第3話 現在

3枚目の便箋。

大人っぽい茶色の便箋。


「あの頃だったら選ばなかっただろうな、こんなシンプルな便箋。」


文字を書く手が止まる。

まだ本当に伝えたいこと、伝えなきゃいけないことが書けていないのに。


「何から書こう…」


何から書けば伝わるのだろう。


◇◇◇


私この間の誕生日で29歳になったの。


あなたと出会ったあの頃から10年経った。


見た目、環境、考え方、人との接し方、交友関係…

もう、あなたが知ってるあの頃の私はいないかもしれない。


私ね、来月結婚するの。

2歳年上の優しくて話し合いができる素敵な人と。


公平さん、付き合ってるときよく、

「俺の元カノ達、俺の次に付き合った人と結婚していくんだよね。」

って、言っていたよね。


私もその元カノの仲間入りしたよ。


あなたはドライっていうか冷たい人で、たまに突き放すような言い方をした。

今の人はいつでも優しくて暖かい言葉をくれる人。


あなたと真逆な人なの。


「一緒に住もう。荷物まとめておいてね。」

公平さんが私に言ってくれた。

夜仕事が終わったら迎えに行くから、それまでに荷物まとめておいてねって私に言ったよね。


冗談だと思った。

だから、荷物まとめなかった。重い女だって思われそうで怖くて。


その後あなたは「一緒に住もう」なんて言わなかった。


もしあの時、私が荷物まとめて、「一緒に住みたい」って言ったら、住んでくれた?

何が正解だった?公平さんはどうしてほしかった?


今の彼氏とはあなたと別れた1年後?位に付き合ったの。

私から同棲しない?って彼に提案したの。

「いいの?したい!いつにする?」

その一か月後には彼と一緒に住み始めたんだよ。


その彼と結婚するんだよ。

どうすれば、どんな行動をしていたら、公平さんと結婚できたのかな。


◇◇◇


3枚目が終わった。

一番びっしり文字を書いた。


「手、疲れた…」


とりあえず1つ、伝えたいことを書くことができた。


もう1つ、もう一つだけ、

伝えたいことがある。


4枚目の便箋を袋から取り出そうとしたとき、玄関から聞き慣れた声が聞こえた。


「ただいまー」


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