1-3 冤罪令嬢の召喚
ご存知のこともあるかもしれませんが……。
この国は魔力が何よりも重視されます。面積も人口も少ないこの国が隣国から侵略されずに済んでいるのは、魔術の研究が進んでいるからです。
魔術研究のために存在するのが、魔法局です。
この国を大きく発展させた魔道具の開発や、他国からの侵略を阻む防衛魔術など。国を豊かに発展させ平和に育んでいくために重要な機関です。
普通の生活魔法と異なり、魔法を組み合わせて術式にはめ込み、大きなものを生み出す者を魔術師と呼びます。
この国の民は多少なりとも魔法を使えますが、大きな魔術を発動することができるほどの魔力がある者は限られています。魔力は遺伝的な要因もあり、貴族と呼ばれる者は一般的に魔力が高いです。
国の重役は魔術師としても優れているものがほとんどです。政治だけでなく魔術師としても国を守る義務があり、王妃もその一人です。
私はセルラト侯爵家の第三子として生まれました。両親と二人の兄は魔法局で魔道具の研究をしています。
セルラト家は元々魔力が強い家系で、私もそれなりに魔力はありましたから、十三歳で他の令息令嬢たちと魔法局の管理している学園に通うことになりました。この学園で基礎から専門分野まで学び、卒業後は魔法局に勤めることになります。
この国の貴族は一年に一度、魔力測定が義務付けられています。
入学前に魔力測定があり、そこで私の魔力は通常では考えられないほどの量があることが判明したのです。成人の倍もある数値でした。
前年の私の魔力は正常範囲内でした。ほとんど他の同年代と変わらない数値です。
突然、魔力が上がっていたため、間違いではないかと何度測定しましたが結果は同じでした。
……原因ですか? 色々と調べてくださったようでしたが、わからないままで。成長の過程だろう、と結論付けられました。
その結果、十三歳で同齢のアルフォンス殿下との婚約が決まったのです。
王族は魔力の高い同年代のものと婚約することが定められていますし、この件がなくとも私は候補者でしたから。
その時期以降、魔力量が大幅に変化したことはありません。
なぜひと月前に魔力の喪失に気づいたかといいますと……。
学園生は魔法局で研修兼実際の業務の手伝いをしています。
私は防衛魔術専攻です。いつも通り、術式を発動させようとして魔力が足りないことに気づいたのです。
それから何日も同じことが続きました。魔力測定をしたところ、普段の半分の量にまで下がっていたのです。そこから日に日に魔力が少なくなって、出来る業務も限られてきました。
何度か測定もしたので確実です。右下下がりといった形で徐々に少なくなっていきました。
先ほどもお話しましたが、魔力がなくなる前後……ひと月前に。特別変わったことはありませんでした。
・・
「なるほど。それで婚約破棄になり、魔法局に所属する未来も消えた君は、ベレニスから魔力を奪おうとした」
話を聞き終えたクロードはふんふんと頷いた。ティナの顔色がさっと変わり、
「そんな、人から魔力を奪おうとなど……!」
「僕がそう思ってるわけではない。しかし筋書き的にはわかりやすいだろう。誰かが君を陥れようと仕組んだ可能性がある」
驚いたティナは言葉を失う。
「そもそも魔力の譲渡方法を、君は知ってるか?」
「いえ……魔力の譲渡は禁じられていますし、方法も明らかになっていませんよね?」
「普通はそうだろうな。
首に核があり、ここから身体中に魔力は循環されている。核を攻撃されれば魔力を失う。しかし核から魔力を取り出して別の者に譲渡できる方法は明らかになっていない」
ティナも頷く。首を狙われることが、自分の魔力を狙われるに等しいことは皆わかっているが、譲渡方法は知らない。それが出回れば、魔力を奪う事件が多発してしまうだろう。
「首の核から魔力を消滅させることはできる。しかしそれを自分のものにすることなどできない。過去にも魔力を奪う目的で殺人事件などはあったが、結局捕まった人間は自身の魔力を増やすことは叶っていない。……だけど、秘密裏に魔力を自分のものにしている人間もいると僕は考えている」
恐ろしいことだが、ありえない話ではない。この国では魔力が重視されるのだから、研究する人もいるかもしれない。
「魔力を人から奪うなど、僕もお伽話のようなものだと思っていた。しかしこの種は魔力を奪う。この種は魔力を奪い、そのまま魔力を手に入れられるものだと思っている」
「この種はよくある現象なのでしょうか?」
ティナの問いにクロードは首を振った。
「この種が見つかったのは五年前に一度だけ。そして種が埋め込まれていたのは一瞬で、調べることさえ出来なかった」
「五年前に一瞬だけ……」
「それから魔術書をいろいろ調べたが『魔力を奪う種』らしきものは結局見つけられなかった。というよりも『魔力を譲渡する方法』について記載されているものなどない。譲渡自体が禁忌だからな」
「そうですね」
「五年間、『魔力を譲渡する方法』も『種について』手詰まりだったんだ。手がかりも少なすぎて調べようもなかった」
ティナは彼が住まわせてくれる理由がわかった。
彼の部屋を見渡せば、薬師か研究者なのだろう。五年も見つからなかった種に関わるものが現れたのなら、研究者として解き明かしたいのは当然と思える。
「種がようやく現れたんだ。だけど、種については魔術書をどれだけ漁ってもこれ以上情報が見つかる可能性は低い。
そこで、ベレニス事件だ。
正直、種との繋がりがまだ読めない。だけど君の魔力に関わることが、たまたま同日に起きるとは思えない。
ベレニスの事件と種は密接に関わっていると僕は考えている。
つまり、ベレニス事件の黒幕を探すことで、種の謎に近づくことができる」
クロードの真剣な表情にティナは納得した。
種や魔力譲渡について手詰まりな状態で、種に関係していそうな事件が起きたのだ。それなら、そちらから追及したいと思うのは当然である。
利害が一致するから共に事件を追う。
何も信じられない今、同じ目的を持つ人のほうが信頼できる。
「よろしくお願いします」
ティナが手を差し出せば、彼は渋々手を合わせた。
魔力を奪う種。ティナが犯人とされたベレニス事件。
二つの謎を解き明かすために、まずは冤罪を晴らしていくことになったのだった。
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