第17話 電流を介さぬ交流

「へえ、陽人くんが最初にコピーした曲って『Funny Rabbit』だったんだ」


「そうっす。テンポがゆっくりめでフィルも少なかったんで。お二人が最初にコピーした曲はなんだったんすか?」


「わたしらは『Glory Sky』だよ。昔、ドラマの劇中歌で使われた曲なんだけど、知ってるかな」


「……あー、分かるっす。確か『Iris』のボーカルもカバーしてたっすよね。原曲はあんま知らないすけど、そっちはかなり聴いたっす」


 二人が家に来てから暫くして。

 俺らは菓子を食ったりジュースを飲んだりしながら、なんやかんやで話に花を咲かせていた。


 最初はガチガチに緊張していたものの、同じ楽器をやる者同士バンドとか最近の楽曲の話題になれば意外と会話になる。

 こうしていると音楽には、陽キャも陰キャも関係ないんだなと思わされる。

 勿論、前提として美玲と花奏が上手く話を回してくれているおかげで成り立っている部分が大きいけど。


「というかその曲を作曲したのって、その人っすよね?」


「うん、合ってるよ。陽人、それは知ってるんだ」


「本人のライブ映像のコメント欄で見た覚えあるんで」


 うろ覚えだけど。

 作曲この人なのかえっぐ! 的なコメントが上の方にあった気がする。


「ん〜、なんかコピーしようとしてた時のこと思い出したら弾きたくなってきちゃったな。……そうだ! ねえ、花奏。ちょっと弾き語りしようよ!」


「……唐突過ぎない? まあ、いいけどさ」


「よし、決まり〜! ……って、そうだ。陽人くん、ちょっと弾いてもいい?」


「いいっすよ。存分にどうぞ」


 答えれば、


「ありがと!」


「じゃあ、遠慮なく」


 美玲と花奏はそう口々に言って、ケースからそれぞれの楽器を取り出した。


 真っ白なボディのギターと真っ黒なボディのベース。

 ただし、今日持ってきたのはエレキではなくアコースティックだ。

 アコースティックにしたのは、単純に俺の家にアンプがないからだろう。


 それにしても——、


「白と黒、好きなんすね」


 美玲と花奏それぞれの服装にも視線をやりながら言う。


 美玲は、白い大きめなプルパーカーと裾から僅かに見えるショートデニムを合わせたシンプルながらも可愛らしいコーデ。

 対する花奏はというと、黒いVネックのニットとダメージの入ったスキニーパンツといった大人びた組み合わせ。

 第一印象が何色かと問われれば、美玲は白、花奏は黒一択だ。


「あ、やっぱり分かる? 示し合わせたわけじゃないんだけど、色々と好みが逆なんだよねー、わたしたち。例えば、そうだなー……わたしは甘い物が好きだけど」


「アタシは激辛が好き」


「犬か猫かで言えば、わたしは犬派」


「猫派」


「ガンガンいこうぜっ!!」


「いのちをだいじに」


「……まあ、こんな感じに色々と対照的なんだよね〜」


 その割には阿吽の呼吸ってくらい凄く息ぴったりだったんですけど。

 でもなんというか、二人の好みは解釈一致ではある。


「あとギターとベースどっちやるってなった時もすぐに決まったよね」


「そうだね。といっても、美玲はどうせギター選ぶと思ってたけど」


「わたしも同じこと思ってた」


 美玲がそう言うと、二人は互いを見遣って笑い合う。

 それから流れるようにして演奏に入ってみせた。


 シンプルなコードでストロークとブリッジミュートを織り交ぜたギター。

 ルート弾きを基本にしたどノーマルなベース。

 美玲のメインボーカルに花奏のハミングによるコーラスが入る。


 楽しそうに弾きながら歌う美玲と花奏。

 二人にしてみれば遊びの延長線上なのかもしれないが、これだけで金取れそうなくらい完成されている。

 この演奏を間近で聴けるとか一切の誇張抜きにして贅沢過ぎる。


 サビに入れば、花奏も一緒になって歌い出す。

 高音のハモりが美玲の歌声に更なる華を添え、それでいて単体で聴いていても心地良い。


 気づけば、二人の演奏をすっかり聞き入ってしまっていた。

 けれど、サビが終わった直後、


「陽人くんも一緒に演奏しようよ!」


「は、俺!?」


 唐突に誘われ、思わず大声を上げてしまった。


「うん! きみの演奏も聴いてみたいな!」


「え……でも、アコースティックにドラムは余計じゃ——」


「そこの打楽器使えばいいじゃん。その……ほら、図工室にある椅子みたいな奴」


 ——カホン、か。


 確かにこれならアコースティックにも合うけど、動画の見様見真似で覚えた基礎的なビートしか叩けないんだよな。

 それに俗に言う百合の間に挟まる間男みたいで気が引けるし。


「う、うす……」


 とはいえ、俺にきっぱりと断る勇気なんてないので、大人しく花奏が視線を向けた先にある木箱に似た楽器——カホンを持ってくる。

 そいつに腰を掛け、幾つかの箇所で面を叩いて音の鳴りを確かめてから、


「あ、あの、マジで基本的なビートしかできないっすよ……!」


「大丈夫! ただの遊びだから!」


「良い感じにリズムキープしてくれればそれでいいよ。だからほら、陽人も一緒にやるよ!」


 二人にそう言われたので、観念して演奏に加わることにした。




 ——結果、思った以上にめっちゃ楽しかった。

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