第3話「山の頂の村・2」
そして、今に至る。
俺と美羽は、水と軽めの食料をリュックに詰めて、閉鎖された登山道を登っていく。
何処からともなく現れたお狐様も同行中だ。
「宗治、ごめんね。私ももう少し気を付けてれば良かったんだけど……」
「美羽が気にしても仕方ないよ。アイツは俺達が望んでないにも関わらず、校長以上の災いを蒔き散らす天災だ。誰のせいでもないよ。というか、わざわざ来なくても良かったんだぞ、危ないし。」
「友達だからね、これくらいはするよ。明日葉、山降りた後はどうなるんだろうね……?」
苦笑してる美羽に「たぶん殺される。」としれっと返して、足元を気にしながら歩いていく。
俺達が登っている登山道のその状態は酷いものだった。
放置されて大分経つのか、整備などされていない様だし、その殆どが落ち葉や草に覆われてしまっていて、もはや道とも呼べない物になっている。
普通ならこの時点で諦めるだろうが、そこは木吉明日葉。彼女に常人の常識は搭載されていない。
携帯も通じないし、誰かがここに来た様な形跡もある。
明日葉がここにいる可能性は十分にあるだろう。
「美羽、崖になってるところもあるから気をつけなよ。お狐様も気を付けて。」
お狐様は俺の言葉を聞いて、俺の足元をくるくる走り回った。大丈夫という事だろう。
「うん、ありがとう。っていうか、夏じゃなくて良かったね。絶対に汗でベトベトになる。」
「たしかにな。」と返す。
リュックが重いのは構わないけど、汗で服がへばり付くのに加えて、そこにリュックまでくっつくあの感覚はなんとも言えない不快感がある。
幸い今は春で、冬の気温に少しだけ寄っている。こうして歩いている分にはまだ快適な方だった。
◆◆◆
「ふう、たまにはこういうところでお弁当食べるのも格別で………ってイタタタタタタ!?割れる割れる割れちゃう!?頭割れちゃうよ!?」
暫くして大きな広間のような場所に出て、ぽつりと佇む古い一軒家の横で、そんな事を宣いながら弁当を食べる
何が割れるだ、いっその事割って中身を入れ替えたいくらいだ。心配かけやがって。
そして俺は暗い笑顔を明日葉の後頭部に向けた。
「明日葉ー?俺、昨日のお昼になんて言ったっけー?まさか3歩歩いて忘れましたとかふざけた事言わないよねー?」
「違うよ!ばっちり、ばっちり覚えてるよ!?イタタ!?助けて美羽ちゃん!」
「えい。」
ばちぃぃぃん!
「ビンタ!?」
ゴツン。
「拳骨も!?」
ぼすっ!!
「お狐様のタックルも!!?」
美羽のビンタ、俺の拳骨、お狐様のタックルという3連コンボを食らった明日葉は俺たちの前で転げ回っている。まあ、いつもの光景だからすぐに復活するだろう。
お狐様も満足したのか、明日葉の弁当を勝手に食べているが、食って大丈夫なのだろうか?
まあ、大丈夫だろう。凄いお狐様っぽいし。
取り敢えず明日葉を見て大きく溜め息を吐く。
「これくらいで済んでありがたく思えよ……。ここの山、何が起きるか分からないんだから。」
「そうだよ。遭難しましたとか、野犬に襲われたとかしたら、どうすんの?」
俺達の正論に、明日葉は起き上がるや否や正座して「反省してます……」と呟いた。
「……怪我、してないよな?」
「……うん、ありがとう。」
「ならよし。あ、因みに優里さん、超激怒してたから覚悟しとこうねー?」
「うん、分かっ………何で知ってるの?!」
「俺が話したから。」
「卑怯者ぉぉぉぉぉおおお!!?」
謎の広場に、明日葉の悲痛な叫びが響いた。
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