勇者パーティを追放されたオレは、始まりの村のお花畑で微笑むモブ村娘を絶対に振り返らせたい.03

 真っ黒なワンピース。

 ヒマワリみたいな色した黄色いリボン。

 モブじゃねえ──かと言って、プレイヤーオレたちとも違う……

 ……何モンだ?


「何モンって。名乗るほどのモノじゃあありませんが。念の為」


 そういうと、仰々しくスカートの裾をあげて膝を曲げた。


アザミシッスルと申します。以後お見知り置きを」

「アザミだぁ?」


 オレは振り返ってあの子を見る。

 足元に咲いている紫の花に、愛おしそうに水をあげている。

 あ。

 目が合っちまった。


「ようこそ はじまりのむら リンクスへ! みてみて このおはな キレイでしょう」

「そうか……」


 お前が大切にしている花は、アザミというのか。


「そう、わたしよ」


 あの子の隣にいつの間に移動したシッスルが、肩に手を乗せ、割り込む。

 でもその子は、蚊が止まったほどにすら気にせず、ジョウロから水をアザミに注ぎ続けている。


「花言葉は、復讐。──ねえ、貴方」


 そしてあの子に寄りかかったまま、オレに問うた。


「復讐、したいんじゃない?」

「……なんで、そんなことを聞く?」

「ふふ。だって貴方……」


 とん。


「うおっ!」


 本日二度目の叫び声をあげたオレの隣に、シッスルなる女は瞬間的に移動して──本当に見えなかった──いたずらっ子っぽく笑った。


(クビになったんでしょ? 勇者様のパーティを)


 ふふふ。

 底知れぬ力を秘めたこの女は、オレにそう耳打ちすると、二歩下がって手を広げた。


「覚えておいでなさいな? 復讐は美味しい前菜オードブル。貴方が幸せになるための、美味しい美味しい、ごちそうだよ」


 復讐?

 ごちそう?

 前菜オードブル


 ……違う。

 オレが欲しいごちそうは──


「ごちそうは?」

「こ……」


 なぜこんな事を言ったのか、今になってもわからない。


「こ?」


 ただ、この時。


「このっ」

「この?」


 本気で、信じてたんだ。


「この子のっ! 笑顔が見たいっ!」

「……はあ?」


 くるっ。


「ようこそ はじまりのむら リンクスへ! みてみて このおはな キレイでしょう」


「見たいんだ!」


 ただ。

 この時、復讐を選んでおけば良かったと。


 後からオレはひどく後悔するのだった──

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