第四十六話 八宝祭
「さて、此処が広間じゃ。
そう言い残して去っていく
「姫様、お疲れではないですか?」
「私は大丈夫。昔から連れられて結構慣れっこだもの。桃は大丈夫?」
「俺はほら、昔から鍛えてますから。多少の事ではへばりませんよ」
「頼もしいわね」
口元を手で隠しながら、控えめに
慣れている、とは言ったものの、彼女の顔には幾らかの疲れが見て取れた。
とはいえ、恐らくはこの遠征から来る疲れではない。
本人が言った通り、
(……そういえば、
無理もない話だとは思う。
今度は父の
戦いにおいて絶対はない。
一見勝ちが濃厚な戦であっても、それこそ先の瑠璃領の反乱軍の様にひっくり返されることだってある。
(今回の遠征で、少しは気持ちが休まればいいけれど……)
幸いというか、
最近仲良くしている狛もいるし、少しだけ離れた土地の空気吸って気分をリフレッシュできる手伝いをしたいところだ。
後で姫様が言っていた栗饅頭の売っているという店に、皆で行ってみるのもいいかもしれない。
そんなことを考えていたら、
それに気が付いて、俺も含めた皆の背筋がピッと引き締まる。
「さてさて、待たせたの」
広間の奥。一段高くなった領主の座に陣取った
「伯父様、この度はお招きいただき、ありがとうございます」
「
「よいよい。堅苦しいのは好かぬでな。特に
「は……」
俺がその言葉に少しだけ肩の力を抜いたのに合わせて、後ろの二人も少しだけ纏っていた空気が柔らかくなった気配がした。
ここで
素直に従ってくれたのは非常に助かる。
「それで伯父様。私をここに呼んでくださったのは……」
「うむ。
「お母様の」
「うむ。まずはそうじゃな。妹の一族について話しておこうか」
「おねがいします、伯父様」
しかしながら自分の母に関することを聞き逃すまいと、その表情はいつにも増して硬い。
「麻呂や妹の母……つまり
「
「その
「私が……」
驚きからか直ぐに言葉が出ない様子の
俺の八岐大蛇に続き、またなんとも大物が出てきたものだ。
そして、彼女の名前だけが
母方の一族とかかわりの深い
「でも、それが今回私が呼ばれたこととどういった関係が……?」
「それを話すには、まず
「えっ……っと、魔物の中の最上位の存在であり、神にも等しい存在。一度その力を振るえば天災すら引き起す力を持ち、その力をもって世界を安定させる魔物です」
「左様。よく勉強しておられるの。では、
「いえ、数までは……」
具体的な数は、知ろうと思った事はあるが少なくとも自分が読んだ分権の中に記述は無かったはずだ。
答えられなかった俺に対してさぞ
「ほほ、よいよい。むしろここで具体的な数を出さなかったのは正解じゃ。なにせ
「ではなぜそのような問いを?」
「うむ。まずは
「それが先ほど
「その通りじゃ。この大陸において
そう言って
じっと黙って聞いていた二人なりに話を嚙み砕いていたのだろうが、顔に出てしまったのだろう。
「いえ、私は……」
「よい、同席を許したのは麻呂じゃ。申してみよ」
「では……」
背後から感じる緊張した空気はそのままに、ハヌマンの声が続く。
素直に応じたハヌマンに
「
「確かに、
「……代替わり、ですか」
その一言を聞いて、
「
「つまり、具体的な数が分からないというのは過去に眠った
「そういうことじゃ従者殿。そして此度
「そなたら、付いて参れ」
振り返らずに一言、それだけ告げて歩き出した
廊下を抜けて暫く歩くと、辿り着いたのは厳重に閉じられた扉。
「ここじゃ」
宝物庫だろうか。
重い音を立てて開いた観音開きの扉の奥、いくつもの品が納められた無機質な部屋。
その奥に目を向けると、収められた宝物庫の主であるかのように一本の笛が納められていた。
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