怪談談
次の日の昼も、僕は莉子さんと話すことになった。
「怪談の形式を決めようと思います」
「形式なんてあるんですか?」
ある……いや、ない……いや、ある。
「色々あります……というか、怪談はどんな形でもいいんです、怖ければ。でも、主流のものはやっぱりありまして、大きく分けて2つです」
「勉強になります!」
いや、私は素人だから勉強にならないでほしい。
もっとちゃんとした人から学んでください莉子さん。
「不気味な雰囲気が続く怪談と、怖い箇所が明確にある怪談、です。これは後者に決まっています。何故かと言えば、僕が残らない可能性があるからです」
「残らない? どういうことです?」
残らなければいけない。
「僕が目指しているのは
「だから海輝さんを怪談において重要な点に置かなきゃ駄目……ってことですね!」
莉子さんは物わかりが良い。
会話にストレスがないし、きっと頭がいいのだろう。
「その通りです。不気味な雰囲気を中心にすれば、僕の部分が改変されたものが間違いなく出てくるでしょう」
「なるほど。で、決まってるなら今から何を決めるんです?」
質問で会話を進めようともしてくれて、とても助かる。
「終わり方の形式です。主流なのはもやもやした不完全燃焼か、しっかりしたオチをつけるか、の2つですね」
「不完全燃焼って……駄目じゃないですか?」
普通の物語なら、そうだ。
「そう思いますよね。しかし、怪談……いや、ホラー全体ですかね。ここにおいては違います。不完全燃焼感が不気味さを醸し出し、読み終えても後を引くのです」
「なるほど!」
「しかし、面白さを求めるならばほとんどがオチをつけるものに落ち着きます」
「じゃあ、どっちにするんです?」
実は、少し迷っている。
「この怪談の目的は、僕を覚えていてもらうことです。つまり、後を引く不完全燃焼のほうがいい……と考えているのですが、莉子さんはどう思いますか?」
「面白いほうが広まるだろうし、不完全燃焼は難しいと思うので、オチをつけたほうがいいと思います」
なるほど。
「ありがとうございます、そうしてみようと思います」
「すみません次の患者さんも待っているので、私はここら辺で!」
残念だ。
「ありがとうございました」
「また今夜!」
時間が経つのは早いもので、物語を組み立てるだけで1日近く使ってしまった。
早く書き始めなければいけないだろう。
……書き始めたはいいものの、難しい。
考えている間に時間は経ち、いつのまにやら夜食の時間。
何故か莉子さんが病室にやって来た。
「原稿は進みましたか、先生? なんつって」
莉子さんのジョークで、緊張にも似た感情が少しほぐれる。
「はは……日常パートから書き始めたんだが難しくてね、何も進んでないです」
「日常パート? 怪談にもそんなものがあるんですか?」
読んで分析してみて、僕も驚いた。
怪談に日常パートがあるなんて、そんなこと思いもしないだろう。
「日常パートを作る利点は……日常と恐怖のギャップを作るとともに読者の没入感を高め、『もしかしたら自分にも』などの副次的な恐怖が期待できることですね」
「なるほど……で、なんで難しいんですか?」
「前フリとしての役割があるからです。恐怖とのバランスを考えると書くに書けないので、後回しにしようかなと考えています」
要するに……複雑なんだ。
「一応言っておきます。消灯後にスマホ使ったら駄目ですよ?」
ああ、バレていた。
大人しく寝よう。
「しっかり寝ますよ」
「夜中に執筆しちゃ駄目ですからね?」
わかりましたから。
そのジト目をやめてください。
「大丈夫です、わかっていますから」
莉子さんが去って、僕は眠りにつく。
そして……翌日の朝から、地獄は始まった。
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