戦場の英雄、転じて姫となる
浦里凡能文書会社
第1話 英雄デイビス・グロンケットの最期
それは凄まじいまでの剣林弾雨の嵐であった。辺り一面は土煙とも砲煙ともつかない濃い煙に覆われ、まさに一寸先は闇である。
そんな中、なかば悲鳴とも雄叫びともつかない人馬の叫び、砲声、銃声が四方八方から響いてくる。すなわち凄まじい混戦乱戦であった。
「チクショウ!一体どうなってんだ!? この辺りは既に我々の勢力圏内のはずじゃあなかったのかぁっ!?」
その馬上の男、デイビス・グロンケットは四方八方から遅い来る敵兵に銃を撃ちまくりながら叫んだ。そこへ、生き残った戦友たち数騎が駆け付ける。
「デイビス!無事か!?」
「ヴィルソン!お前も生きてたか」
「ああ、何とかな」
「それにしても何だってこんな所に帝国軍の大部隊が……!?」
「クソッタレ!嵌められたんだよ俺達は!ドン・シュルツのヤロウにな!」
「そんな……!」
絶句するデイビスにヴィルソンは言った。
「デイビス!ここは俺達が食い止める!お前は逃げて生き延びろ!」
「な……っ!? バカヤロウ!お前らを見捨てて俺一人だけおめおめと逃げられるか! 俺もここで……」
「いいから聞け!」
ヴィルソンは馬を寄せ、デイビスの肩を掴んで諭した。
「反帝国の英雄のお前が戦死したとなれば俺達レジスタンス全体の士気に響く!それにローザを……あの子を結婚前に未亡人にする気か?」
「……」
「逃げてくれ!」
「くそっ……済まん!」
デイビスは愛馬に一鞭くれると、戦友達を残して戦場を駆け去った……。
……それから何時間が経っただろうか。彼はただ一騎、森の中をさ迷い歩いていた。もう銃声は聞こえなかった。致命傷は負ってはいなかったものの、各部の浅い傷口からは血が流れ続け、加えて深い疲れが彼の気力と体力を奪っていた。
「……皆もうやられたかな……済まん、この仇は必ず……しかしドン・シュルツ大佐……あの共和国正規軍の前線指揮官……本当に俺達を嵌めたんだろうか……?」
……と次の瞬間、突然轟音が鳴り響き、彼の身体は衝撃を受けた。銃弾が自分の体を貫いたのだという事を理解したのは一瞬遅れてからだった。彼は馬から落ち、地に倒れ伏した。
薄れ行く意識の中で確かに見たものは、現れた帝国軍の将兵達とドン・シュルツ大佐の姿であった。なんだ……ヤツは帝国軍とグルだったんだな……。最後に、後方に残してきた同じレジスタンスの闘士であり恋人でもあるローザの姿が思い浮かんだ。そして、彼の意識は永遠の闇の中へと沈んでいった……。
デイビス・グロンケット。神聖紀元暦1888年、大陸中央の軍事大国ドラグア帝国、東方の隣国シエル共和国へ侵攻して始まった戦役において、反帝国レジスタンスの中心的人物の一人となり、数々の戦場にて味方を勝利に導き英雄と呼ばれるも、味方の勢力圏内を小数部隊にて移動中の所を、帝国軍部隊の急襲を受け、戦死す。
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