第9話 チームに入れて
部屋に戻ってもう一度、タブレットでランクを確認する。
C。
やっぱり、見間違いでもなんでもない。
「はぁ……どうしよう」
思わずため息が漏れてしまう。
「Aランクの子がわざわざ声をかけてくれるなんてことないだろうし、私から声かけにいかないと……」
「ひかりちゃんがCランクだってみんなが知ってたら、声をかけてくれる子もいるかもしれないけど」
「うーん……授業で散々だったから、Cランクだってことは、もしかしたら予想されてるかもしれないなぁ。でも、足引っ張っちゃう立場だし、やっぱり私から頼まないと……」
向こうも断わりにくいだろうけど、しかたない。
夜、私はマチ子ちゃんと一緒に、食堂でランクについて少し探ってみることにした。
「私がいた補助タイプのグループは、青田くんが先生に褒められてたよ」
「青田くん、影山くんと組みたがってたよね」
「うん。2人ともAみたいだし、チーム内にCがいてもいいと思うけど、私も補助タイプだから、補助2人は……どうだろう。ちょっと微妙かな。直接攻撃するグループの中で、影山くん以外にすごい子いた?」
「目立ってたのは影山くんだけど、あとは、自分のことでいっぱいで……」
クロウに無理はさせたくないし、なんとなくで終わっちゃったんだよね。
「あ、先生ほどじゃないけど、わりと大きい炎を出してる子は、何人かいたよ。佐那ちゃんも出してたし……でも結構いたから、Bランクかなぁ……」
「そっかぁ。間接的な攻撃ができるタイプの子たちのことは、全然わからないね」
マチ子ちゃんに言われて、ふと思い出す。
「そういえば、桃瀬くんがいたと思うから、聞いてみようかな」
「もしかしたら、桃瀬くんもAかもしれないね」
あたりを見渡すと、ちょうど少し離れた場所に桃瀬くんがいた。
影山くんもいる。
桃瀬くんって、最初から影山くんの名前知ってたし、仲いいのかな。
私は、マチ子ちゃんと一緒にご飯のトレーを持って、桃瀬くんたちの方へと移動した。
「あの……桃瀬くん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、ここいいかな。影山くんも……」
一緒に食べてるみたいだし、影山くんにも聞いておかないと。
「うん、いいよ」
桃瀬くんも影山くんも、構わないみたい。
隣同士で座っていた桃瀬くんたちの正面に、私とマチ子ちゃんで座ると、私はさっそく話を切り出した。
「桃瀬くんって、今日、間接的な攻撃ができるグループにいたよね。それで、活躍してた子とか、いたなら聞かせて欲しいと思って……」
「ひかりちゃん、結構、戦略的にチーム作ろうとしてるんだ?」
「そ、そういうわけじゃないんだけど……」
ここは、そうだって言っておいた方がよかったかな。
チーム作りだって真面目に取り組むべきだし、ランクだけじゃなく、バランスも考えなくちゃいけない。
でも、Cランクの私は、あまり選べる立場じゃないんだよね。
「たしか白井さんが木のあやかしを扱ってて、注目されてたよ。防御壁を作ってたんだけど、やり方によっては、拘束もできそうだったね~。支援に近いかも」
白井さん……話したことないけど、頼んだら組んでくれそうかな。
でも、防御中心で支援に近いタイプなら、バランスは、あんまりよくないかも……。
「そっか……」
「桃瀬くんは、どうだった? その、ランクとか!」
直接、聞きづらい私にかわって、マチ子ちゃんが聞いてくれる。
「僕のパートナーは、かまいたちだから、風を操るし、間接的な攻撃ができるってところにいたけど、実際は、直接攻撃に近かったかも。風圧で切ることもできそうだったからね~。ただ……ちょっとやんちゃで、コントロールしきれなかったからかなぁ、Bランクだったよ~」
Bランクかぁ。
桃瀬くんがAだったら、優しそうだし、入れてもらえそうな気もしたけど。
「一応、かなたと一緒のチームになろうかって話はしてたところ」
桃瀬くん、いつの間にか影山くんのこと、かなたって呼ぶようになったんだ?
影山くんに視線を向けると、食事の手を止めて、口を開く。
「俺は、物理的な直接攻撃だから、違ったタイプのやつがチームにいたら、うまくいくと思ってる。こいつとは寮も同室で、話し合いやすいし」
「ルームメイトだったんだ……」
たしかに、違ったタイプと組んだ方がバランスいいし、気心知れた相手の方がいい。
だから、私もマチ子ちゃんとがいいって思ったし。
とはいえ、2人じゃどうにもならないんだけど。
「ひかりちゃんとマチ子ちゃんは、よく一緒にいるけど、一緒のチームになる予定?」
桃瀬くんに聞かれた私は、思わずマチ子ちゃんに目を向ける。
一緒のチームになれたら嬉しいって言ってくれたけど、私はCランクだし、やっぱり少し遠慮してしまう。
「私たちも、ルームメイトなの。チームも、一緒がいいなって思ってるとこだよ。私のパートナーは座敷わらしで、自分だけじゃ戦えないし……。一応、ランクはBだったんだけど」
「座敷わらしは、戦意を喪失させたりできる子が多いんだっけ。攻撃できる子と一緒に戦う前提だよね~。攻撃特化のチームにいてくれると、ありがたいかも」
もし、マチ子ちゃんだけ引き抜かれちゃったら、どうすればいいんだろう。
影山くんと桃瀬くんは攻撃寄りだし、私も混ぜてもらえたら……。
いま、影山くんに頼んでみる?
マチ子ちゃんを見ると、私の考えが伝わったのか、頷いてくれていた。
マチ子ちゃんも、影山くんと桃瀬くんがチームだったら、バランスいいって思ってくれてるみたい。
「あ、あの……私……」
Cランクだから、Aランクの影山くんのチームに入れて欲しい。
言わなきゃ。
話を切り出そうとしたときだった。
「あ、いたいた! 影山くん!」
クラスの男子がやってくる。
「影山くん、Aランクなんだよね? 俺、Cランクだったんだけど、チーム、入れてくんないかな」
「あっ、ずるい! 私もCランクだから、影山くんのところに……!」
あまりにも男子の声が大きかったせいか、近くにいたクラスメイトの女子まで慌てた様子で口を挟んできた。
私も、いま言った方がいいのかな。
でも……。
「……青田と、たぶん白井もAランクだから」
影山くんは、少し迷うそぶりを見せていたけれど、そう遠回しに断っていた。
「ま、まあ……なるべくCランクは入れたくねぇよな」
「そういう理由じゃねぇけど」
「白井さん、入れてくれるかなぁ」
話しかけてきたCランクの2人は、落ち込んだ様子でその場を去っていく。
私は、その2人の気持ちが、痛いほどよくわかった。
明日になっても決まらなかったら、先生が無理やり調整してくれるんだろうけど、それだとたぶん、いろんな子に迷惑かかっちゃう。
入れてもらうだけでも申し訳ないのに、すでに決まりかけてるチームをバラバラにしなくちゃならないなんてことになったら大変。
「Aランクである以上、Cランクの子は入れるべきだと思うよ~」
桃瀬くんが、影山くんにそう声をかける。
「わかってる。あいつら、今日、別のグループだったし、どんなパートナーかも知らねぇから。向こうがこっちのパートナーを知ってるとも思えねぇ。ランクだけで判断されても困るだろ」
Cランクの身からすると、入れてくれるなら、誰だっていいと思っちゃうのも当然だ。
もちろん、合う合わないはあるだろうけど、選んでなんていられない。
ただ、青田くんとも、白井さんとも、合わない気がしてる。
影山くんなら……。
「わ……私のパートナーは、クロウっていう狐の子で、本人は、間接的な攻撃や支援ができるって言ってたけど、今日の授業は、他の狐たちと一緒に直接攻撃のグループで……小さな火を、ちょっとだけ大きくするくらいしかできなかったの。先生には、本気出してないって言われちゃったんだけど、狐だからって、直接攻撃のグループにさせちゃったのが、そもそも間違ってたのかなって思ってる。それで……Cランクなんだけど……」
「あ、ひかりちゃんCだったんだ……」
桃瀬くんが、意外だと言うように呟くけれど、たぶん影山くんはわかってたと思う。
「それで?」
そう続きを言えと言わんばかりに促してきた。
「白井さんのあやかしは防御中心みたいだし、攻撃力の低い私と、補助タイプのマチ子ちゃんとじゃ、ちょっとバランスがよくないんじゃないかって思ってる。青田くんは、補助タイプらしいから、やっぱり、私たちとは合いそうになくて。他にAランクの子は知らないけど……影山くんのあやかしがどんなのかは、知ってるよ。2匹の猫又で、話も通じる。影山くんのパートナーだし、私が扱うわけじゃないけど。チーム戦なら、他メンバーのあやかしの声が聞こえるのは、大きいはずで……その、入れてもらうわけには……」
あの猫又の声が聞こえている子は、少ないみたいだった。
わずかな強みを、影山くんにぶつけてみる。
「……お前、パートナー変える気は、ないんだよな?」
他の子も言ってたっけ。
パートナーさえ違えば、もっとうまくいくんじゃないかって。
「それって、パートナーを変えたら、チームに入れてくれるってこと?」
「そうとは言ってねぇ」
「いまのところ、考えてないよ。せっかく仲良くなれたし。あの子の言うことを信じて、ちゃんと別のグループに入ってたら、もっと、力を発揮させてあげられたかもしれないから。レア度は低いけど……」
少しの間、沈黙が流れた。
先に口を開いたのは桃瀬くん。
「僕はいいと思うな。ひかりちゃんのパートナーが、直接攻撃特化でも、間接攻撃タイプでも、バランスは取れると思うし。マチ子ちゃんの座敷わらしとも、まったく同じタイプではなさそうだからね」
影山くんは、私の目をジッと見て、息を吐く。
「はぁ……。お前が、2日や3日でパートナー見限るようなやつだったら、入れたくねぇと思ったけど。そういうことなら、いいよ。俺も、誘おうと思ってた」
「え……?」
いいよって言ってくれた……のは、もちろん嬉しいけど。
誘おうと思ってたって、どういうこと?
「桃瀬には、まだ話してなかったけど、お前がCだってのは、なんとなく予想できてたし。Cランクで、俺のパートナーの声をちゃんと理解できるのは、たぶん、お前くらいだろ」
「僕もかなたのパートナーの声、よく聞こえないんだよねぇ。にゃあにゃあ鳴いてるのはわかるから、なんとく、意図みたいなものは感じられるんだけど」
桃瀬くんが、少し申し訳なさそうに軽く手をあげる。
「そうだったんだ……」
「お前見てると、レア度とかランクとか、関係ねぇような気がしてくるし。実際、先生も、レア度が低い狐と河童で、あそこまでやって見せたからな」
「あれ、すごかったもんね。レア度は低いけど、やっぱりその分、扱いやすいのかも」
「お前は、レア度低いうえ、扱えてもいないけどな」
「う……」
そうなんだよね。
でもだからこそ、レア度の高い子を扱える気はしない。
「本気出してないのは、あやかしのせいか、お前のせいか、わかんねぇけど。同じチームになったからには、手抜かせねぇからな」
「う、うん……」
「まあ、サボられるのはちょっと困るけど、もう少し気楽に考えよう?」
桃瀬くんが、そう影山くんを落ち着かせてくれる。
もちろん、手を抜く気はない。
ないんだけど……うまくできるかな。
「が、がんばります……」
とりあえず、そう言うしかない。
「私も一緒でいいんだよね……?」
マチ子ちゃんが少し不安そうに、影山くんと桃瀬くんを窺う。
「もちろんだよ~。ね? かなた」
「ああ。ちょうどバランスもよさそうだしな」
「がんばるね。ハナちゃん、ちょっと気まぐれだから、うまく扱い切れるかわからないけど……」
「僕の子も気まぐれだし、やんちゃだよ~。まだみんな、さぐりさぐりだよね~」
改めて、影山くんがいかに優秀なのかを思い知る。
会って間もないあやかしと仲良くできて、力もちゃんと発揮できてるって、すごいことなんだよね。
「それじゃあ、この4人でチーム決定だな。よろしく」
影山くんがそう言ってくれて、私はホッと胸をなでおろした。
Aランクが2人いるわけでもないし、Cランクもちゃんと混じってる。
明日、組み直されることもないだろう。
影山くんに桃瀬くんにマチ子ちゃんに私。
お荷物だってことには変わりないから、しっかりがんばらないと……。
「影山くんって、なんだかんだ優しいよね」
部屋に戻ると、マチ子ちゃんがそんなことを言った。
「うん。前に桃瀬くんが言ってた通り、がんばり屋さんなのかも。私も、がんばって受験してここに来てたら、がんばらずに来てる子のこと、いいように思えないかもしれないし……ね」
そう伝えると、マチ子ちゃんも少し苦笑いしていた。
「私も受験では、がんばり損ねてるからなぁ」
「チームで、どんなことするんだろうね」
不安もあるけど、マチ子ちゃんも一緒だし、もしかしたら、楽しい授業になるかもしれない。
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