婚約破棄公爵令嬢リルオードは最後に第二王子の寵愛を受ける.04

「まー、ほんっとーに、なーんにも無くなっちゃったんですわね」


 玄関から、数年ぶりに聞くきんきん声がしました。

 わたくしは慌てて駆け出して出迎えます。


「ク、クララ。来るなら来るって、言ってくれれば……」

「まー! いやだわリルオード! なあにその売春婦みたいな胸元は!」


 はっ、しまったっ!

 慌てて胸を隠しますが、時すでに遅し、でした。

 となりで、小さなアルフレッド王太子陛下と同じ目をした男の子が見ています。


「ねー、おかあさま。どうしてあのおねえちゃんおっぱいだしてるの」

「まっ、アレン、だめよ! 王家の男の子があんなものを見ちゃいけません!」


 わたくしは真っ赤になって顔から火が出そうです。


「リルオード、だれかきてるの?」

「あ、母様、クララが……」


「あら、まだ生きてたの」


 ……え?


「はーっ。今日はお墓参りに来たつもりだったんだけど、まだ生きてたなんてね」


 ……。

 ことばが……

 ……出てきません。


「……何よ、その目は。……やれやれ、はすぐそうやってタカろうとするんだから。ほら、持ってきなさいよ」


 ちゃりーん。

 クラリッサは金貨を三枚、床に投げました。

 わたくしは……それを、一枚ずつ拾いました。

 そうして三枚目を拾おうとした、その時。

 彼女はつかつかと歩いてきました。


「ダメよ。売春婦が物乞いをして王太子妃様から金貨をもらうのですもの。あたくしにそれなりの誠意を見せてもらわないと」


 そしてドレスから片足をわたくしの前に出しました。


「キスなさい。あたくしの……靴に」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る