第1話 滅びた村の生き残り
「かぁーっ……こりゃぁ……ひでぇなぁ……」
王国を中心に四方を守護する辺境の街。
そこからしばらく行った先にある開拓村。
その村が魔物に襲われたとの報せが入り、急ぎ騎士団が向かった。
強力な魔物にも対抗できる力を持った屈強なる騎士団。
そんな彼らが見たものは、全てが終わった村だった。
「……生き残りは……まぁ、いねぇだろうなぁ……」
建物も畑も、人も……ほとんど全てが粉々だった。
抵抗の痕か、魔物の残骸も少なくない。
幸いと言っていいのかどうか、既に生きている魔物はいなかった。
「ゴブリンの群れだったようですね。危惧すべき魔王の可能性は少ないかと……」
「……そうだな。よし、まずは消火だ! それから優先して遺品を見つけろ! 服でも家具でも何でもいい!」
既に滅ぼされてしまっているケースでは他にやることもなく、いつも通りの指示を出し、自身は拠点にて待機する。
「残された人へと届けられる物が少しでも見つかるといいのですが……」
「……あぁ。お、武器類はこっちだ!」
次々と様々な物品が集められ、遺品となりそうなものと武具類に分けられていった。
武器となる鉄は貴重なもの。それに遺品で後を追われるのも後味が悪い。
「お前らは俺たちと一緒に先へ進もうな」
剣などそのまま使える物はそのまま、包丁など武器に適さない物は一度溶かして矢尻に。
そして彼らの意思を継いで、一緒にまた進めるのだ。人類の開拓を。
「隊長、そのセリフはちょっと……くさいです」
「……」
めんどくさがりだが人情家の隊長、キーファ。
それを支える冷静な副隊長のアール。
この後数刻もしないうちに、対照的な2人が揃って頭を抱える問題が発生するのだった。
◆
「ここも……酷いな」
白銀の鎧に身を包んだ女性が、その鎧の重さを感じさせずに素早く正確に1つまた1つと人が生きていた証を探す。
このような作業は初めてではない。
騎士団に属して既に数年。魔物の殲滅も、その魔物が滅ぼした村々の後処理も何度も経験してきた。
「……」
だから、生き残りを見つけることも初めてではなかった。
「――っ! 生きて……いる、のか?」
判別がつかなかったのも無理はなかった。
女騎士、シルヴィアが見つけたのは頬はこけ、体は骨と皮と……惨憺たる凌辱の痕が残る少年だった。
何より、この世の全てに絶望したかのような昏い眼が一際目立つ。
辛うじて生きていると判断できたのは、微かに聞こえる擦れた呼吸音だけ。
「……」
少年の昏い瞳がわずかに揺れる。
「――っ! 待っていろ、すぐに助けるからなっ!」
乾ききった惨劇の痕、それを全く意に介す様子もなく女騎士シルヴィアが少年を背負い拠点へと向かう。
慌てずゆっくり、かつなるべく早く。
本来ここまで衰弱している人間を動かすのは良くないのかもしれない。
そう思ってはいたが、何かがシルヴィアを突き動かした。
「大丈夫だ! 向こうには医療班もいる! もう少しだけ我慢してくれ!」
「……」
背負った少年を何とか励まそうとするシルヴィア。
「この隊には特別に優秀な回復魔法の使い手もいるんだ! だから安心してくれっ!」
「……シテ」
全て滅ぼされたと思われた村、その最後であろう生き残りの少年。
何とか、何とか生きていて欲しい。
そう思いながら必死に口と足を動かすシルヴィア。
しかし……。
「生きるんだっ! 大丈夫、絶対に――」
「……コロ、シテ……」
その想いとは裏腹に、少年の口から出てきたのは……やはり今まで何度も聞いてきた言葉。
しかしシルヴィアにとっては予想外だった。
「――っ! ダメだ、生きるんだ! 私が……私が責任を持って生かすんだ!」
「……」
年端もいかぬ少年の口から出た、死を望む言葉。
それでも……それでも、と最後は自分に言い聞かすように言葉を紡ぐシルヴィア。
「大丈夫、大丈夫だから……生きるんだ、生きてくれ……」
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