15-2 クロード
ティナの目の前で白い鳥たちが数匹、いや数名、人の形に変化した。
白髪の背が高い男たちはすぐにアルフォンスを捕らえて、拘束する。
他の十数匹は空中に戻って、散っていった。
「誰だ、お前たちは……! 何をしている!」
アルフォンスは怒鳴ったが、すぐに表情を戻した。
「こんなことをしても、すぐに城の衛兵たちが来る」
「あれ、アルフォンス王子。情けない恰好してるね~?」
場にそぐわない気の抜けた声はイリエだ。黒い鳥が空中から現れて、ティナの肩に止まった。
「また鳥か」
「彼らが何者かわかっていないのか」
クロードはアルフォンスに冷ややかな目を向けた。
「俺たちが隣国から来たってわかっていない……? まあほぼ鎖国状態のこの国だとわからないよね~?」
のんきな声を出したイリエはティナの肩から飛び立つと、アルフォンスの前に人間の姿で降り立った。
「お前は」
「そうです。アルフォンス王子の学友のイリエちゃんだよ。隣国の人間が混じってるって気づかなかったかな?」
「…………何が目的だ」
イリエは細い目をニィとこれ以上ないくらい細める。
「俺は、イリエ・フォン・ガーランド。ガーランド王国の第六王子だよ」
ガーランド王国はアズモンド王国の隣国である大国だ。
アルフォンスの顔色があからさまに青くなる。
「鎖国しててもいいけど、もっと外の状況には敏感にならないといけないよ。外を恐れるわりのガバガバで俺みたいな潜入者を許しちゃうし。隣国の者が鳥に変わることを知っていれば、最近王都に鳥の数が多いなー?って気づいたかもよ」
「……隣国の王子が何の用だ」
「俺の一つ目の目的は、この国を調査すること。ほら第六王子で自国でやることないからさ? 命じられて三年くらいこの国を調査していたんだよ。この国をどうするか、父が決めかねていたからね」
「……なんの権限がある」
「アズモンド王国は魔術が優れているから、大国は手を出したくても出せない。君たちはそう思ってたんだろうけど、隣国だって魔力を持つし、それなりに魔術の研究も進んでいるんだよ。アズモンド王国よりは劣るかもしれないけど、まあその分比べ物にならないくらいこちらのが戦力は大きいからね」
イリエが上機嫌に語り続けるのを、両腕を拘束されたアルフォンスは睨みつける。
「何が言いたい」
「だけど、無益な戦争は何も生まないからね。素晴らしい国ならそれはそれで放っておいてもよいかな、って。……でも、この国は上層部が腐っていることが今回よくわかったよ。なかなか尻尾を出してくれなくて困ってたんだけど、ベレニスちゃん事件からボロボロ出てきて俺たちには大感謝!」
イリエはそう言って空を見上げた。鳥の羽音が聞こえ、空には無数の鳥が囲んでいる。
「もうこの城はガーランド王国の者が囲んでいる。君が普通の鳥だと思っていたものたちはガーランド王国の優秀な兵なんだ」
イリエは情報を集め続けていた。
それはクロードの種を明かすためではなかったのだ。
「もちろん俺たちもそんなに鬼じゃないからね? 平和的に解決したいと思ってはいる。話し合い、できるかな? ね、未来の国王予定さん?」
アルフォンスは口を閉ざしたまま、頷きはしなかった。
それでもイリエが満足したように頷いた。
ティナの視線がクロードに向いていることに気がついた。
「そして、もう一つ目的があったんだよ。俺には弟がいるらしくてね。俺のお父さん、ま、国王がね。レチア村が故郷の平民の女性と関係持ってたらしくさー? 国に一緒に帰ろうってしつこく言ってたんだけどなかなかね」
「僕の故郷だとは思えない」
「まあでもほら、一応ね、クロードは第七王子候補? なもんで。手、出さないでね」
足音が近づいてきた。
それはアズモンド王国の衛兵の制服ではない。ガーランド王国の者であろう、知らない制服の騎士だった。
「せっかくだから、王城でお話させてもらおうかな」
イリエが指示をすると、騎士たちがアルフォンスを王城に向かって誘導する。
アルフォンスとティナの目線が絡んだ。
「ティナのことを愛していたのは本当だ」
「殿下。今まで――」
別れを告げようとしたティナは膝から崩れ落ち、なんとかクロードがティナの身体を抱き留めた。
「おい」
慌ててクロードが抱き上げるが、ティナはぐったりとしていて意識はない。
アルフォンスはティナに微笑みを向ける。
「大丈夫、ティナは寝ているだけだよ」
「何をした」
「目覚めたらもう君のことは覚えていない。さっき熱烈なキスをさせてもらったからね。記憶を忘れる薬はティナの身体に入ったはずだよ」
アルフォンスはそれだけ言うと、それ以上抵抗することはなく騎士たちに連れられて王城に向かっていった。
「じゃあ俺も行くよ、第六王子としての仕事を果たさないといけないからねー、めんどいけど。はあ、さっさと仕事引き継ぎたい」
「早く行け」
「ねー、ティナちゃん本当に大丈夫なわけ? クロードのこと忘れちゃってんじゃない?」
クロードはティナを抱き上げると、アルフォンスと別の方向に歩いていく。
「問題ない。僕は天才薬師だからな。薬ならすぐに作ることができる」
抱き上げたティナを見つめる。あちこち傷はついているが、自分の腕の中にいる。
「馬車の用意くらいならできるよ」
「それは助かる。僕は体力もないからな」
「自慢げにいうことかなー? じゃあねー」
手を振ると、イリエは騎士のあとに続いていった。
「もう大丈夫だ」
クロードは、小さく息をするティナが腕の中にいることに安堵した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます