見つけました
さて、いつのまにやらカウンセリングの時間。
やって来たのは、先刻僕にやりたいことを問うた莉子さん。
僕から少し、話しかけてみる。
「あの……やりたいことを見つけました。怪談に、なりたいです」
「???」
莉子さんが、きょとんとした顔をしながらこちらを見つめてくる。
「ああ、いえ。言い間違えてしまったんです。怪談を書きたい、と言おうとしていました」
「てっきり、小学生の将来の夢かと……何か、お手伝いできることはありますか?」
手伝い、か。
莉子さんがここにいるだけで、手伝いになっていると言えるのではないか……?
まぁ、そんなことは置いておこう。
「では、少しの間ですが話し相手になってくだされば。あと、書いたものを読んで感想を頂けるとありがたいです」
「そのくらいなら大丈夫ですよ! ぜひ手伝わせてください!」
「ありがとうございます」
「そういえばどんな怪談を書くんですか?」
どんな怪談……そう。
怪談にも沢山、決めるべきことがあるのだ。
「それを今から決めよう、というところです。そうですね……病院が舞台、僕が怪異というところまでは決まっています」
「海輝さんが、怪異……?」
莉子さんは理解が追いついていないような素振りを見せ、頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいるように錯覚させる。
……また困惑させてしまった。
「ああ、話していませんでしたね。この怪談には目的がありまして……」
「どんな目的ですか?」
「僕が死んだ後に、忘れられないようにするというものです。この怪談を広めて、僕は怪異として生きながらえたいのです」
「生きる、の定義が独特ですね……怪異として歪められた状態でも大丈夫なんですか?」
確かに僕自身を残したい。
その気持ちは確かで、それでも……歪められようと、僕は僕だ。
なら、生きるために。
そんなこと、気にしてはいられない。
「大丈夫です。それでは、ここからどうやって怖くするか考えていきましょうか」
「おおー」
「莉子さんは、人間が何を怖いと感じるかわかりますか?」
「……危害を加えてくるもの、とか?」
あながち間違ってはいないし、なんならそれは沢山のホラー作品に使われている……が。
「それも怖いですが……人は何より、わからないことに恐怖します。理解できない何か。理の外にある何か。現代科学で説明できない何か。そのようなものを、人は恐れるのです」
「なるほど……」
「だからこそ、相性が悪いんですよ」
「確かに、海輝さんのままだと説明できてしまう……」
そう、説明できてしまえば、怖くなくなるのだ。
怖くなくなれば、どうなるか。
明白だ、そんな怪談は残らない。
「だから、文章は一旦後回しにして僕をどう怪異にするか考えていこうと思います。莉子さんは、僕がこれからどのような作業をすると思いますか?」
「……情報の削除?」
「すごいですね……正解です。これから僕を要素に分解して、必要なものだけを残します」
「海輝さんの要素……病人、男、とかですかね?」
「残すならそこでしょう。あとは、怖くするだけが目的ではないので……名前も残しましょう。『コトノハカイキ』ですね。本来、現象などに名前をつけると恐怖は軽減されるのですが……今回は、僕自身を残すこと、そしてそれ以前に怪談として流布することが目的なので、名前を持たせたいのです。だって、トイレの花子さんは、どこにおいてもトイレの花子さんでしょう? 名前をつけることで同じようなことが期待されるのですよ」
……一人で喋りすぎた気がする。
「詳しいですね……以前もどこかで怪談とか書いてたりしたんですか?」
「いえ、完全な素人です。だから心配なのですが……莉子さんが手伝ってくれるので安心でしょう」
「あはは……私はそこまで役に立てませんよ?」
「僕が死んだ後に怪談を広める、などは莉子さんにしかできませんよ」
「……確かにそうですね!」
その嬉しそうな声に、少しだけプレッシャーを感じてしまう。
自分のためだけではなくなってしまった。
絶対に、完成させなければならない。
「では、僕に異常な要素を付け加えていきましょうか」
「ただの人、というのは駄目なんですか?」
「得体が知れないほうが怖いでしょう。ここからバックストーリーをつけたりして更に怖さを軽減してしまうので、説明できない部分をつけて恐怖を水増ししないといけないのですよ」
実は説明している僕も、よくわかっていない。
ある程度感覚に任せて名作の怪談を模倣している関係上、このようなことが必要なのではないか、と思ったことを言っているだけなのだ。
「なるほど!」
……だから、そこまで納得はしないでほしい。
「異常さを際立たせるために、『普通』と繋げたいですね。例えば……ただ手を振っているだけなのに激しい恐怖を覚えさせる、とかどうでしょう」
「不気味ですね! いいと思います」
自分を不気味と言われるのはあまりいい気がしない。
まぁ、不気味さを求めているのだからしょうがないことではあるが。
「続きはまた明日にでも考えましょうかね、ありがとうございました」
「いえいえ、私も楽しかったですよ海輝さん!」
これで本当に怪談を完成させられるだろうか?
そんな不安と共に、僕……いや、僕たちの怪談制作は始まった。
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