大好きなお兄様を守れなかったバリキャリウーマンの私が幼女に転生したので、次は絶対に大好きなお兄様を守り切ります!!.10

 バーバラの、オーウェンの、オリヴァーの嫌がらせに耐え続けて三ヶ月が経った。

 お父さんの妹と従兄弟たちの要求は、この家の権利書と亡くなったお父さんの財産なのは明白だ。


 ……


 ある日。

 は、唐突に訪れた。


 がたーん。

 心臓に響くすごい音。

 すぐに分かった。

 お兄ちゃんに何かあったんだ、と。

 懸命に走った、小さな足をくるくる回して。

 二階の自室からまでの数秒がとても長く感じた。

 そして、私は認識する。


 階段の下で仰向けに倒れた、お兄ちゃんを。

 その頭の下の真っ白な大理石に広がる、赤い血を。


 階段の上でたじろぐ双子を。


「あんたたちっ……! おにいちゃんになにしたのよっ!」


 わたしは駆け上がって、双子に詰め寄る。


「ち、違う、僕たちは話してただけだ」

「そ、そう、話してただけ」

「勝手に転んだんだ、見てる目の前で!」

「そうだ、転んだんだ!」


「おのれっ……!」


 私は平手打ちを見舞おうと、手を振りあげた、その時。


「なりませぬ、お嬢様!」


 お父さん専属だった、執事のピエールが静止した。


「ファーンズワースの未来を担う子女が、手を上げるなど! それよりなにより、今はお坊ちゃまをお助けしなければ! メイド長、メイド長はおるか!」


 ぱたぱたとメイド達がお兄ちゃんの傍に駆け寄り、応急処置をしていく。

 私は……何も出来なかった。

 お兄ちゃんを助けることも、あの双子──いつの間にか居なくなっていた──を叩くことも。

 ピエールさんに、言い返すことも。


 なにも、出来なかった。


 ……


 お兄ちゃんは半日経っても意識が戻らない。

 お医者さんは、険しい顔をしたまま。

 四歳の幼女が付け入る隙はなかった。


 お兄ちゃんの部屋を後にした。

 幽霊みたいな顔をして。

 白い、庭園に続くドアを開けた私の目に入ったのは──


 七月の暑さにも負けずに凛として咲く、大好きな紫色のアザミたち。


 ……涙が、ぼろぼろと零れた。


 大切なお兄ちゃんを、守れなかった。

 ちくしょう。悔しい。

 ひどいよ。悲しい。


 いいや、違う。

 ひどいのは私だ。

 守れなかった、力のない私が。


 悔しい。悲しい。

 ……憎い。

 神様、この気持ちはどうしたらいいの?

 憎くて憎くてたまらない。

 自分が。

 憎い。

 憎くて、憎くて──


「呼んだ?」


 振り返ると、あの子シッスルが、立っていた。

 お日様みたいな柔らかい、笑顔で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る