異世界転生したと思ったら、男女比がバグった地球っぽい!?

@pastry-puff

知らない天井だ…

 

 

 

 

「疲れた…」

 

 ある日の仕事帰りのこと。怒涛の30連勤が終わり、エナドリをぶち込みながら自宅を目指していた。

 鉛の様に重い足を一歩ずつ交互に出す、その当たり前な行為すらも僕の体を蝕んでいた。

 もはや息をするのすら辛い。生命維持に必要な行為も億劫になるくらい疲れていた。

 今望むは布団で横になって睡眠をとる。たったそれだけのために足を進める。…本当なら今すぐこの場で横になりたい。

 

「やっと明日休みか…久々すぎて何すればいいかわからないな」

 

 この1ヶ月間休みなしで毎日残業が3時間程度。労働基準法なんて存在しない世界で働いていた。

 そんなところ辞めればいい、そういう考えもあると思う。けど、やめられないんだよ…。

 

 35歳安月給で一人暮らし。さらには魔法使いになって恋愛経験なしのコミュ障なインキャ。

 人と話すたびにキョドッちゃう僕を拾ってくれる会社なんて何処にも無いんだよ。

 実際にそこそこな大学卒業して200件くらいかな…就活したけど内定を貰えたのはここの一社だけ。

 

 初年度からずっと休みも少なくてブラックだったこの会社。最近、部長のセクハラに耐えられなくて大勢の人が辞めちゃったらしい。そのせいで休日返上勤務や、サービス残業に拍車がかかってしまった。

 

「もう、13年か…早いな。同級生の子とか何やってるんだろう」

 

 疲労が溜まりすぎて普段考えない様にしてることも考えてしまう。さらに、大分メンタル的に落ち込んでいたからだろうか。青信号の点滅に気づいていなかった。

 

「奥さんとか子供とか欲しかったな…」

 

 ぽろっとそんな言葉を漏らした直後、何か潰れるかの様な大きな音が聞こえた。それと同時に、今まで経験したことのない様な凄まじい衝撃が体を襲った。

 

「キャーーー!!」

 

 誰かの叫び声がした。確かに、よく女の人の前を通る時に叫ばれていたが近くに人はいなかった気がする。

 

 あれ、目が見えない。体が熱い。頭がふわふわする。

 

 体の違和感、悲鳴、大きな音…。

 

 

 あぁ、僕轢かれたのか…。

 

 

 不思議にもスッと入ってきた。生にしがみついていた訳ではないけど、死ぬのは怖い。でも、なんだかひどく安心していた。

 

「………な…」

 

 思い返せば小学校、中学校、高校、大学全てで恋人は愚か友達すらろくに作れなかった。

 親には大学の学費まで出してもらって、愛情もちゃんと注いでもらっていた。けど、大学生くらいの時から僕を見る目が冷たくなってきた様な、期待をしていない目に見えてきたんだ。その目が僕は怖くて逃げた。

 唯一の味方だったのに碌に恩返しもしなかった。謝りたいなぁ…。

 

 走馬灯…なのかな。大した記憶じゃないけど、僕は生きていたんだ。

 

 どのくらいの時間が経ったんだろう。数秒、数分にも感じるし、数時間にも感じる。

 意識はもう途切れそうだった。

 最後に残った聴覚で救急車の音が聞こえてきた。

 誰か、助けを呼んでくれたのか…。そんなことしなくていいのに、僕はもう死ぬ他の人を助けて欲しい。でも…人との繋がりはやっぱり嬉しいなぁ…。

 

 

 

 

—————————

 

 

 

 

「………?」

 

 眩い光が瞼に差し込む。そっと導かれるかのように瞼を開けば真っ白い天井に、ふかふかの枕。それに、もふもふの布団が身体を包んでくれている…。

 

「…いや、ここどこ」

 

 知らない天井だ。一旦、体を起こし辺りを見渡す。

 

「うーん…俺の部屋じゃないけど、普通の部屋っぽいな」

 

 少し散らかっているがなんの変哲もない普通の部屋。大鏡に勉強机、クローゼットにベッド。本当にありふれた感じの部屋だ。

 

「…見覚えがないってことを除けばなぁ」

 

 本当に見覚えがない。というか、記憶があんまりしっかりしていない。寝起きだからか頭がふわふわしている。

 

「…寝る前って何してたんだっけ?」

 

 寝ぼけて回らない頭をフル回転させる。…何か、強い衝撃を受けた気がするんだよなぁ…。

 

「あっ、…確か車に轢かれたんだっけ?」

 

 思い出した…。連勤からの帰り道車に轢かれたんだ。それにしては身体もどこも痛いところがない。なんなら逆に身体が軽すぎる気がする。いや、本当に軽すぎて違和感が…。

 

「もしかして、あれから数年経っててめちゃくちゃ痩せぼそってるってことか!」

 

 やばい、そんな気がしてきた。なんか、身体もフラフラしてきたし、やっぱり調子も悪い気がする…。

 鏡で今の状態だけ確認しとくか。怖いけど…。

 

 なんか体調の悪いような気がする身体をひきづって鏡の前まで歩く。

 

「はぁ…はぁ…」

 

 やっと辿り着いた鏡で自身を見る…。

 

「…はっ?」

 

 そこにいたのは街中で100人にアンケートを取れば100人が美少年と答えるであろうイケメンがいた。

 ばっちりとした二重の瞼に、吸い込まれるような輝きを持ったアメジスト色の瞳。痛みなど感じさせないサラサラな透き通った金色の髪の毛に、鼻筋の通ったに立派な鼻。

 

 一言で言うのなら…意味わからないほどのイケメンがそこにいた。

 

「誰だよお前…」

 

 鏡の中の男にビンタをしてみる。

 

 …いたい

 

「これって俺なのかなぁ…。となるともしかして、異世界転生した?」

 

 実際そういうのあるもんなんだ。フィクションの話かと思ってたわ。

 いやでも、なんか異世界にしては前世と大差ないな。テレビもスマホもあるし、なんならパソコンだってある。

 

 現実味のない話に高揚感を抱きながらも、少なくない不安とともに思案にふけていた。

 

コンッコンッコンッ

 

 急に扉がノックされてメチャクチャびっくりした。そりゃほかに人もいるか…。

 

「…シュウちゃん?起きてる?」

 

 にしてもなぁ…。うーん…やっぱり聞いたことない声だなぁ。どちら様なのだろうか…。ていうか、なんて声をかければ良いものか。

 

「…朝ご飯扉の前に置いておくから、食べられそうなら食べてね…。お昼ご飯はいつものように冷蔵庫に入れてあるから。叔母さんはもうお仕事に行くから何かあったらすぐに電話してね」

 

 声をかける間もなく、足早に階段を降りていく音が反響していた。

 やべ、何言えば良いか分からなくってなんも言えなかった。…人見知りここで出すなよぉ〜俺。

 しばらくして玄関に鍵をかける音が聞こえた。

 

「腹減ったし一旦飯食うか…」

 

 

 

 

 

 

 用意された朝ご飯を完食してとりあえずこの世界について調べてみた。

 

「なるほどねぇ…。大体は前世の地球と一緒かぁ〜」

 

 某ゾンビゲームとか世紀末ゲームの世界線じゃなくてよかったぁぁ!!

 

「この世界のおかしいところは男女比に関わるところか…」

 

 そう、何を隠そうこの世界は男女比が1対30だったのだ。だから、男女の法律に関係する事柄が大分バグりまくってる。

 

 例えば痴漢は痴女だし、総理大臣は初代総理大臣の伊藤博子からずっと女性だ。…いや、誰やねん。他にも大手ゲーム会社の代表や大御所芸能人は大体女性になっている。…なんか、いろいろと女性が牽引する世界になっていた。

 

 そしてここが一番大事なんだが…。男性の減少に伴いメチャクチャ男に甘い世界になってた。

 

「…戸籍抄本に登録されている男性には、月々50万円の給付金を納付するってやばいだろ…。それで国まわんの?」

 

 男性ってだけで商品が無料になったりもするし、税金がほぼ掛からないし、何より大体のことは希望すればなんとかなるらしい。…やばすぎる。

 

「なんでこんな事になってんだろ…。どっかの段階で歴史が変わってんのか?」

 

 こんな男尊女卑みたいな世界になってるからには、流石になんかしら理由があると思うんだよな。

 

「おっ、ビンゴっぽいぞ」

 

 とあるペキペディアの記事によると、どうやら前世の地球との分岐点は1867年の大政奉還あたりらしい。

 そこまでは調べた感じ前世と同じだった。

 

「…1867に未知のウイルスが確認されて、その結果男性の出生率が著しく減ったか〜」

 

 ざっくりと記事の内容をようやくするとこんな感じだ。

 まぁ、流石にざっくりすぎるからもう少しだけ丁寧に説明すると。その未知のウイルス…通称S 特異菌ってやつがY染色体の生成に悪影響を与えるらしくて、性染色体の組み合わせがXX型になりやすくなったらしい。

 だから、1919年から流石に男性減少に手を打たなきゃだよねって話になって、そこから補助金やら無償化やら保護やらが始まりだしたってこと。でも、結局日本の対策は世界に比べて遅かったから、男性の数はすでに結構減ってたらしい。ただ、幸いな事に日本人の男性はS特異菌にある程度耐性があるみたいなことが言われてる。

 

「今後どう動くべきなのかな…」

 

 色々と社会が変わった結果、この世界の男性は性欲とかも減衰してしまったらしい。調べたところ月一くらいが平均だった。もちろん俺は毎日でもいけるんだけどなぁ…。

 

「男ってだけでモテまくりで金も福利厚生も何もかも自由なのは嬉しいけど…」

 

 前世に比べたらすごい高待遇だ、何もしなくても生きていける。けど、それで良いのかな…。楽して生きていたいけど、夢叶えたいな…流石に無理かな?

 

「いや、自分に嘘をつくな前田世一。前世であんだけ逃げてきて、やりたいこともほとんどできなかったんだ。せっかく神様がこんな奇跡をくれたんだ、今世こそ心のままにやろう!」

 

 そうだよな、ばぁちゃん。

 

「よし!思い立ったが吉日だ。一旦外にでて散歩しに行こう!」

 

 リラックスするためには適度な運動から、そう思ってベットから勢いよく立ち上がった。

 

「ん?」

 

 立ち上がって気づいたけど、勉強机の上にスマホとなんだこれ…学生帳か。この二つが乱雑に置いてあった。

 

「そう言えばこの体って持ち主とかいたのかな…。いや、余計なことを考えるのはよそう」

 

 もし、いたとしても何もしてやれないし…そもそもわざとじゃないからなぁ。…とりあえず考えてもわからないから一回置いておこう。

 

「…洋星学園1年11番佐藤修斗15才。高一か〜随分と懐かしいなぁ」

 

 思い出す青い春…なんてものはなく灰色だったな。てか、俺ってこの世界では佐藤修斗なんだけど。確かに言われてみればさっきの人もシュウちゃんって言ってた気がするし…。これ咄嗟に名前呼ばれて反応できるかな…。あとで少し訓練して、あとは実践で慣らすか。

 

「よし!スタートダッシュミスらないように頑張んなきゃな…。入学式はいつかな。てか、そもそも今日って何日だっけ…」

 

 スマホの電源を入れて日付を確認する…うーん4月8日か〜。次に学校の入学式の日を検索する。うん…薄々勘付いてはいたけど入学式って大体4月8日だよね…。

 

「…終わったな…。散歩行こ」

 

 どうやら輝かしい学生生活は遠のいたらしい。

 

 

 

 

 

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