第3話 口実のバスケ(2)
「放せっ!このバカっ!」
『うるさい。静かにしてくれる?』
「誰のせいだと思ってんのっ!」
ジタバタするうちをよそにつかつかと目的地に向かって歩く氷室。
こいつこの状態で廊下歩くとかどうかしてるって。
その時急に歩きが止まった。
『おい氷室…レイが嫌がってるだろ。降ろしてやれよ。』
この声は…爽也?けどなんか怒ってる?
『何、彼氏?』
『は…はぁ?…違うけど。その持ち方はないでしょ。』
おっしゃるとおりです。よくぞ言ってくれた。
『…わかったよ。…っと。逃げちゃだめだよー?』
くそっ…降ろす隙に逃げられんかったか…。
『氷室が女子に頼み事とは珍しいな。だけどちゃんと許可取ったのか?』
『…取った。』
「嘘つけ。」
『俺が代わりに行くよ、氷室。だからレイを放して…』
『それじゃ意味ないの。バスケできる女子で俺に興味ない子がいいの。』
「なんか…くっそ腹立つわこいつ」
くすっと笑いやがった…そう思った時、奴は急に顔を近づけて耳元で囁いてきた。
『…俺に敵意増々な女の子って始めて。』
「!……離れろ!」
『あっはは、凶暴な黒猫みたい』
『いい加減にしろ。どれだけ女たらしなんだお前は。』
『怒ってるのはどうして?爽也、別にこの子の彼氏じゃないでしょ?』
『…。幼馴染として心配なんだよ。わかるだろ? 』
そういえばここは幼馴染同士なのに仲が悪いな…。
まぁ関係ないけど。それよりも早く逃げ出したい…。
『ちょっと氷室くんっ!なんでアタシをおいてったの!!』
うわぁ。来たよ、勘弁してくれ…普通の生活が送れなくなるじゃんこんなの…。
『あ、この子だよ』
『俺の彼女』
逃げ出そうとしたウチを逃さないとでも言うかのように、氷室はウチの肩に手を回してきた。
そしてこの一声。
…………………ゑ???
『…氷室お前っ!』
『はっ、はぁっ!?そのだっさいウルフ髪の子がぁっ!?うそよ!!』
さすがにひどい言いようだけどあなたの言う通り、うそです。
「っ!この嘘つk((((んぐっっ!!!」
『ってことで俺のことは諦めてくれるー?俺君のこと興味ないからさ』
『…っ!!お、おかしいわよこんなのっ!!!アタシは信じないからねっ!!』
真っ青になったと思ったら顔を真っ赤にして怒りながらどこかへ行ってしまった。
頼むから行かないでくれ、誤解なんだ…って言いたいのだが口を抑えられているためどうしようもなかった。
「ぷはっ…この野郎…っ!!」
『まぁまぁ落ち着いてよ。悪くないと思うよ?』
「?」
『俺の彼女役。良い思いもたくさんさせてあげるからさ』
その言葉が耳元で響いた瞬間、ウチは氷室を思いっきり蹴っ飛ばした。
『…い"った。』
…クリティカルヒット。
…あぁこれやったわウチ。
―
「誠に申し訳ございませんでした。」
保健室にて。ウチは深々と氷室に頭を下げていた。
さすがにやってしまった…。
『君ほんとうに容赦ないね…死んだかと思ったよ…』
『いやぁ傑作だったぜあの顔』
大爆笑している爽也。…まぁまぁ失礼だなこいつ。
『やっぱり君が一番適任だよ。』
「えぇっと…適任とは…」
『…ねぇ君、詫びる気持ちある?』
「えぇもちろんなんでもします。金ですか、いくらでも口座から引っ張り出します…あ、いややっぱ1万以内で。」
『俺が金好きに見えるの?いいよ金はいらない。』
「…なんでもします。」
『…言ったね?じゃあさ』
『俺の彼女になって?あ、もちろん偽装のね』
そのときのウチの顔は、人生の中で最上級に険しい顔だったと思う。
「…好きでもないくせに彼女になれ?…冗談じゃないよ…この女たらし。」
このときの私はとても怒っていたと思う。
「恋愛ってのはそんな軽いもんなの?あんたにとっては女なんかすぐ手に入れられるただの物に過ぎないんだろうね。最低だよあんた。」
『…悪いがそれは俺も同意見だ、氷室。』
「あんたなんか一生本当の恋愛できないよ」
『…へぇ?』
あ、やべ言い過ぎたかこれ。
「ま、まぁうちも本当の恋愛なんて知らな…」
『じゃあ君が俺の先生になってよ。』
「…は?」
『恋愛の先生。俺に君が言う本当の恋愛ってもの教えてよ。ね?』
拝啓、天国の父さんへ
ウチまずい男に捕まったかもしれません。
氷室くん付近は、面倒事が多発する 夜神 @Yagami_Ray
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