11話 悪琉と父親


 俺は家に着き考えていた。

 たまたまとは言えまさかの七瀬家との繋がりを得る事が出来た。

 始めは春香と仲良くなって行く予定だったがまさかの母親の方と仲良くなる事が出来た。

 取り立てが来るのが丁度一週間後だ、それに合わせて俺も家にお邪魔させて頂く事になった。

 流石に2000万となると家からしたら大した額では無いけど両親に相談しないとマズイ、それに念のため父親の力を借りた方が確実に七瀬家を救う事が出来る。

 佐野悪琉は親に愛されていないと思っていたらしいが、実はそんな事は無い。

 ゲームでは両親があまりの忙しさに悪琉に構ってあげられていない事に心を痛めていた、その為悪琉が荒れていても強く注意する事が出来ていなかったのだ。

 父親も母親も心から息子の事を愛していたのだった。


「はぁ~それを知っているとは言え、ずっと話していなかった訳だからな~」


 正直父親と話すのは緊張する、いずれは仲良くなる為に頑張るつもりではいたが、こんなに早くその時が来るとは思っていなかった。

 

「よし!覚悟を決めるか」


 そうして電話を掛けた。


『悪琉?』


 やはり父さんは戸惑っていた。


『えっと、久しぶり父さん』

『あ、あぁ、久しぶり』

『知ってるかも知れないけど、色々心配かけてすいませんでした』

『いや、俺たちの方こそ済まない、仕事とはいえ小さい頃から一緒にいてやれなくて済まない』

『大丈夫、俺も思う事があったし、高校からは真面目に生きていくって決めたから』

『何があったか分からないけど、今度ちゃんと三人で話そうか』

『うん、そうだね』

『母さんと話して次お前の誕生日に皆で祝わせてくれないか?その時三人で話そうか』

『勿論大丈夫だよ』


 最初は緊張したけど思ったより普通に話せた。


『それで、急に電話して来て何かあったのか』

『うん、実は……』


 俺は包み隠さず話した、七瀬家の事、春香に笑顔でいて欲しい事、香織さんと初めて会ったけどその上で助けてあげたい、自分の中で香織さんに対して大切な思いがある事など。全てを話した。


『なるほどな、お前の中でその人はそこまでして助けたい人なんだな』

『うん』

『俺が言える事でもないかも知れないが、正直思う所が無い訳では無い。お前が生まれてから俺達がしてあげられ無かった思いを一回会っただけで与えたって言うんだからな』

『……』


 俺は何て言えば良いか分からずに言葉が出なかった。


『だがこれはただの嫉妬みたいな感情だから、お前は気にする必要はない、お前が助けたいのなら助けろ、父さんに出来る事はする、お前はお前に出来る事を』

『ありがとう父さん』

『あぁ、任せろ』


 久しぶり聞く父さんの声だけど、嬉しそうに感じた。


『それでその春香ちゃんってのは、お前の恋人なのか?」


 父さんは少しからかって来るようにそう言って来た。


『そんなんじゃないよ、ただ元気でいて欲しいだけだよ』


 この気持ちに嘘はない、ゲームのプレイヤーの頃は三人とも好きだった、誰が推しとかなく本当に皆同じ位好きだった。

 だからこの世界で関わりは無かったが、見ているだけでも充分だった、しかし愛と仲良くなるにつれ欲が出て来たというのも事実だった。

 でも、その気持ちは出来るだけ表に出さないようにしていたのだ。

 悪琉はあくまでもヒロイン三人の幸せを願っていたからだ。


『ははっ、まぁそう言う事にしておこう、でも今度紹介しろよ』

『そうだね、それは約束するよ』

『あぁ、じゃ、仕事中だから詳細はLIMEで送ってくれ』

『うん、ありがと、じゃあまた今度』

『あぁ』


「はぁ~良かった~」


 想像以上に話が上手く行った。

 父さんとも関係も修復出来そうだし、七瀬家の事の解決できそうだ。

 香織さんはよっぽどじゃ無い限りはお金は受け取ってくれないだろう、だから取り立てが来た時その場に居合わせる必要がある。

 相手はここら辺じゃ有名な裏組織の奴らだ、お金だけじゃ解決出来ない可能性もある。

 その為に顔が広いお父さんに上から圧を掛けられるように話を通してもらう事にした。


「よし!完璧だ、これなら間違いなく大丈夫だろう」


 後は一週間後まで待つだけだな。


 次の日学校に行ったら春香に話しかけられた。


「ねえ、ちょっといい?」

「ん?なんだ?」

「昼休みになったら屋上に来なさい」

「あ、あぁ」


 よりにもよって傑が隣にいるの時にそんな事言って来るから傑の顔が凄いことになってる。

 そしてなぜ愛はこっちを睨んでるだ。

 朝から厄介な事になりそうだと思いながら席に着いた。


「なぁ、春香、何であいつを呼び出したんだよ」


 傑が険しい表情でそんな事聞いていた。


「大した理由じゃ無いから、気にしなくていいよ」

「それでも心配なんだよあいつの噂は聞いてるだろ?」


 おいおい、本人がいると所で普通そんな事言うか普通。


「大丈夫何も校外で会う訳でも無いんだから、流石に学校で何かされるなんて事も無いでしょ」

「まぁ確かにそうか、でも何かあったらすぐ言えよ」

「うん、心配してくれてありがとう」


 春香がそう笑顔で言ったら傑はあからさまに鼻の下を伸ばして照れていた。

 そんな様子を見ていたらスマホが鳴った。


『春香と何があったか分からないけど、変なことしないでよ』


 愛からそんなメールが来た。

 そんな信用ないのかよと思いつつ愛の方を見たら相変わらずこっちを睨んでいた。

 俺は苦笑いをしながらメッセージを返した。


『大丈夫だって、真面目に生きていくって言ったろ』

『ならいいわ、信じる』


 そんな返信が来たので俺は愛に向かって笑顔で手を振った。

 そうしたら愛は目を反らして、少し頬が赤くなっていた。

 俺は愛の笑顔で周りが見れてなかったので気付かなかった。

 そんなやり取りを見て、横で隠すつもりもなく凄い剣幕でこちらを見ている傑がいた事に。

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