第二章

第29話 シャッフル&スウィング

今回から学校でのイベントも入れていきます。

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 それはゴールデンウィーク明け一発目のLHRでの出来事だった。


「よーし、お前ら。今度の体育祭の出場種目決め終わったら、席替えすんぞー」


 開口一番、担任の人見先生がそう言うや否や、教室が大いに沸き立った。

 特に男子の多くは静かな闘志がメラメラと燃え上がっていた。


 理由はすぐに察した。


 ——間違いなく美玲だろうな。


 ちらりと教室の中央後方を見遣れば、案の定というべきか、殆どの男子が美玲の様子を窺っていた。


 まあ、当然か。

 物理的に距離が近くになるだけで話す機会はかなり増える。

 仲良くなりたいのであれば、隣の席を狙うのは自然な流れといえよう。


 それに今の美玲の両隣に座っているのはどちらも女子。

 ここで隣の席を取ることができれば、他の男子よりもお近づきになるチャンスは一気に増える。


 どうやら美人の隣の席を狙うのは、半世紀前から続く共通の性のようだ。


(……ま、どれもこれも俺には関係ないことだけど)


 少なくとも、俺が席争奪戦に参加することはない。

 自慢じゃないが生まれてこの方、窓際最後方みたいな所謂当たり席なるものに座ったことがないからだ。

 大抵が廊下側三列、前方三番目までのいずれかかが俺の定位置だった。


 ちなみに今も廊下側二列目の一番前が俺の席だ。

 恐らく今回もこの範囲のいずれかになるだろう。


 それから体育祭に関してだが、この手のイベントと陰キャの相性は最悪だ。

 美味しいところは陽キャに奪われやすいし、下手に目立とうものなら普通の人間よりもやっかみが飛んできやすい。

 言ってしまえば、悪目立ちするだけで損しかないのが陰キャの宿命だ。


 思えば、中三の時とかマジで酷かったもんなあ。

 どこに入れられても厄介者扱いされてたし。


 今思い返しても苦い記憶だ。


 ……いや、それ単純に陰キャ関係なく俺が嫌われてるだけだな。

 その頃にはもう完全にハブられてたから。


 あの日のライブ以降、美玲のおかげで中学の頃のトラウマは大分薄れたが、それでも好んで思い出したくはないな。


「——というわけで、今から出場種目をまとめた紙を配るから、学級委員長はそれ見ながらちゃちゃっと話まとめちゃってー」


 ともかく、だ。

 種目決めも席替えも悪目立ちしないよう、のらりくらりとやり過ごすとしよう。




 ——そのはず、でした。


 一応言っておくと、くじびきの結果、俺は教卓の目の前の席となった。

 さっきと左に一つしか変わってないが、いつものことなので特に気にするようなことでもない。


「先生、すみません。思ったより黒板見えづらいんで一番前と席変えてもらっていいですか?」


 しかし、窓際二列目一番後ろの席になった女子生徒が申し出ると、


「はあ〜? ったく、そういうことは先に言っとけよなあ。けど、勉強熱心な奴の言うことを無下にするわけにもいかねえしなあ。うーん……じゃあ、堀川と席交換な」


 人見先生は、目の前にいた俺に向かってそう言い放った。


「……え?」


「堀川、お前視力いいだろ。それにお前だけさっきと大して席変わってねえし、折角だから変わっとけ」


「あ……はい」


 言われるがまま、交換を申し出た女子と席を入れ替える。

 瞬間、多くの男子から敵意の籠った視線をぶつけられた。


(うーわ、やっぱこうなるよなあ……)


 原因は単純明快だ。


「これからよろしくね! くん!」


「う、うす……よろしく、お願いします。……、さん」


 窓際最後方になったのが美玲だったからだ。

 つまり、俺が唯一の隣の席になった人間ってことになる。


 それだけでも十分過ぎるくらいにやっかみを向けられる対象にはなる。

 だが、原因はこれだけじゃない。


「あと二人三脚も頑張ろうね!」


「……うっす」


 どういう訳か、俺と美玲の出場種目が二人三脚になっていたからだ。


 ——マジでどうしてこうなった……!?

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