勇者パーティを追放されたオレは、始まりの村のお花畑で微笑むモブ村娘を絶対に振り返らせたい.09

 それから、三年八ヶ月。

 オレは二十二歳に、エーリヒは三十歳になっていた。


 リンクスの村から西に千五百キロ。

 隣国の天まで届くような岩山の頂きにそびえる、廃城。

 黄金竜の待つ玉座の間まで、あと扉ひとつ。

 手下のキマイラを二体同時に相手にしても、オレは傷一つ負っていない。

 エーリヒも、オレのペースに付いてきてくれる。


 四年前は奇天烈なヤツだと思っていた。

 でも今では、なくてはならない最高のパートナーだ。

 二体目のキマイラの首を落とした。

 それだけで五年は遊べるであろう激レア素材がこれでもかと手に入ったが、全部エーリヒにあげることにしている。

 初めは遠慮していた彼だが、今では──必ずオレに律儀に一礼してから──受け取ってくれる。


「汝、黄金ノ鎧ヲ 纏ウ者ヨ。我ヲ前ニ ナニヲ欲ス?」


 黄金竜の地を揺るがすような低い声が響く。


 オレが欲しいのは激レア素材じゃない。

 オレが欲しいのは金貨の大袋じゃない。

 オレが欲しいのは──


「テメエをぶっ倒してから、教えてやるよ!」


 オレは風より早くハヤブサのように、玉座の間に殴り込んだ。


 ……


 どがっ。


「がはっ」


 オレは二十メートルは飛ばされて、玉座の隣の柱に叩きつけられた。


「ムウ……所詮ハ タダノ 人ノ子カ」


 黄金竜は口から炎をチラつかせ、失望した。

 オレは今の一撃で戦闘不能。

 エーリヒも、さっき炎をもろに受けて倒れてしまった。


「消エヨ」


 黄金竜が口を開く。

 あと一秒以内に、オレは真っ黒焦げになるだろう。

 ああ。


 ああ。

 ああ、オレのハンナ。

 アザミの花壇に、今も立っているんだろうか。

 今も、アザミに囲まれて微笑んで……

 アザミに……


 アザミ?

 そういや。

 あの日。


 妙な女に会わなかったか?


 黒いワンピースに、黄色いリボンに……


 あいつの名前は……


 名前は。


「シッスル──ッ!」


 ……


「呼んだ?」


 あの日と同じ顔で、同じ服で、同じ笑顔で。


 倒れたオレを、その女は見下ろしていた。

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