第9話 事故
「金持ちの家の湯はちげぇ」
凛桜が湯船に隠れたあと、左手で鼻を抑えて鼻血を止めつつ、右手で身体を洗い肩のタオルを取って湯船に浸かっていた。
そして凛桜は首までお湯に浸かって身体を隠し、俺の右肩辺りをボーッと見ていた。
「俺の右に何かあるの?」
「その丸い傷痕……」
「ああ、これ中学の時の出来たやつ」
凛桜は俺が中学生の時、事故で出来た傷を見ていたらしい。
事故のショックで事故前後の記憶が飛んでいるので覚えて無い。
医者曰く、ビルの工事中、鉄パイプが落ちてきてそれが俺の肩を貫通したらしい。
幸い骨ではなく筋肉を貫いたので、リハビリで今まで通り動かせる様になった。
「事故?」
「そ、事故」
「どんな事故だったの?」
「…残念な事にショックで記憶飛んでるから覚えて無いんだわ」
事故の瞬間を覚えていたらトラウマ確定だったので、残念というより幸いか。
鉄パイプが肩貫通した、と言おうか迷ったがグロいので言わないでおいた。
「本当になーんにも覚えて無いの?」
「うん、多分覚えてる事もあっただろうけど、思い出さない様にしてたら忘れた」
そもそも中学時代、両親が離婚したり、俺が死にかけたりとロクな事が無かったのであまり思い出したくないし覚えていない。
「ごめんね…」
「なにが?」
「いや!?なんでもないよ!」
全く大丈夫じゃない様子だが、逆上せているのだろうか?
いや、でもまだ風呂に入って10分も経ってないから逆上せるには早すぎるか。
ただ羞恥で調子がおかしくなっているだけか。
「凛桜って中学生の時どうだったの?」
事故った時の話をしていたらふと凛桜の中学時代が気になってしまいそう聞いた。
「私が中学の時は……」
そして黙り込んでしまった。
何か俺と同様思い出したくない事でもあったのだろうか?
だとしたら、申し訳ない事をしてしまったな。
「別に無理に思い出して話さなくたっていいんだぞ」
「いや……」
今度は泣きそうな顔になった。
俺はマジで踏んではいけない地雷を踏んでしまったのかもしれない。
「本当に、辛いなら思い出さなくて大丈夫だよ」
「……」
でも凛桜は相変わらず泣きそうな顔のままだ。
完全にやってしまった。
「豹舞君、ありがとね……」
「え、何が」
「あの時助けてくれて」
そう言って、凛桜が泣きそうな顔のまま俺の方を向いた。
「助けたって何を……」
「私の代わりの豹舞君が肩にこんな大怪我をする事になったのに、私は悠々自適に暮らして…」
「凛桜?大丈夫?疲れてる?」
「違う!そうじゃないの…」
そう言うと、今度は目からポロポロと涙が溢れ始めた。
「豹舞君があの事故から私を助けてくれた、なのに私はお礼すらも言えなくて……」
「あの事故って俺の事故の事?」
「そうよ、あの時、豹舞君、私の身代わりになって…」
そう言われ、俺は全力であの事故の事を思い出すが、何も思い出せない。
「ごめん、凛桜、俺、思い出せないわ」
「そう…」
「何か思い出せそうなものとかがあれば思い出せるかもしれんが…」
「じゃあ、豹舞君にとって苦しいかもしれないけど、見せるね、これ」
凛桜がそう言って、お湯から安全圏にあったリモコンをとった。
すると、カーテンらしき物で遮られていた所が空き、そこから大画面のテレビが出てきた。
「つけても良い?」
「ああ、良いぞ」
それで事故の事を思い出して、凛桜が何を言いたいか分かることが出来るなら見てやろうじゃないか。
そして凛桜がつけたテレビには、ビルの前にある道をただ移しているだけの動画が映っている。
「これは…」
「豹舞君が事故に遭った時の防犯カメラの映像よ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます