第4話「山の頂の村・3」

「それで、何なんだここ?」

「アタシが知る訳ないじゃん。」


その返答に「それもそうか。」と返す。

実際問題、明日葉はここに来ただけなのだ。ここの詳細を知ってる方がおかしいとも言える。

が、念の為だ。


「一応聞くけど、本当に何も知らないんだな?」

「………知らない。」


「「………………。」」


俺と美羽は揃って白い目を明日葉に向ける。

反応からして、全ては知らないが何かしらは知ってる、という顔だ。

この野郎、面倒事に首突っ込んだ挙句の果てに隠し事と来たか。


俺は美羽に目線で合図を送る。「合わせろ。」と。

美羽もそれに気付いて首を縦に振った。

俺は先程のお説教モード時に見せる笑顔で言葉を紡ぐ。


「そうか、知らないのかー。じゃあしょうがないかー。」

「あ、あの……宗治?」


俺が怒ってる時に見せる喋り方と笑顔でヤバいと察したのだろう。露骨に焦った顔になってるが、手遅れだ。


「うん、しょうがないよね。明日葉は。」

「ああ。ならここにはこのボロ家以外何も無いだろうね。って訳でだ。二人共、サンクチュアリに行こうか。こんな所にいるより………?」

「う、うん……、そうだね。タノシミダナー。」


邪悪な笑みを浮かべながら放った遠回しな死の宣告に、美羽が「よりにもよってそれか。」と抗議の目線を向けてくるが無視だ。

明日葉も明日葉でそれが何なのか分かってるので、速攻で青褪める。


Cafeサンクチュアリ。鶯森駅を出てしばらく歩くと存在するレトロな喫茶店だ。

コーヒーも紅茶も、出される食事も美味しいと有名なのだが、一つだけ悪名高いという意味で有名なメニューが存在する。


キングダムパフェ。城の形をした超弩級サイズのパフェで、数人がかりで挑んで、それでも撃退されて帰ってくる事もザラにある魔のメニューだ。

少し前まではもう少し大人しいサイズだったのだが、現在、流人の彼女………、というより相方の小鈴という無限胃袋によって容易に攻め落とされ、最近しなくていいアップデートをされて更に巨大化されたのだ。

俺も流人達に付き添って行ったけど、実際に現物を見た時は死にたくなるほどの大きさだった。


「まあ、大丈夫だよ美羽。せっっかく、こんなところまで歩いてきた明日葉がいるんだ。ちゃーーんと完食出来るよね?」


俺がその笑顔を明日葉に向けると、それに倣って美羽も明日葉に笑顔を向けた。

それを見た明日葉は段々と涙目になり、遂に………


「すいませんでしたぁぁぁああっ!!」


今度は明日葉の元気な謝罪が広間に響いたのだった。




◆◆◆


「なるほどね……。この山の何処かに、廃村があると。」

「そうなんだよ。それで、この家はその廃村を監視する為にあるんじゃないかって考察がネットにあってね。」

「あー、明日葉の好きそうな話だけど……本当にそんなのあるの?」


美羽の半信半疑な質問に「それが分かんないから調べに来たんじゃん。」と頬を膨らませて明日葉はそっぽを向いた。

美羽の言う通り、この手の話が好きな明日葉からすれば何としても調べたい話だろう。


「方角とかは?」

「え?その、さすがに場所までは分かんないけど……」

「……なら、このボロ家が監視目的の為に作られたと考えて……縁側のあるこっちの方角かな……。」

「え、探すの?宗治。」

「こうなったら、納得いくまで調べないと、コイツ満足しないからな…。どうせ、明日葉のお説教は確定してんだし、いいでしょ。」

「一緒に調べてくれるのはありがたいけど、そのオチはどうなの!?」


確実に訪れる未来を想像して明日葉が叫ぶが、取り敢えずスルーして縁側が向いている方角へ歩いていく。

安直かもしれないが、危険な言葉を使ってるのだ。簡単に状況を探れる縁側をそこに向けた方が気軽に探れるし、何かあった時に逃げ道は監視する側の真反対にある方がいい。

縁側が向いている方角の茂みの奥を探すと、それは見つかった。


落ち葉に隠れて見えにくくなっている、いや……されているが正しいか。苔の生えた敷石の道が奥へと続いていっている。

間違いなくこの先にあるはず。

だが、同時に嫌な予感も襲ってきた。

俺は振り返って、背後にいる2人に声を掛ける。


「あったけど、どうする?」


明日葉も美羽も、少し緊張した面持ちで考えた後、僅かに頷いた。




◆◆◆


敷石の道を歩いていくと、まだ明るい時間だと言うのに、辺りは薄暗くなった。

それはそうだろう。

自分達の頭上は生い茂る木々が生やす枝や葉によって外界からの光の侵入の大半を拒んでいるのだから。


「修学旅行で樹海に行った時の事を思い出すね。暗くはなかったけど。」

「ね。静かではあったけど、どっちかって言うと明るかったし。」


後ろにいる美羽達の会話を聞きながらも、俺は静かに歩を進める。因みにあのお狐様は俺の隣をぽてぽてと歩いている。

暗闇、とまではいかないがそれでもこの時間にしては大分暗いし、気を付けなければ敷石と敷石の隙間に足を引っ掛けて転びそうだった。

と言うより、実際に転けかけた。

心なしか、広間にいた時よりも肌寒い。


5分くらいだろうか?

まず最初に異変に気付いたのは俺で、続いて明日葉達がその異変に気付いた。


足音の感じからして一人だろう。

誰かは分からないが、可能性としてはあの家の住人だろうか?


どちらにせよ、怪しい人物の可能性だってある。

関わらないに越したことはないだろう。

俺は少しだけ歩く速度を緩めて、明日葉達に近付いて小さな声で話しかける。


「明日葉、美羽。気付いてるか?」

「うん、気付いてる。誰だろう……」

「あの家って無人じゃなかったの?」

「中に入った訳じゃないからな。実際の所は分からない。関わると面倒だし、2人は先に山を降りろ。」


2人は見た目は落ち着いているものの、声音は恐怖を感じている様だった。

それはそうだろう。何せ、正体の分からない誰かが何も言わずに付いてくるのだから。

幸い、少し先で道が二手に別れている。

俺が囮になれば、2人が逃げられる時間くらいは稼げるはずだ。


「でも、宗治……」

「そうやって躊躇うくらいなら、こんな所に来るなって。」

「それは無理。」

「しばくぞこの女。」


しれっと遠回しに今後も続けるぞ宣言をする明日葉にどうお仕置きをしようか考えながら、更に小声で話しかける。


「あそこで二股に分かれてるから、お前達は右に暫く進んでから隠れてろ。俺が後ろから付いてきてるのを左に引き付けるから、その間に………」


そう言いかけた時、後ろの人物の反応が変わった。急に走ってきたのだ。

3人+一匹、同時に気付いて一斉に走る。


少し走って、二又の道に分かれたので、明日葉達が右に暫く走ってから隠れたのを確認して、俺は追っ手を見る。

中年のガタイの良い男がひたすら全力で走ってきていた。

焦ってこちらに来ているようで、何やら予想と少しだけ違うが、俺はそれを見て左に折れようとして足下のそれに気付く。


「お前も来るのかよ……」


明日葉の方に行くかと思っていたお狐様が俺の足下で走る準備をしていたが、今更右に逃げるように言っても無駄なので「行くぞ。」と短く告げて、少しだけ走る速度を押さえて誘い込むように移動する、が……


「待て坊主!そっちは危ねえぞ!!」


本気で焦って俺を止める声に、俺は困惑しながらもぴたりと止まるのだった。

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