第6話 偽装彼氏生活

「おはよっ!」


「おお、おはよ〜…じゃねぇよ!なんで俺の部屋に居んの!?」


凛桜の偽装彼氏になるという約束をしたあと、凛桜はやる事をやったロボットかの様に動きを止めて眠ってしまったので、俺は風呂に入り部屋で寝て朝を迎えた。


なのに何故か、凛桜が俺の部屋に侵入して俺の顔を覗き込んでいる。


「偽装彼氏なんだから仕方ない」


「偽装の意味わかってる?」


これでは偽装ではなく、ただの同棲カップルだ。


「凛桜様が居ない!?」


隣の部屋から叫び声が聞こえてきた。


声の主は、多分立花さんだ。


「立花〜!豹舞君の部屋にいる〜!」


すると、ドタバタと音が聞こえ部屋のドアが開け放たれた。


「凛桜様、申し上げにくいのですが初日で同衾は早いかと」


「してねぇよ!!」


側からみたらさっきまで一緒に寝ていたと思われても変じゃない状況じゃないけどさ。


それを口に出すの、やめようよ?


「それは置いておいて、朝食が出来ましたよ」


「やた〜!豹舞君も来て!」


「痛い痛い!腕もげる!」


朝食が出来たと聞いた途端に、凛桜が俺の腕を引っ張って俺をベッドから引きずり下ろしてきた。


そんなに楽しみなのか、朝食。


正直俺も金持ちの朝食ってどんななのか気になるけどさ!


そんな事を思いつつ、俺は凛桜に腕を掴まれ別な部屋へと連れて行かれた。


「朝ごはん、とは?」


俺は広いダイニングのガラステーブルに置いてある料理を見て呟いた。


名前も知らない料理しか並んでない。


「立花!今日はなんか豪華ね!」


「豹舞は昨日夕食食べていないし、お祝いも兼ねてです」


言われてみれば、俺昨日夕食食べてない。


自覚した途端にお腹が減ってきた。


「学校もあるので早くお召し上がりになって下さい」


「は〜い」


そうして俺は朝ごはんを堪能した。


ーーーー


「そういえば、俺の私服とか教科書は!?」


学校の準備のため、部屋に戻ったところで気づいた。


教科書とか私服とか、全てあのアパートの中だ。


「ああ、渡すの忘れてたわ」


「いつの間にっ!?」


湧くかの様に現れた立花さんの手には、大きな段ボールが3つほど乗っていた。


この中に俺の教科書が入ってるのか……


「これ、凛桜様に見つからない様にしてくださいね」


「はい、分かったのでそれだけは返して下さい」


そう言いながら段ボールを下ろした、立花さんがヌードの女性が表紙の冊子をひらひらしている。


それは俺が半年前に無くしたエロ本だった。


「はい、どうぞ」


「すいません…」


口が笑っているが、目が笑っていない立花さんにエロ本を手渡された。


見つかって嬉しいけど、羞恥でよく分からない気持ちになった。


ーーーー


「いつもこんな風に登校してたんだ…」


俺と凛桜は学校から少し離れた人通りの少ない道で立花さんが運転する車を下ろされ、学校まで歩いていた。


「人が増えてきたから手、繋ご?」


「なんで?」


一緒にいるだけじゃダメなのか。


昨日一緒にいれば良い的な事言ってたのに。


「時給1万の仕事失いたい?」


「はいすいません、繋がせていただきます」


まるで俺が金の亡者かの様な会話になってしまっている。


実際、時給にあそこまで執着していたので金の亡者かもしれないが。


「え、あれ猫壱さんだよね、彼氏…?あれ」


渋々と手を繋いだ直後、後ろからそんな声が聞こえてきた。


早速見られたか……


そんな事を考えるや否や、凛桜が急接近してきて俺の腕にピトッと胸を当ててきた。


「ちょっ、流石に近すぎ」


「良いじゃない、偽装彼氏なんだもん」


「理由になってない……」


そして瞬く間に、俺と凛桜がデキているという話が広まった。

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