淑女の葛藤

 

 

 

 

 

「はい、どうぞご主人様っ」

 

 プライドを捨て敗北に浸りながらも東雲さんにスマホを借りた。

 てか今更なんだけど、見ず知らずの人が迷子になってるからってスマホ貸すのは、危機管理能力がちょっと心配になるな…。

 なんて、親心になりながらスマホを借りて画面をつけた…。

 

「っ…!」

 

 …おい、ちょっと待てよ。このロック画面俺じゃんいつ撮った!くっそ、アングル的に公園の入り口の方か…。やってること普通に盗撮じゃん!やっぱこの子やばいって…。

 

「…あの〜これって…俺だよね?」

 

 …まだ、押し間違えで盗撮しちゃって、バグでロック画面になった可能性があるから…一応聞いとかなきゃ。

 

「はい!よく撮れてますよね。私の写真フォルダの中で一番大切な写真です!本当はもっと近くで撮りたかったんですけど…バレちゃうと怒られるそうだったのでっ」

 

 …まぁ、そりゃそうだよね…。てか、めっちゃニコニコして語らないで欲しいんだけど…。その俺の怪訝な視線を感じ取ったのか、ショボンと肩を落として言葉を紡いだ。

 

「…やっぱり気持ち悪いですよね…こういうことする女性は…。私の変態的なところも、自分を見失ってしまうところも、治さなければと思っているのですが…」

 

 そう言って、少し青みを帯びたキラキラとした瞳でこっちを見てくる。瞳は潤んでいて上目遣いをして、恥じらうかのように頬を赤らめている…!やばい、くっそ可愛いんだけど…。

 

「いやっそんなこと…!」

 

 男としての本能がこの子をフォローしなければ!そう思って慰めの言葉をかけようとした。けど、そうするのと同時に東雲さんが力強く言葉を次いだ。

 

「…ですので!こんなはしたないことをしてしまう私をどうぞ叱ってください!どんな処罰でもお受けいたしますっ。さてっ何にしますか!今日は首輪に手錠、バラ鞭にロウぐらいしか持っていないですけどどれにしますか!?」

 

 そう言って鞄をバッと開けた。…確かに色々とSM用のが入っていた…。…くっそ、とりあえず一旦しばきたい…!けど、コレでムカついてしばいたらそれこそこいつの思い通りになってしまう…くっそドMって無敵なんかよ!!

 …とりあえず雑に扱うか。

 

「…さっさと行くぞ」

「…ハァハァ、道具を使わずに雑に扱われる…!痛みは感じ得ないけど、なんだろう…この貶されている感じ…たまらないっっ!…やっぱりご主人様こそが私のご主人様だ…!」

 

 うん、もう考えるのをやめよう!俺の負けだ!

 

 …ちなみに鞄に教科書は一冊も入っていませんでした…。

 

 

 

 

side 東雲桜

 

 

 

 いつも通りの日常、去年と変わらない変わらない下校道。4月8日の今日は、入学式しかないっていうこともあってお昼前に学校が終わった。

 

「桜〜。このあと一緒に先週オープンした駅前のラーメン屋行かない?」

「ごめーん!今日予定あるんだ」

「了解!じゃあまた今度いこ!」

 

 同じ学部の咲からの誘いを断り帰路に着く。…別に今日の予定はないんだけどね。まぁ、なんで断ったかというと深い理由があるわけなんだよね…。

 私の好きな神絵師さんがドMな女の子を責める強気なイケメンを描いてくれて、それをさっき呟きアプリのつにったーに上げてくれたんだよ。もう、性壁ドストライクな絵で一瞬で保存しちゃったよ…。多分、この時の私なら反射神経コンテスト全国3位狙えると思う。…あるのかは知らないけど。それで、その絵を使って早くお家に帰って自家発電したいわけよ。だから、早く帰りたいんだ。…うーん深い、あまりにも深すぎる理由だね…。

 

「ふんっふふふっふ〜」

 

 そんなことがあり爆速スキップっで帰っている時、毎日通る公園で困ってそうな人がいるのに気づいた。

 淑女で優等生な私はもちろん困っている人ほっておけなくって、話しかけようと思ってその人の方へと視線を送った。

 

「えっ…お…おとこ?いや、そんなわけ無いよね…疲れてるのかな?」

 

 うーん…やっぱり何回目を擦っても目に映るのは男の人だった。

 …てかやばい、めっちゃイケメンでドストライクだ…。ハッ、写真を…写真を撮らなければ!!

 

パシャッパシャッパシャッパシャッパシャッ

 

 やばい200枚くらい撮っちゃった…。でも後悔はない。うーんコレが一番ビジュが良いなぁ…。でもこっちのちょっと陰がある感じも捨てがたい…。いや、こっちもありだな。うわぁ〜迷う〜!

 

 熟考の末164番目の写真をロック画面とホーム画面に設定した。はぁ〜美しい…。

 暫くして写真の選定に満足をし、帰り道の方向へと歩き出してしまった。

 

「いや、違うでしょ!困ってる人を助けるようとして公園に入ろうとしてたのに、盗撮だけして帰るなんて何してるのよ私…」

 

 …けど、これって話しかけて良いものなのかなぁ…?最近痴女対策何ちゃら法とかで規制が厳しくなったらしいし。なんでも、男性に自ら話しかけるだけで裁判に負けた人もいるとかいないとか…。でっでも、困ってる人見捨てられないよね。うん…ほっとくなんて絶対にできない!ほ、本当に下心なんてないからっ!

 

 きっと話しかけても大丈夫だよね?私、見た目だけは良いってよく言われるし。中身さえバレなければモテそうランキング大学1位だし…。全票女子だけど…。なんか、自分で言ってて悲しくなってくるよ…。

 

 よし!全力で清楚ムーブして悩みを解決してあげて、ドMは絶対出さないように!そうすれば『おい、雌豚!誰が服を着て良いって言ったんだ!』って調教してもらえる!

 そうしてご主人様になってもらってあんなことやこんなことや…。ハァハァ…ジュルッ。おっと涎が。

 

 コホンッ

 

 では行きましょう。

 

「あの、なにかお困りでしょうか?」

「…めっちゃ困ってます」

 

 そう言って振り返った彼は、吸い込まれるようなアメジスト色の瞳に、痛みなど感じさせないサラサラな透き通った金色の髪の毛、さらには鼻筋の通ったに立派な鼻をしていた。完璧な、いや、そんな言葉じゃ表せないくらいの想像を絶するイケメンだった。その暴力的な顔面偏差値に加えて、幼さと男らしさの中間に位置するようなアンバランスさが、危険な香りをこれでもかというほど醸し出していた。

 

 はふぅぅ…コレ…しゅごいぃ…!私、こんなの耐えられないぃ!!

 

「わ、私でよければお手伝いさせていただきます!いえ、是非させてください!」

 

 もう自分を抑えきれなくなった…。これは私は悪く無いよね…?多分この世の女性には勝てないよ…。

 

「…あ、ありがとう。俺は佐藤修斗って言うんだけど君の名前は?」

「申し遅れました、私は東雲桜と申します。桜でも駄犬でも雌豚とでも気軽にお呼びください。不束ものですがよろしくお願いいたします」

 

 …やばい、好きが止まらない…。今すぐ罵って欲しいよ!ていうか、私こんな距離で男性と話せたの初めて…!もうこれって実質ご主人様ってことだよね!?

 

*自己紹介をしただけ

 

 「それで旦那様。私めにどのようなことを所望しますか?首輪をつけて全裸で散歩はまだ明るいので…少し恥ずかしいですが、旦那様が望むのなら、さぁ!」

「旦那様じゃないです。いや、てか会って数分で飛ばしすぎでしょ!俺たちの関係性ほぼ初対面だよ!もっと落ち着こうよ!」

「焦らしプレイをご所望とは…。くぅっ」

 

 …やばい、やばいよぉ!こんなの…気持ち良すぎて戻れなくなっちゃう!

 

「…とりあえず家を探したいんだけど…ここら辺の土地に詳しい感じ?」

「んんっ、放置プレイなんて…ひどい!けどこの感じ、ハァハァ…癖になっちゃうぅぅ」

「おい、聞いてるんだけど」

 

 だめだっ!抑えるんだ私!こんなチャンスもう二度と無い!旦那様に結婚してもらうために清楚に戻せ!

 

「コホン。少々取り乱してしまいました。…そうですね、私は生まれてから19年ほどこの地に住んでおります。なので、この地域一帯なら大体は理解しています」

 

 よし!耐えられた…。拳を強く握りすぎて手が痛いけど…。現状耐えられてる私えらい!

 

「じゃあ東雲さん、道案内して欲しいんだけど」

「承知いたしましたわ旦那様」

「だから旦那ちゃうって」

「それで、どこに向かえばよろしいんですか?」

 

 も、もしかしてこれってデートの誘い!?てことは夜のお誘いもあるってことだよね…そ、そうだよね!男女2人っきりで隣を歩くお誘い…ごめんね咲、私大人の階段先に上がっちゃうよ。

 

*妄想です

 

『ハ、ハックション!…うーん風邪かなぁ。昨日お腹だして寝ちゃってたしなぁ…。てか、ここの味噌ラーメン最高すぎるっ。…ちょっとお財布には優しく無いけど』 

 

 …ん?どこに行きたいか聞いたら旦那様がダンマリになっちゃった。もしかして…。

 

「…失礼ですが旦那様。もしかして、何もわからなかったりいたします?」

「…」

「つまり…迷子ってことでよろしいでしょうか?」

「…はい」

 

 ぼ、母性が爆発するっ!くぅ〜やばいよぉ〜可愛いよぉ〜。生粋のドMなのに嗜虐心が芽生えてきゃうよ〜。もうほんとに食べちゃいたいくらいやばいよぉ〜。

 すぅぅ…。落ち着こう。ここは年上のお姉さんっぽく、頼り甲斐のあるところを見せないと!

 

「あらあら、お可愛いですね。でしたら、ここら一体の写真を見ていって、見覚えのあるところが出るまで私のスマホを使いましょう。それで見つかったら私が案内いたします。宜しいでしょうか?」

「…はい、お願いします…」

 

 萎れた旦那様が可愛すぎてキュン死にしかけました…。もぅ、心臓がバクバクしすぎて一周回って止まっちゃったかと思ったよ…。

 

 

 

 

 

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