第4話 それ実質一文無しになりたいの?って聞いてるのと同じでは……
「なんでお前がここにいんの!?!?」
俺はとある家の1室でそう叫んでいた。
「それは音夜くんが自分でバイトに申し込んだからじゃない」
「でも動物の世話って………」
啓太とも確認したので絶対に間違っていない。
あそこには動物のお世話と書いてあった。
「人間も生物学上は動物なのです」
確かに人間も動物だけど………
「つまりこれから音夜君は私のお世話、専属使用人として働いてもらいます」
「いやいやいや」
俺が凛桜の専属使用人?
なんの冗談だ?
「はい、じゃあここにサインして」
そう言って、凛桜はバイト雇用契約書を差し出してきた。
「…………」
「あれ?どうしたの?サインしないの?」
そりゃそうだ、そう簡単にサイン出来る訳がない。
クラスメイト、ましてや隣の席の金持ちの専属使用人になるなどすぐに飲み込める話じゃない。
「でも、これにサインしなかったら音夜くん一文無しになっちゃうよ?」
「そうだったぁぁ!」
俺のアパート解約させられてたんだったぁぁぁ!
じゃあもうサインするしかないじゃねぇか!
「一文無しか高時給の私の専属使用人、どっちが良い?」
「高時給専属使用人です、はい」
「じゃあサインして?」
「はい、サインします」
こうして、俺は半ば強制的に猫壱凛桜の専属使用人にさせられた。
ーーーー
「じゃあ立花!音夜くんに家の案内してあげて!」
「分かりました!」
「いつの間に!?」
凛桜がそう言うと、俺をここまで連れてきた美女がいつの間にか俺の後ろに立っていた。
というか、この人の立花って名前だったのか……
「では、音夜様、いえ、もう豹舞で良いわね、早くこっちへ来なさい」
「え………」
「早く!」
「あ、はい!」
そう言って、今度は俺は凛桜の部屋から引き摺り出された。
「じゃあさっとここら一帯紹介しちゃうね」
「は、はあ」
「なんでこんな急に態度が豹変したかって思ってる?」
当然だ。
さっきまで様付けで呼ばれてた相手に急に下の名前で呼び捨てされ、タメ口で会話してるんだから。
戸惑いたくもなる。
「それはね、豹舞君がもう私の同僚だからよ」
「同僚?」
「そうよ、さっき凛桜様の専属使用人になるって契約書書いてたじゃない」
もしかして、この人もここのメイドなのか?
「立花さんも凛桜さんの専属使用人なんですか?」
「いいえ、私は猫壱恭介様の専属使用人よ」
猫壱ってことは凛桜のお父さんの使用人ってことか。
じゃあなんで凛桜父の使用人がここに?
「あ、そうね、先に猫壱恭介様にご挨拶に行った方が良いわね」
「え?え?居るの!?」
「当たり前よ、居るに決まってるじゃない、家なんだから」
まさか凛桜父がこの家に居るとは。
てっきり東京とかに家を持っているのかと思っていたが、そうではなかったらしい。
「恭介様のお部屋行くわよ」
「わ、分かりました」
今度は凛桜父、猫壱恭介に挨拶しに行く事になった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「コンコンコン、恭介様、よろしいでしょうか」
「あ゛あ、良いよ」
立花さんが黒い木製の扉をノックすると奥から重々しい声が聞こえてきた。
「失礼します」
俺もそう言って部屋に入ると、真ん中の大きな机にスーツ姿の凛桜父が座っていた。
髪は凛桜と同じく茶髪だ。
凛桜の茶髪はこの人から遺伝したものなのか。
「恭介様、こちらが今日から凛桜様の専属使用人になった音夜豹舞さんです」
「ほう、この子が音夜豹舞君か………」
そう呟き、俺を品定めするような目で見てくる。
愛娘の専属使用人なろうとしているのだから品定めするのも当然だが、そういう目を向けられるとどうしても居心地が悪い。
「あの時の子で間違いないね、立花、もう大丈夫だよ」
「承知しました、失礼します」
そしてまたもや立花さんに部屋を引き摺り出されたが、俺は恭介さんが言った
「あの時の子」
と言うのがどう言う事なのか気になっていた。
俺が恭介さんと会ったのはこれが初めてなので、あの時の子と言うのが何を指しているのかさっぱり分からない。
頭良い人は何を考えてるのか分かんない時があるので、さっきのはそれなのだろう。
「じゃあ気を取り直して、この家を案内するわね」
「は〜い」
「返事は短く!」
「はい!」
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