女始末人絵夢5(0)総十郎の朝

 ごく普通の古くて小さな日本家屋だった。

 朝日の射しこむ中、縁側に座って古都総十郎はスズメに餌をやっていた。

 残りご飯をばら撒くとそれにスズメたちが群がる。

 長閑な光景であった。

 刈り屋としての総十郎の力は針一本を念動力で動かすものである。ささやかな、恐らくは刈り屋としては最弱の力である。化け物揃いの古都家の歴史の中でもこれほど無力な者は他にはいない。

 だがそれでもなお総十郎が裏刈り屋のトップの座にいる理由は、自分で鍛えて学んで身に付けた幾つもの力であった。

 裏刈り屋総差配め高田の馬場のもんも爺直伝の気読みの力もその一つだ。

 元々は梅花心易と呼ばれる占いが原型だ。この占いは周囲で起きるあらゆることを予兆と捉え解釈する。もんも爺が使っているのはそれを極限まで押し進め研ぎ澄ましたものだ。

 あらゆるモノの流れ行く先を知る、気読みの技はいわば強力な未来予知の一種である。

 総一郎のどこを見ているとも知れないぼうっとした瞳の中に様々な予兆が自然と捉えられる。

 大勢のスズメの鳴き声がする。鳴いた回数と方角をさっと計算して判断する。

『何か大きなものが来るよ』

 そう結果が出た。

 エサ場に乱入した鳩が撒かれたエサを盗み取るその行為が次の結果を示した。

『大勢が死ぬよ』

 いったいどこから?

 一斉にスズメが飛び立った。

『空から』

 そう告げていた。

 しばらくの間、総十郎は考えていた。自分はそれに関わるべきかと。


 人は死ぬ。どこでも死ぬし、いつでも死ぬ。高貴な目的でも死ぬし、愚かな欲望でも死ぬ。

 死は誰にも止められない。なぜならば、生こそ死の原因だから。最初から生きていなければ死ぬということはない。

 だからこそ例え大勢が死のうともそれは根本的に総十郎のせいではない。自分はヒーローではないし、他人を助ける義務を負っているわけではない。それが総十郎の考えだった。

 

 総十郎は心の中で天秤の上の錘を測る。動くべきか、動かざるべきか。

 どうやって迫って来る大きなモノを止めればよい?

 総十郎はふうっとため息を吐くことで、その問いを世界に投げかける。

 縁の下からスズメを狙っていた猫が獲物が逃げたことにがっかりして出て来た。

『最悪』

 落ち葉が風に吹かれて飛んでくる。それは南東の方角からやって来た。

『最強』

 雲が様々に形を変えながら消える。

『最恐』

 虫が一匹、足下を駆ける。

『最凶』

 総十郎は立ち上がった。答えは明確だった。

 最悪最強で最恐にして最凶の猫又。世界広しと言えどもそんなヤツはただの一匹しかいない。

「そうか。百虎王にぶつけるのか」

 最後に総十郎の影がゆらりと揺れた。

『災厄の姫』

 その影はそう告げていた。

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