勇者パーティを追放されたオレは、始まりの村のお花畑で微笑むモブ村娘を絶対に振り返らせたい.08

 リンクスの村のクエストだけで、がんばって二万ゴルド稼いだ。

 銀貨がずっしり、二百枚。

 納める麻袋ははち切れそうだ。

 花屋に行った。

 かつて、毎日通った花屋。

 二万ゴルド貯めると決めてから三ヶ月ぶりの訪問だ。


 そして。

 いちばん安いチューリップの花束を百束買った。


 朝八時。

 季節は冬になっていた。

 暖かな気候の村だから、雪は降らない。

 アザミは時期を過ぎてとうに枯れている。

 けれど何にも生えていない花壇に水をあげている、マヌケな女の子の前に、オレは立った。


「ようこそ はじまりのむら リンクスへ! みてみて このおはな キレイでしょう」

「……ああ。キレイだよ。とても」


 そう言うと、荷車に積んで持ってきた百束の花束を、五束づつ、持ってきては渡した。


「まあ! なんてきれいな はなたば! うれしいわ ありがとう ゆうしゃさま」

「まあ! なんてきれいな はなたば! うれしいわ ありがとう ゆうしゃさま」

「まあ! なんてきれいな はなたば! うれしいわ ありがとう ゆうしゃさま」


 ……


 その声を。

 その笑顔を。

 その瞳に映る光を。


 渡す度に全部目に焼き付けた。


 ……


 三ヶ月前。


「え、それがしとパーティを組みたい?」

「ああ、あんたとなら、怖くない」

「怖くない? 一体何を考えて……」

「黄金竜」

「……?」

「オレ、記憶があやふやなんだわ。ずっと冒険者やってたはずなんだが。どうにもそれがいつからなのか、思い出せない。あんたの言う通り、この鎧が黄金竜討伐の証なら……もう一回倒したい。今度はきちんと覚えて。それでオレは──」

「ハンナちゃんに、求婚したいのでござるな」

「──変だろ。モブを嫁にするだなんて。笑っていいよ。けどな」

「笑いませんよ」

「……え?」

「笑いませんよ、それがしは。愛に、決まりはありませんから」

「……ありがとうな。だが、ちょっと待ってくれ。やりたいことがある」


 ……


「……いいのでござるか」


 百束目を渡す時、エーリヒが聞いてきた。


「……ああ。かまわねえ」


「まあ! なんてきれいな はなたば! うれしいわ ありがとう ゆうしゃさま」


「……それじゃあ、行こうか」

「わかり申した。いざゆかん、西の黄金竜の根城に!」


 そう言うと、オレとエーリヒは、リンクスの入口の門をくぐった。


「ようこそ はじまりのむら リンクスへ! みてみて このおはな キレイでしょう」


 愛する女の子の声を、背中で聞きながら。

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