大好きなお兄様を守れなかったバリキャリウーマンの私が幼女に転生したので、次は絶対に大好きなお兄様を守り切ります!!.14

「あの……」


 ひとりの若いメイドが、恐る恐る声をかけてきた。


「私、恐ろしいことを聞いたんです」


 そう言うと、青い顔色のまま、私とピエールに語り始めた。


「わたし、アシュリーと申します。ハウスメイドをやっております」


 何度か顔を見たことがある。

 赤毛の、お下げが可愛らしい十代後半くらいの女の子だ。


「この家にある発明家が下宿しているのをご存知ですか」


 アシュリーは私をじっと見て聞いてくる。


「おお、シャルルさんのことかな? 屋敷で給仕をしながら発明の研究をしている……」


 私が首を傾げているとピエールは相槌を打った。


「はい。なんでも、『喋った声を封じ込める』装置を作っているとか」


 ボイスレコーダーのようなものかな。

 生田有沙(三十九)は思った。


「それで、半月ほど前、その装置を置きっぱなしにしてしまったそうです。……スイッチを切り忘れて」


 ……まさか。


「はい、今からそれを皆様のお耳に入れます。どうぞ、お聞きください」


 ……


「ザー……だからね……オーウェン……オリヴァー……ザー……よく……お聞き……この家はね……ザー……お前たちのものにするんだ……ザー……レイモンドは……ザー……階段から……落としてしまえばいい……ザー」


 ザー。


 ノイズと一緒に流れたのは、バーバラの声。

 誰がどう聞いても、さっきまで話していたバーバラの声そのもの。


「……バーバラ・ファーンズワースよ。何か言い残すことはあるかね」


 国王陛下は、冷たい、冷たい声でトドメを刺した。


「あ……ああ……」


 そう言って、バーバラはがっくりと座り込んだ。

 私は、そんな彼女の、蒼白になった顔を両手で掴んだ。


「ああ、おいしかった。とってもおいしいオードブルだったよ」


 そう言って、にっこりと笑った。

 三十九年の人生で、いちばんの、笑顔で。


「ね? シッスル」

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