勇者パーティを追放されたオレは、始まりの村のお花畑で微笑むモブ村娘を絶対に振り返らせたい.07

「ところであなた、あなたもハンナちゃん攻略派でござるか?」


 肥満な体型に黒縁のメガネ。

 白く光る防具……ミスリルか。

 でも太ったお腹は防具いっぱいにぎちぎちだ。

 手に持つは、ミスリルの光り輝くハンマー。

 ……重戦士か。


「あ、それがしエーリヒと申す者。一年ほど前、この世界に転生してきました」


 あー。

 転生者かあ。

 いいなあ。

 どーせなんかすげえスキル貰ってきてるんだろ?


「あの……お名前を聞いてもいいでござるか?」

「……アルベルトだ」

「おお、かっこいい名前でござるな! まさかアルベルト氏も転生者でござるか?」

「残念。ただのしがない剣士だ。生まれも育ちもこの世界だよ」

「そうでござったか……でも、可能性がなくはない!」

「……なんで?」

「長らくこの世界に留まると、転生してきた記憶を忘れてしまう人もいるんだとか! それがしが見るに、その黄金の鎧! あの黄金竜を討伐して初めて作成が許されるシロモノ! そんなことが出来るのは、転生者だけでござるよ」

「あのさあ」


 何故かだんだんと腹が立ってきた。


「その喋り方、なんだ? 鬱陶しい。それにオレは転生者じゃねえ。チビの頃から剣士をやってた、それだけのモンだ。……あと、モブ子になんか用なのか?」

「モブ子?」


 エーリヒはぽかんとしたあと、ああ、なるほど、と手を叩いた。


「ハンナちゃんのことでござるな!」

「だから、なんだよハンナちゃんって。アイツはただのモブ。名前なんてねえよっ」

「あるでござるよ」


 エーリヒは急に真面目ぶった顔をした。


「それがしが授かったチート能力は、分析。目にした人物、魔物の情報が全て見ることが出来るのでござる」


 情報が見られる……

 てことは、モブ子は。


「はい。ハンナ・ベル。それが彼女の名前でござる」


 モブ子をじっと見てみる。

 ……相変わらずジョウロで水をあげている。

 チューリップの花束を、片手に抱きながら。


 オレは、二ヶ月経って初めて、想い人の名前を知ったのだ。

 唐突に、知りたいことが出来た。


「なんでござるか」

「なんでお前は冒険者様で、オレは勇者様なんだ?」

「……ああ。プレゼントの時のセリフでござるな。それは、アルベルト氏、あなたが黄金竜の鎧を身にまとっているからでござる」

「違う!」


 おれはかぶりを振った。


「これはただの真鍮の鎧だ! 銅で出来た安物だ!」

「いいえ、アルベルト氏。それがしは武具の情報も読み取ることができるのでござる。間違いなく黄金竜の鎧でござる」


「黄金竜……オレが……なんで……」


 こいつの言ってることは、デタラメのはずだ。

 そのはずなのに今は、なぜか思い出せない。


 真鍮の鎧を、鍛冶屋に発注した時のことが。

 ガキの頃、木の枝片手に冒険していたはずのことが。


 オレは、エーリヒから花束を奪い取った。

 そしてそれをモブ子──ハンナに渡した。


「まあ! なんてきれいな はなたば! うれしいわ ありがとう ゆうしゃさま」


 ハンナはそう言って、天使みたいに笑う。


 ──うれしいわ ありがとう ゆうしゃさま。


 その瞬間。

 オレは、何かがとてつもなく恐ろしくなって。

 自分の胸の中で、何かとても大切なものが欠けている気がして。

 気がついたらオレは。


 大好きなハンナを置いて、その場から逃げ出した。

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