第3話 なんでお前がここに??

「はぁ……」


「後悔先に立たず」


「俺を不安にさせんじゃねぇ!!」


少し人が減った駅前で、俺と啓太は空を見つめていた。


もう日が落ち始めていて、辺りは薄暗くなっている。


「どこからくるんだか」


「というか、名前も伝えずに俺たちを見つけられんのかね」


「正直見つかりたくないよ」


そんな話をしていると、俺たちの目の前に1台タクシーが止まり、見た目麗しい女性が出てきた。


そしてなんと、迷わず俺たちの方向へと歩いてきたのだ。


「え、あの人?あの美人?」


「マジかよマジかよ」


自分から来ておいて、俺たちはめちゃめちゃ焦っていた。


口では来ると言っていたが、まさか本当に来るなんて。


「電話された方でしょうか?」


すると先程の女性が目前におり、話しかけてきた。


「はいぃっ!」


緊張で変な声が出てしまった。


「そちらは?」


「俺はただの友達で!バイトに応募した者ではありません!!それでは!」


(おいぃぃ!啓太!!!)


俺を一瞬で裏切り尻尾を巻いて逃げて行った。


「それではタクシーへお乗りください」


「わ、かりました」


そしてタクシーに乗り込み、俺は自分の死を悟った。


ごめん、父さん、俺がまんまと詐欺に引っかかったばっかりに。


心の中で父に対する謝罪をした時だった。


「そう、緊張なさらないでください」


あの美女が話しかけてきた。


さっきみたいな業務的な話し方じゃなくて、俺を落ち着かせるかの様な話し方だった。


「あの、俺は今からどこに連れて行かれるのでしょうか?」


「お嬢様の住む家です」


「お嬢様と言うのは……?」


「書いてあったでしょう?仕事内容は動物のお世話だって」


動物をお嬢様呼びか。


どれだけ動物が好きなんだこの人。


少し怖かった。


ーーーー


「そろそろ着きますよ」


放心状態でタクシー運転の後頭部を見ていると、横からそう声を掛けられた。


窓を見ると、大きな塀が窓一面を茶色く染めている。


「着きました」


タクシーのドアを開けると、全体像が掴めないくらい大きな家があった。


2階建てだが、奥行きが半端じゃない。


庭も尋常じゃなく広い。


「気を楽にしてもらって構いませんよ」


そうは言ってくれるものの、気を楽に出来る訳がない。


明らかに金持ち、相当な富豪が住んでるのは明らかだ。


無作法な事したら首が飛ぶ未来が見える。


「ではこちらへ」


「はい」


俺はそう案内され、建物に入りある部屋の前で立ち止まった。


「こちらがお嬢様のお部屋、そしてその隣が音夜様のお部屋です」


「え?俺の部屋もあるの?あとなんで俺の名前を?」


「書いてあったでしょう?その他のサービスと」


その他のサービスに、部屋を与える?


頭のネジが数本抜けてないと出来ないようなぶっ飛んだサービスだ。


「でも俺にも俺のアパートが……」


でも、俺にも元々住んでいるアパートがある。


あそこはどうするのか?


「音夜様のお父様と管理会社に連絡して、解約、及び引っ越しの許可を得ておきました」


「は!?」


じゃあ俺の家は今日からここ?


嘘だろ?


俺の頭は大混乱だ。


何故俺の父さんが引っ越し許可を出しているかも分からないし、何より今日からこの大豪邸に住むという事実が受け止めきれない。


「これから世話するお嬢様のお部屋へ、どうぞ」


「は、はぁ?」


言われるがままに、俺は部屋へと押し込まれた。


その部屋は、ピンク色のベッドに白色の壁紙、年頃の女の子という感じの部屋だ。


ここに動物がいるのが想像出来ない。


実際今、動物どころか何も居ない。


「あー隠れてしまったみたいなので探してあげてください、バタンッ!」


「えー…………」


部屋に取り残された。


仕方ない、動物、探すか。


まず世話の対象を見つけない事にはなにも始まらない。


「なんかベッドモコってなってんな」


よく見ると毛布の真ん中あたりが丸く膨らんでいる。


結構デカくないか?こいつ。


マジで虎とか居てもおかしくないサイズ感なんだけど。


そして俺は、目をつぶって勢いよくその布団を捲った。


「人……?」


恐る恐る目を開けると、そこには猫の着ぐるみパジャマを着て丸まって寝ている見覚えのある女子がいた。


「あ、豹舞くん、おはよ〜、学校ぶりだね」


「なんでお前がここいんの!?!?」


見覚えのある女子とは、そう、猫壱凛桜、その人だった。

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