第2話 目覚め

「……?」


 ……目覚めた時、最初に目に入ってきたのは、天蓋というのか、王侯や金持ちの寝台の上を覆っているアレであった。部屋の内装や調度品なども見えた。それで自分は極めて豪華な寝室に寝かされているのだと解った。


 おかしいなあ……俺は確か帝国軍とドン・シュルツに嵌められて、胸を撃ち抜かれて死んだはず……ではここはどこだ? 天国……にしてはちょっと俗っぽすぎる。考えられる可能性としては、命は助かって介抱されているという事だ。ここは帝国軍の司令部だろうか?


 しかし、どうもそうは見えない。第一にこの部屋の雰囲気……何となくファンシーというのか、何というのか、まるで子供部屋みたいだ。側には可愛らしいクマの縫いぐるみまで置いてある。訳が解らない。彼は困惑した。と、そこへ……


「……あ! お目覚めになられましたか」


 扉が開いて現れたのは、一人のメイドであった。どう見ても従軍看護婦などではなさそうだ。何とも戦場には到底似つかわしくない。ここは帝国軍の、かなり後方の高級将校専用の保養所みたいな所なのではないかな、とも思った。彼は反帝国レジスタンスの英雄と呼ばれた男……やはり敵とはいえそのぐらいになると丁重な扱いを受けるものなのか。帝国軍にも武人としての情けというか心得があるようだ。ちょっと訊いてみた。


「あのさ、そのクマ……最近よく聞く戦場神経症とかいうヤツの治療の一環とかなワケ……?」


 喋って気付いた。声がおかしいのだ。妙に高い。まるで子供のようだ。喉がおかしくなったのか、いやどうも違うようだ。まるで最初からそういう声だったようだ。彼はまた困惑した。メイドは笑って言った。


「あら、お忘れになってしまったんですか? ベアトルトちゃん、姫様の一番のお友達でいつも一緒だったじゃありませんか」

「……そんな友達がいた覚えは無いんだがなぁ……いや、ちょっと待ってくれ? 今何て言った?」

「一番のお友達……」

「その前……」

「ベアトルトちゃん……」

「その後だ」

「姫様……?」

「それだ。どういう意味だい? 大の男を捕まえて……馬鹿にしてるのか?」

「どういう意味って……あなたはご自分の事をお忘れになられてしまったのですか?」


 そう言ってメイドは手鏡を取って、彼の眼前に差し出した。


「……あなたのお名前は、ルリスティーヌ・ド・シュタンダルト様。アーネムランド王国の第二王女殿下ではございませんか」

「馬鹿な……っ!?」


 彼は絶句した。その鏡の中に写し出されていたのは、確かに十歳前後とおぼしき、いたいけな一人の少女の姿だったのだから。

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