女始末人絵夢2(1)発端
高層ビルの最上階でグラン財団の長であるグラン夫人は報告に目を通していた。
今見ているのは本来の財団の経理諸表ではない。闇の復讐組織ヴェンデッタの秘密報告書だ。この内容が万一外に漏れでもしたら、世界大戦を誘発しかねない代物だ。
タッチパネルをなぞっていた夫人の指がふと止まる。
そこにはつい最近日本という国の一地域で行われたある作戦についての報告が載っていた。
ヴェンデッタの指示で行われたある暗殺の報告だ。ターゲットは犯罪組織の幹部が一人だけのはずだったが、報告では建物が一つ倒壊し、その組織に所属する大勢が死んでいた。
「あら? 最近誰かノーマン兄弟に依頼を出したかしら?」
喉マイクがそれを拾い、すべてを見張っている警護長がイヤホンを通じて素早く答えた。
「ノーマン兄弟は現在アメリカに居ます。本件とは関係ありません」
その答えがまたグラン夫人の注意を惹いた。
その問題の組織の名前はSIMATUNINだった。
聞きなれない名前。
始末人。
西暦2000年の日本の時代劇ドラマのファンならばピンときただろう名前だ。
だがグラン夫人はそうではなかった。彼女は日本などという国に興味はない。
これから先はそうもいかなくなるが。
ヴェンデッタには抹消すべき個人や組織の名前が載ったダークでヘルな長い長いリストがある。
そしてそのリストにはヴェンデッタ自体が雇っている者たちの名前も載っている。
毒をもって毒を制する。
悪は滅びることでのみ善を成す。
そしていつの日かこれらのリストが完全に空になるとき、世界は限りなく平和になるのだという理念がその根底にある。
ノーマン兄弟はそのリストの中でも相当上位に位置している。だが彼らを殺そうと行われた作戦は悉く失敗しているため、その名前が消されることはなかった。さらにはヴェンデッタはときおり彼らにしかできない仕事に雇いもしている。
グラン夫人の指がリストを辿る。その指があるところで止まった。
黒虎宅配便は最近抹消すべきリストの上位にある組織の一つだ。日本の殺し屋組織だが、とにかく一般市民へ被害が及ぶのを何とも思っていない。そのためにここ数年で急速にリストの上位に迫って来た。そんな連中だ。
名前こそふざけているがその犠牲者たちは食い散らかされた肉片で見つかることが多い。実際に虎を連れて仕事をしているのではないかと言う者さえいる。
「ベン」
グラン夫人は警護隊長の名を呼ぶ。
「イエス、マム」すぐに返答がイヤホンに返って来る。
グラン夫人は自分のアイデアを説明した。
「毒をもって毒を制する。ウチの組織にピッタリのやり方だと思います」
お世辞抜きで警護隊長が返す。
「ではそうしましょう」
グラン夫人はタッチパネルを操作した。
魔女の裁定は下ったのだ。
始末人には黒虎宅配便の抹殺を。
黒虎宅配便には始末人の抹殺を。
生き残った方はこれからもヴェンデッタが使い続ける。
生き残れば・・の話だが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます