第5話 仕事内容
「ここがお風呂場ね」
最初に案内されたのはお風呂場だった。
床が石で出来てて、銭湯みたいな広々とした浴槽に白濁色のお湯が張られている、ザ-金持ちという感じのお風呂場である。
「俺はここでどんな仕事をすればいいんですか?」
「そうね、掃除は私がやるから、豹舞は凛桜様の背中を流す事ぐらいかしらね」
「背中を流す!?」
衝撃的過ぎる仕事内容だった。
掃除や備品入れ替えとかではなく、背中を流す!?
年頃の男女が一緒に風呂に入って背中を流す!?
大問題にも程がある。
「そうよ、背中を流す、というか身体を洗う」
「俺は就く職場を間違えたみたいなので家に帰るとしますか」
「でももう家はここよ」
「そうだったぁ!!」
と、下らないやり取りをしたのちに、今度は庭へと連れてこられた。
「…………まさかここを1人で管理しろと………」
「いや、それは私たちがやるから問題ないわよ」
「じゃあ俺の仕事は?」
「凛桜様と遊ぶ事くらいですね」
「凛桜と遊ぶ?」
申し訳ないが、あいつが外を元気に走り回っている姿が全く想像出来ない。
グラウンドで寝転んでそのまま寝ていそうだ。
「凛桜様は運動神経抜群ですよ?体育の成績も毎回5ですし」
「あいつそんな運動神経良かったのか……」
うちの学校は体育が男女別々なので、凛桜が学校で運動してる姿を1度も見た事がない。
てっきり、体育もボーッと受けているのかと思っていたがそうではなかったのか。
「あ、音夜君」
「おお、凛桜、どうしてここに?」
俺が広々とした庭を見て、こんな広いところで何するんだろう……と思っていると、後ろから凛桜が姿を現した。
「なんとなく外の空気を吸いたくなったから」
そう言いい俺の隣まで歩いてきて、数回深呼吸をしたあとこちらに向き直ってきた。
「何を言いたいか分かる?」
「何1つ分からない」
「ふ〜ん」
凛桜が若干不機嫌になった。
「理不尽過ぎない!?」
酷すぎやしないだろうか?
目だけ見て何を考えてるか分からないと不機嫌になるって。
「凛桜様は寝るから一緒に来て、と申しています」
「分かるんだ!?あれだけで!?」
あれだけで理解できる人がこの世に存在したらしい。
「はい、1週間もすれば分かるようになりますよ」
「いや、意外とすぐ分かるようになるな!?」
そういうのは何年も経って深い友情を築いてから分かる様になるものじゃないのか。
凛桜どんだけ分かりやすいんだよ。
「まだ……?」
「じゃあ、俺は自分の部屋に戻って………」
「何を言っているの?一緒に行くのは豹舞ですよ?」
「ですよねー」
使用人になって1番最初の仕事は凛桜の子守りに決まった。
ーーーー
「一緒に来たは良いけど、俺は何をすれば良い」
俺は凛桜の部屋の中に入ってからそう聞いた。
「寂しいから一緒に布団入って」
そう言って、凛桜が端っこに寄り布団をめくって俺が隣に来る様に促してきた。
年頃の男女が同じ屋根の下に居るっていう時点で結構問題なのに、一緒に布団に入るなど前代未聞だ。
「いやっ!俺まだ風呂入ってなくて身体汚いから!」
「それでも良いの!」
「えぇ………」
学校でしか話した事ない人と同衾………
凛桜父にバレたら大問題いいとこだぞ。
「これは命令だよ!」
そう言われてしまうと逆らいようがない。
ここで逆らって俺の首が飛ぶなんて事態になったら笑い話にもならないので、俺は大人しく凛桜の隣へと寝転んだ。
「ねね、音夜君、これからは豹舞君って呼んでいい?」
俺に背中を向けたまま、凛桜がそう聞いてくる。
「ええ?全然良いけど?」
まさか呼び方のことについて触れられるとは思ってなかったので、困惑してしまった。
とはいえ、下の名前で呼ばれる事に抵抗は無いので凛桜にも良いと言っておいた。
「じゃあ豹舞君にもうこれからもう1つお仕事をしてもらいます!」
「なにやればいいの?」
同級生と同衾とかいうとんでもない仕事を現在進行形でやってる所なんだけどな。
今度はどんな仕事させてくるんだろうか?
不安しかない。
「音夜君には、私の偽装彼氏をやってもらいます」
「はい、いくらなんでも無理です、却下です」
「じゃあクビ!!」
「暴君過ぎない!?」
とはいえ、いくらなんでも偽装彼氏は無理だろう。
俺たちの学校での教科書を見せ合うだけの関係から、付き合ったは流石に厳しい気がする。
「そもそも何で偽装彼氏が欲しいの?」
「それは………そう、私くらいの富豪になればお金目当てで告白してきたりする人が多いからよ」
「あー……やっぱそういうのってあるんだ」
凛桜に告白したとか凛桜が告白されたとかいう話は全く聞かないけど、やっぱり俺の知らないところでそういうのってあるもんなんだな。
凛桜は言ってしまえば社長令嬢だ。
俺には想像もつかない額の資産もあるし、地位もある。
凛桜と付き合うことができそのまま結婚まで行けば、恭介さんが倒れ次第その資産も地位も全て自分に回ってくる。
それを考えれば、変な輩も寄ってくるのも変なことではなかった。
「あと、単に告白振るのがめんどくさい」
「あーあー、本音出ちゃったよ」
向こうがお金目当てというのが分かっているから振った時に心は痛まないだろうが、告白の時間は食われるからな……
面倒くさいと言いたくなるのは分かるかもしれない。
「だから、偽装彼氏やって、ただ私と一緒に登下校すれば良いだけ。席は隣だから一緒にいても不自然じゃないでしょ?」
「まぁそれだけなら………」
そう、俺は凛桜に説得され、渋々と偽装彼氏の仕事を引き受けた。
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