野に持っていかれて、中学の頃期待してくれてた拓海先輩が佐野の事を滅茶苦茶気に入って、佐野とばっかり話している事。

 それに今日春香は朝からやけに笑顔だった、何か良い事があったのだろうと思っていたのだが特に気にはしていなかった、しかし昼に佐野と話してから明らかに笑顔が更に増えていた。

 俺は何かがあったんだと思い何の話をしていたのか聞いたが、大した事ないと適当にはぐらかされた、だがそんな訳が無い大した事なければこんなに嬉しそうな顔をする訳が無い。


 傑は中学卒業前位から少し焦っていた。

 幼馴染3人は自分の贔屓目無しにしても明らかにレベルが高い。

 それ故に滅茶苦茶モテモテだ、卒業シーズンになりそれが浮き彫りになった。

 卒業って事もあり玉砕覚悟で大勢の人から告白されていた。

 サッカー部のエースや、御曹司のイケメン、SNSで100万フォロワーを獲得しているインフルエンサーなど、自分よりハイスペックな人にも告白されていた。

 幸い3人とも全て断ってはいたけど、高校になっても同じとは限らない。


 そこで傑が思いついた作戦は、まずクラスの男達に既に結婚の約束をしていると噓をつき周りに近づかないようにしようとした。

 その作戦は思いのほか上手くいって、クラスの皆はそれを信じて誰も近寄ろうとしなかった。

 3人の耳に入ると少しまずいなと思っていて女子がいる前ではそうゆう話をしないように意識していた。

 愛と沙羅に関しては友達を作ろうとしなかったから別に問題ないのだが、春香はクラスの女子全員と友達になっていた。

 しかし、春香はそんな話は知らないようだった。

 だから俺は安心した。


 しかし、クラスの男子は誰も3人に近寄ろうしないのに、1人例外いた、それが佐野悪琉だ。

 愛と春香に近づき、自分の楽園を荒らす異物。

 愛の異変から傑は注視していた、少し観察してみて分かった、愛は今まで俺と家族以外と連絡先を交換していなかった。

 しかし、笑顔でスマホをいじっていていたので少し覗いてみたら佐野とLIMEしていたのだ、傑はそれを見て頭がぐるぐるした。

 

 以前傑は愛はただ脅されているだけだと思っていた、しかし今の愛の表情を見るに明らかに嫌がって居なかった、寧ろその逆の表情していた。

 それを理解した時、傑は正常に頭が働いて無かった。

 それ故に、洗脳された、そう解釈してしまったのだ。


 そんな中、佐藤と坂口に聞かれた。


「しっかし傑ってホントついてるよな~」

「な~、あんな可愛い幼馴染3人と結婚の約束までしてるなんて普通ありえねーよ」


 傑はこの時間が堪らなく好きだった、幼馴染3人と仲良い事で羨ましがられる事が気持ちよかったからだ。

 傑は自分自身にあまり自信が無かった、それでもプライドが高かったのだ。

 それ故傑は何時からか3人を自分の物だと思うようになっていたのだ。

 

「ま~な、昔からずっと一緒にいたし、運命共同体みたいな感じかな、親同士も交流があるしな~」

「んで、実際どうなんだよ傑?」

「どうって何がだ?」


 分かって居なかった訳じゃないただそれは流石に言いづらかった。

 その答えの真実を言うとすれば、頬っぺたにキスまでしかしていない、しかも小学の低学年の頃だ。

 プライドの高い傑は言える訳が無かった。

 その故分からない振りをしたのだった。


「いやいや、三人と結婚の約束してるんだろ?それなのに何もしてない何て普通ありえねーだろ」

「それな~、何もしてないなんて流石にヘタレ過ぎる」

「はぁ~お前らな~、俺がそんなヘタレな訳ないだろ」

「お?それで実際何処まで行ったんだ?」

「そんなの最後まで行ったに決まってんだろ、てかそんなの中学で済ませるに決まってるだろ」


 煽られた俺は引くに引けなく事実無根な事を言ってしまった。


「ふゅー、流石傑だぜ、いいなぁ~俺なんて女子と付き合った事もないぞ」

「佐藤の話なんてどうでもいいんだよ、んで、ヤってみてどうだったんだよ!」

「確かに!それめっちゃ気になるわ」


 勿論、そんな事は知らないしかし2人からの反応が気持ち良く調子に乗っていた。


「あー、滅茶苦茶良かったぞ、お前らもやってみればわかるぞ」

「どの位の頻度でやてるんだ?」

「ん~部活もあるし、一人につき週2回位だな」

「えぇー滅茶苦茶やってんじゃねーか」

「はは、まあいいだろ、さっ、早く帰えろーぜ」


 それ以上はボロが出ると思った俺は、話を反らした。


 傑は嘘に罪悪感が無かった訳じゃ無い、初めは少し抵抗があった。

 しかし嘘を重ねて行く内に、皆の反応が気持ち良くて次第に抵抗が亡くなっていたのだ。

 故に3人に掛かる迷惑など微塵も考えて居なかった。


 傑は思ってもみなかった、影で聞いている人が2人もいるなんて。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

★ 七瀬 春香(side)


 私は今混乱していた。

 昔から好きだった人が最低な嘘を広めていた事に、それも私達に気付かれないような手口で。

 私は自分から色々な人と話すから少し前から少し違和感は感じていたが、まさかこんな事になっているとは思ってもみなかった。

 

 普段私達以外と話そうとしない愛ちゃんと沙羅ちは全く持って怪しんですらいないだろう。

 この事実を2人に伝えるか迷う。

 愛ちゃんはまだ大丈夫だろうが、沙羅ちにはかなりショックな話だろう。


 それ以上にこんな話をしてしまったら小さい頃の4人の絆が崩壊するなんて事は想像出来る。

 

「はぁ~~、傑……、そんな嘘つくような人じゃなかったのに……」


 小さい頃から誰にでも優しく、人を傷つける様な嘘をつく人じゃ無かったのに。

 

「この話は1人で抱えるにはきついな……」


 沙羅ちにはきついだろうけど、愛ちゃんには相談しようかとも思った。

 しかし、幼馴染4人の絆を壊すのが怖い。


「もう少し様子見てみるしか無いかな……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る