黒髪ロングな淑女さん

 

 

 

 

 

side 佐藤百合

 

 

 

 

「え〜ゆり羨ましい〜」

 

「…いや〜、そうでもないんだよね…」

 

 今日もいつもと同じように定時に仕事が終わって、自宅に直帰しようと思ったら昔馴染みから少し飲まないって電話が来た。職場の近くにいるからという話だったので、少しだけならと二つ返事で返事をした。

 

「いやいや、男子高校生と二人暮らしだよ!まったく、前世でどんな徳積んだのよ〜。くぅぅ〜羨ましいよぉぉ〜」

 

 少しだけだったはずなのにぁ。

 

 もう大分お酒が回ってきているのか、目はトロンとしていて、赤く染まった頬を机にくっつけていた。

 そんな彼女の名前は高木栞。肩にかかるくらいの暗めの茶髪をハーフアップにして結んでいて、年にしては若く見られる可愛らしい女性だ。小学生から大学生までずっと一緒の仲の親友だ。今年で私が24だから…もう18年くらいずっと一緒にいるのかな?

 

「…修斗くんカッコ良いんでしょ?」

「そりゃぁもう、半端ないくらいのイケメ…あっ」

 

 あんま良いことばかりじゃないと言った手前、喜んでるところを見せたくなかったけど本音が溢れてしまった。

 

「やっぱそういう目で見てるじゃん!ずるいよ〜」

 

 手足をバタバタさせながら子供のような態度をとる。数ヶ月ぶりに会った栞は、相変わらず外見だけじゃなくて中身も子供っぽかった。

 とりあえず、一旦話を逸らそう…。

 

「…そろそろ大人っぽくならないといつまで経っても彼氏できないよ」

「くそぉ〜、現役高校生と二人暮らししてるからって勝ち組気取るなよぉ〜」

「いや、気取ってないって…」

 

 本当に気取ってないんだけど…。そもそも私だって彼氏できたことないし。

 

 …やっぱり私の今のこの状況って、全国の淑女が喉から手が出るほど羨望する状況なんだよね…。

 

 シュウちゃん。彼が私の家に来てくれたことはすごく嬉しい。…イケメンだし。今後の人生で、彼と結婚して子供もたくさん産んで、孫たちに囲まれながら老いていく。そんな全女性羨む夢を私は叶えられると最初は思ってた。まぁ不安がなかったか、そう聞かれるともちろん少しはあったんだけど、それ以上に現役男子高校生と二人暮らしという状況に少なくない期待を抱いていた。

 

 けど、蓋を開けてみればそんなことはなかった。むしろ一人暮らしの方が良かったと思ってる。

 …最初は性格がどんなに終わっていても、いてくれるだけで目の保養にはなると思っていた。でも実際にはそんな事なかった。まず、初日以外顔を見れていない。というか、部屋から出てきてくれない。基本的にするのはメールのやり取りで、やいあれ買ってこいこれ買ってこい、片付けしろ掃除しろとか言われるだけ。買い物とか掃除が遅かったりすると文句を言われるから本当に辛い。

 …でもさ本当に顔だけはイケメンだから、1日一回…いや、週一で…せめて1ヶ月に一回くらい顔を見せて労いの言葉をくれるだけで大分変わるのになぁ…。

 

「はぁ…」

 

 帰ってからのことを考えると重いため息がでる。体が重いよぉ…。でも、そろそろ帰ってご飯を作らないとまた文句を言われるからなぁ。

 

「…栞、私そろそろ帰るね」

「え〜あと少ししたらゆうちゃん来るのに〜」

「そろそろご飯作らなきゃだから。…あんまり遅くなると…その…ね。分かるでしょ?ゆうりによろしく伝えといて」

「ぷぅ〜。…分かった、ゆうちゃんには私たちより男を優先しましたって言っときますぅ」

 

 ほっぺたをぷくっと膨らませて、怒りましたって雰囲気を醸し出してる。そういう仕草は可愛いからモテると思うんだけどなぁ…。

 

「…次飲む時は私が奢るから、あんまりヘソ曲げないでよ」

「…だって久しぶりに3人で飲めると思ってたんだもん…。あの頃みたいに…」

 

 本当に良い子だよ。胸に飛び込んできた栞の頭を撫でる。

 

「…もう大丈夫、ありがとう。よし!また今度、次は予定を入れないで朝まで飲もうね。ん、約束!」

 

 可愛らしいちっちゃい手で小指を出してきた。

 

「ふふっ。言っておくけどそういうところが子供っぽいんだからね」

 

 二人の小指が結ばれて、仲良く昔のように大笑いをした。…楽しかったな。

 

 

 

 

side佐藤修斗

 

 

 

 

「…う〜んこれは…迷ったなぁ〜」

 

 散歩に出てから早数時間。知らない街の公園のベンチで途方に暮れていた。

 どうしてこうなった…。

 

「そりゃぁ、知らない家で目が覚めてるんだから知らない街にいるよなぁ。やらかした…」

 

 久々に清々しい気分で外を歩いてたからどうもテンションがあがっちゃって、そこそこの距離を適当に歩き回っちゃった…テヘペロ。

 

「財布もないしケータイも充電切れてるし…まじでどうしよう…」

 

 ため息をつきながら上を見ると、外に出た時には斜めの位置にいた太陽もすでに真上に上がっていた。

 

「とりあえず雨とか降らなそうなのは良かったな。…太陽の位置から家とかわからないかな…いや、さすがに無理か」

 

 そもそもそんな頭がなかった。

 

「あの…何かお困りでしょうか?」

 

 どうしたらいいかわからなくて、途方に暮れている時に優しい声が後ろから聞こえた。

 

 振り向くとそこには、クールな雰囲気を醸し出す黒髪ロングの美少女がいた。これわざわざ聞いてきてくれたってことは、道案内を手伝ってくれる感じだよな…?めっちゃ綺麗だし、知的な良い子っぽいから協力してもらおう!そして、あわよくばあんなことやこんなことまで…。

 

「…めっちゃ困ってます」

「わ、私でよければお手伝いさせていただきます!いえ、是非させてください!」

「…」

 

 …前言撤回、なんかやばそうなやつだった。めっちゃがっついてくるじゃん。

 

 でもそっか、この世界男女比逆転してるんだよな。だったら数少ない男がこんな公園にいたら近づきたくなるか…。向こうの申し出に対して困ってるって言っちゃった以上今突き放すのは違うよな…。実際めっちゃ困ってるしなぁ…少し話してみて考えるか。

 

「…あ、ありがとう。俺は佐藤修斗って言うんだけど君の名前は?」

「申し遅れました、私は東雲桜と申します。桜でも駄犬でも雌豚とでも気軽にお呼びください。不束ものですがよろしくお願いいたします」

 

 …すぅぅ〜。…こいつドMかぁ…。なんか後半の方言ってることおかしかったし、普通にやばいやつじゃん。…どうしようか。いや、今回限りしか関わらないなら大丈夫か?うん、きっと大丈夫だろう…多分。

 

「それで旦那様。私めにどのようなことを所望しますか?首輪をつけて全裸で散歩はまだ明るいので…少し恥ずかしいですが、旦那様が望むのなら、さぁ!」

「旦那様じゃないです。いや、てか会って数分で飛ばしすぎでしょ!俺たちの関係性ほぼ初対面だよ!もっと落ち着こうよ!」

「焦らしプレイをご所望とは…。くぅっ」

 

 多分困ってるところに話しかけてきてくれたし良い子なんだろう。細かいところだけど座っている俺に目線を合わせてきたり、日に当たらないようにしてくれたりしてくれてる。ただ、それを鑑みてもドMすぎて全然マイナスだわ。さっきからドM発動しすぎて全然会話が進まないし…。

 

「…とりあえず家を探したいんだけど…ここら辺の土地に詳しい感じ?」

「んんっ、放置プレイなんて…ひどい!けどこの感じ、ハァハァ…癖になっちゃうぅぅ」

「おい、聞いてるんだけど」

「コホン。少々取り乱してしまいました。…そうですね、私は生まれてから19年ほどこの地に住んでおります。なので、この地域一帯なら大体は理解しています」

 

 コホンって言ったぞコイツ。てか切り替えグロいな…。いや、俺がちゃんとやれって言ったんだけどさ…。

 

 本当に、頭のネジ飛んでるな…。まぁ、それはおいといて、頭は良さそうだしここら辺詳しいなら申し分ないかなぁ…。ドMを除いて。

 

「じゃあ東雲さん、道案内して欲しいんだけど」

「承知いたしましたわ旦那様」

「だから旦那ちゃうって」

「それで、どこに向かえばよろしいんですか?」

 

 待ってどこに向かえば良いんだっけ。俺何も覚えてないんだけど。

 

「…失礼ですが旦那様。もしかして、何もわからなかったりいたします?」

「…」

「つまり…迷子ってことでよろしいでしょうか?」

「…はい」

 

 くっそ、恥ずすぎて何も言い返せん…!

 

「あらあら、お可愛いですね。でしたら、ここら一体の写真を見ていって、見覚えのあるところが出るまで私のスマホを使いましょう。それで見つかったら私が案内いたします。宜しいでしょうか?」

「…はい、お願いします…」

 

 良い提案をしてもらって道案内もしてもらえるのに、なんか釈然としないなぁ…。なぜか知らないけど、負けた気がする。

 

 

 

 

 

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