10話 七瀬家の事情

 春香と香織さんが帰ってきて香織さんがキッチンに行って、春香と二人きりになった。

 春香は警戒しながらも少し離れて座った。


「一応お礼を言っておくわ、おかーさんを助けてくれてありがとう」

「いや、お礼を言われるほど大した事してねーよ」


 俺がそう言うと、春香は一瞬キョトンとしたが直ぐに、真剣な顔になった。


「ふ~ん、まぁ、少しは信用してもよさそうね」

「良く分からんが、ありがとう?」

「勘違いしないで、ほんの少しだけだからね、おかーさんに何かしたら許さないから」

「俺を信用出来ないのは当たり前だけど、心配すんな絶対そんな事はしないから」

「そ、ならいいわ」


 そんな会話をしたらお互い無言になった。

 そんな空気に耐えられなくなったのか春香は


「私部活終わりで汗かいてるから風呂行くわ」


 そう言って急いで離れて行った。


「ふぅ~、まさか香織さんが春香の母親だとはな」


 そう考えたら何故初めて会ったきがしなかったのかが理解出来た、香織さんはゲームだと数回しか姿を見せなかったからあまり覚えて居なかったのだ。


「予想外だけど、これは好都合なんじゃないか?これを機に信用を勝ち取る事が出来れば」


 そう思い香織さんと距離を縮める為に春香がいないうちに話す事にした。


「あの~、香織さん」

「うん?どうしたの~」

「先ほど、娘と住んでるって言ってましたが、春香さんの父親とは別に住んでいるんですか?」


 俺は勿論分かってはいるが、仲良くなる為に必要な会話だと思い話した。


「夫なら春香が小さい頃に亡くなってるわ」

「あっ、すいません」

「ふふっ、大丈夫よ」

「それでそんな体調悪くしてまで働いているんですね」


 人様の家庭事情に首を突っ込むのは間違っている事だと分かってはいるが、時間がないから今はそんな事はいってられない。


「うん、それもあるわね……」


 そう言った香織さんは少し表情が暗くなった。

 俺はもう少し踏み込めるんじゃないかと思い踏み込む事にした。


「えっと、もしかしたら、他にも何か理由があったりするんですか」

「…………」


 その質問をしたら香織さんの手が止まり、明らかに苦しそうな顔になった。


「どんな理由か分かりませんが、春香さんはその事について知ってるんですか?何か香織さんは一人で全部背負ってる様に見えるのですが」

「…………」


 何も言わない香織さんに話続ける。


「高校生の俺に出来る事は少ないと思いますが、話位は聞かせて欲しいです、もしかしたら助けられるかも知れませんし」

「そんな迷惑は掛けられないわ」

「少し俺の話をしますね」


 返事をしない香織さんだったが、俺は話し始めた。

 俺は自分の親が仕事ばかりで小さい頃からほとんど家では一人ぼっちだった事、そのせいで、中学まで寂しさを埋めるために荒れていた事、それでも踏ん張って今の自分がいる事、そんな事を話した。

 そんな話をすると、香織さんは涙を流して抱きしめてくれた。

 その時何故か俺自身からも涙が溢れて来た。

 自分でもびっくりだが恐らく、佐野悪琉自身の感情と俺の感情が知らない内に同期していたのだろう、香織さんから母親としての温もりを感じて、涙を抑える事が出来なくてただ泣き続けた。


 数分間膝を床につけ泣きながら抱き合っていたら春香が風呂から上がり見られてしまった。


「ちょっと!!!二人とも何してんのよ!!!!」


 そう言われ俺は慌てて離れようとしたが、香織さんは優しく微笑みながら頭を撫でてくれた。

 そんな香織さんの表情は何処かスッキリとした感じだった。

 春香もそれを感じたのか、それ以上何も追及して来なかった。


 料理が出来て三人で食べていた。

 少し重い雰囲気だったが、居心地は不思議と良かった。

 食事を終えて玄関に行くと香織さんが少し話したいとの事だったので、公園のベンチで話す事にした。


 香織さんは少し戸惑ながらも話し始めた。


「実はね……」


 香織さんは恐る恐る話してくれた、父親がギャンブル依存症で多額の借金を抱えていた事、今現在その多額の借金を香織さんが抱えている事。

 無理してでも働かないと借金を返せない事。

 春香には楽しい青春を送ってもらいたくて、その事を話していない事。


「そんな事があったんですね…」

「ごめんなさいね、こんな重い話してしまって」

「大丈夫ですよ、それでどの位の借金があるんですか?」

「えっと、残り2000万位かしら…」

「なるほど、春香さんが大学に行きたいって言ったらどうするんですか?」

「そ、その時は行かせてあげるつもりよ…」


 自分でも厳しいと分かっているのか、少し言いよどんだ後にそう言った。


「春香さんにはいつ打ち明けるんですか」

「そうね、春香が働き始めたら教えるわ」

「なるほど、でも春香さんはそれを知らないまま大学を卒業したら、後悔すると思いますよ、あくまで大学行くのであれはの話ですけど。」


 そう、表には出さないで自分の中で自分を責め続ける、七瀬春香とはそうゆう性格だ。


「うん、分かってるわ、でもね、あの子には何も心配せずに青春を送って欲しいの」

「そうなんですね…」

「うん」


 少しの間無言続いだが俺はもう少し踏み込む事にした。


「お金を借りた人って安全な人なんですか」

「えっと、少し言いづらいだけど、世間で言うと闇金って言うのかな」

「えっ!それって危なくないですか?ただでさえ女性の二人暮らしなのに、取り立てとか来たりしないんですか?」

「何度か来ていたわよ、その度にまとまったお金を渡して何とかなっていたわよ」

「良く春香さんにばれませんでしたね」

「少し怪しまれてはいると思うわよ、ただ借金の事まではばれて居ないと思うけど」


 確かに春香はそんな鈍感な方じゃない、いくら香織さんが隠すのが上手いとは言え完璧では無い。


「あの、香織さん、もし良ければ借金代わりに払わせてくれませんか?」


 そう言うと香織さんは目を見開いて驚いたのち言った。


「流石にそこまでやって貰う義理はないわ、それに佐野君がいくらお金持ちとは言え、それは両親のお金でしょ」


 香織さんに笑顔でそう返された。

 当たり前だ、普通あったばかりの人にそこまでさせる訳が無い。

 

「そうですね、でも本当にやばかったら絶対に頼って下さいね、始めてあった人にこう言うのも変だと思いますが、俺は勝手に香織さんに温かさを感じて自分の母親以上に母親だと思ってるんです」

「ふふっ、そう思ってくれてるのね、全然変なんかじゃ無いわ、寧ろもっと母親とおもって甘えてくれてもいいのよ」


 香織さんは冗談交じりにそう微笑んだ。

 俺はその顔を見て、初めて感じる心地良さを感じた。

 そして俺も冗談交じりにこう言った。


「はい、なら香織さんも僕の事を息子だと思って、何でも頼って下さいよ」

「ふふっ、そうさせて貰おうかしら、さっ、そろそろ帰りましょう」

「はいそうですね……、あの~」

「どうしたの?」

「また晩御飯食べに行っていいでしょうか?」

「勿論大丈夫よ何時でも来てね」

「はい!なら1週間後にまたお邪魔します」

「えぇ、待ってるわ」


 そう言って春香の事を思い出した。


「えっとそれでですね」

「言わなくても分かるわよ、大丈夫よ春香の事でしょ」


 なぜ分かったのか分からないが、初めて会ったのに香織さんには全て見透かされてるような気がした。


「はい」

「その事は私に任せてくれれば大丈夫よ、それに春香も悪琉君のそこまで悪い印象持って無いと思うわよ」

「だといいんですが、では、帰りますね、ありがとうございました」

「お礼を言うのは私の方よ、また来週ね、待ってるわよ」


 そう言って帰る事にした。

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