第6.5話 幕間 アンジュのこれから

 ――アンジュが明確に意思を示したあの日から数日後。


「すぅ……すぅ……」


 その夜も、シルヴィアが本を読み聞かせていた。

 そしていつの間にか眠りについていたアンジュ。


 ここまではよくあることだった。


「(……う、動けない)」


 しかし、この日のアンジュはシルヴィアの膝を枕に眠ってしまっていた。


 動いてしまえば当然彼は起きてしまう。

 どうしたものかと思案に暮れるシルヴィアだった。


「(……たまには、こうしてゆっくりするのもいいか)」


 そう思い直し、眼下のアンジュを見る。


「……」

「……むぅ……」


 綺麗な顔立ちをしている。自身と同じようで少し薄いブロンドの髪。

 とても可愛らしい寝顔。


 数日前までは心を閉ざし、何をしても反応しなかった少年。

 それが今や、無防備に自身の膝を枕に寝ているのだ。


「……ふふ」


 思わず笑みが零れてしまった。


「(いかんいかん)」


 静かにしていないと起きてしまう。

 そう思い、静かにゆっくり頭を撫でる。




「(さて、これからどうするか……)」


 今夜のことではない。


 アンジュの今後のことだ。

 当初の絶望的な状態からは抜け出せ、一定の成果を上げたといってもいいだろう。


 ここで孤児院に引き渡すべきか、それとも……。


「(私はどうしたいのか、なぜ彼の面倒を見ようと思ったのか)」


 キーファが最初に言ったように、こういう子を見たのは初めてではない。

 では、なぜ彼を引き取ろうと思ったのか。


「(確かに聞こえたんだ。あの状態ででも、確かに)」


 生きたい、悔しい、と。

 とてもそう言えるような精神状態じゃなかったし、肉体的にもボロボロだった。


 それでも確かに聞こえた。


「(だからこそ、私が面倒を見てやりたいと思ったんだ。この絶望の中でも生き抜ける力を付けさせてやりたいと……!)」


 考えがまとまった。

 まだまだ、アンジュは私が面倒を見てやらないといけない。




「……」

「……すぅ……すぅ……」


 再度頭を撫でる。

 とても可愛らしい、弟とはまた違う……何だろうか。


「(難しいことを考えるのはもう終わりだ!)」


 やると決めたことをやる、この子の面倒を見ると決めたのだから、最後までみる。


 改めて決意を固めたシルヴィアだった。

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