第2話「山の頂の村・1」

「山に入る人を見た、ね……。」

「そう、そうなのよ。なんか興味湧かない?湧くよね?」


金曜の昼休み、部室に来て弁当を突いていると、明日葉が瞳を輝かせてそんな事を話しだした。

明日葉が言っているのは、こないだ傘をいただいた地区にある小さな山の事だろう。

あそこはそもそも良くない噂もある。

わざわざ首を突っ込むような真似はしない方がいい。


「いや、全然。あと、しれっと俺の弁当に食えねえからってピーマン入れんな。優里さんにチクんぞ。」

「どうしてそういう事ばっか……痛い痛い!やめてお狐様!?どうして私ばっかり?!」


明日葉がピーマンを俺に寄越そうとするので、俺はいつもの様にピーマンを返して脅すと、それに便乗する様にいつの日か油揚げをあげて仲良くなったらしい………明らかに失礼を働いたらまずいであろう尻尾が9本も生えた真っ白い狐にパンチをされていた。

説教する手間が省けたので、あとで彼、または彼女には油揚げをお供えしよう。


「ねえ、この子普通に部室にいるけど、どう見ても凄い子だよね?明日葉、何したの?お社破壊したとか?」

「たぶん、そうだろうね。明日葉だし。」

「違うよ!?あと、何でお狐様、美羽ちゃんには普っ通に懐いてるの!?」


俺が適当に嘘を言うと、明日葉がいつもの様に抗議をしてくるが、適当に流す。

別に良いだろ。お狐様も美羽に顎の下を撫でられて気持ちよさそうにしてるし。


「取り敢えず、明日葉は山に入るなよ。大体面倒な事になるんだから。」


美羽とお狐様のやり取りを眺めながら、俺はしっかりと釘を刺す。

このお狐様が殴り始めたタイミングが山の話を始めた後のとこだったのも嫌に気になるのだ。

本当に止めたほうがいいだろう。

明日葉が露骨にむくれているが、駄目なものは駄目だと釘を刺した。

………まあ、普通はそれで止まると思うよな。




◆◆◆


「……………っの馬鹿!あとで引っ叩いてやる……!」


俺は文句を言いながら、土曜の昼から美羽と共に件の山を登っていた。


話は3時間前に遡る。


朝、遅めに起きるとスマホのメッセージアプリにメッセージが2件入っていたからだ。

送り主は美羽と明日葉の母、優里さんだ。

何かと思ってまず、優里さんのメッセージから見て、俺は速攻で頭を抱えた。


「うちのバカ娘が朝からでかいリュックに色々詰めて出て行ったけど、宗治くん何か聞いてない?」


メッセージにはそう書かれていたのだ。

タイミング的には美羽にも行ったのだろう、と見てみると、やはり優里さんから連絡が来ていたらしく、その件だった。

俺は大きく肩を落として、まず優里さんに電話した。


「もしもし、宗治です。」

『ああ、宗治くん?ごめんね、朝から。メッセージ見てると思うんだけど、明日葉がどっか行っちゃったんだけど、心当たりある?』

「……確認するんですけど、明日葉の格好ってどうでした?デカいリュックって事は、たぶん街に出る様な格好じゃないと思うんですけど……」


電話に出てくれた優里さんに、出掛けた明日葉の服装を聞いてみる。

優里さんは電話越しに『んー…』と少し考えた後、思い出したように話しだした。


『なんか……言われてみるとちょっと街に出る様な感じじゃなかったわね。何ていうか、汚れてもいい格好って感じだったし。それに、バレたら宗治くんに怒られるからって、言ってたから……。』


確定だ。バカ明日葉め。最近大人しいから大丈夫かと思ったら厄介事を………。

俺は昨日あった事を優里さんに説明すると、底冷えする様な声で『ふーん……。』という声が聞こえてきた。

さらばだ明日葉。少なくとも明日からもうお前に会うことは無いだろう。


「……取り敢えず、放っておいて何かあったら困るんで、俺ちょっと探してきます。まだそこって決まった訳じゃないし。」

『……お願いしてもいい?あと、明日葉に会ったら『覚悟なさい。』って伝言伝えておいてくれると助かるわ♪』

「喜んで。」


俺は相手に見えないのが分かりつつも、サムズアップしてそれに応え、電話を終わらせた。


「あとは美羽に電話して確認して………、と。」


俺はスマホをまた耳に当てつつ、出かける準備を始めたのだった。

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