第8話 ランクづけ

「では、自由に能力を解放させてください」

 まず最初に私たちのグループに来てくれた黒川先生の指示に従って、あやかしたちはそれぞれ自分ができることを披露する。

 そんな中、みんなの注目を集めていたのは、影山くんと、パートナーの猫又だった。

「2匹も扱えんのか」

「すご……!」

 影山くんの猫又は、2匹とも影山くんくらいのサイズに巨大化している。

「いいですね。物理攻撃ができる猫又は、体のサイズが力と比例します。もともと強いあやかしですが、影山くんの精神力もなかなかのものです」

 黒川先生も褒めてるし、影山くん、優秀なんだなぁ。

「お嬢ー! 見て見て! ボクたち大きいよ」

「大きくなれたよ」

「うん、すごいね」

 2匹は、嬉しそうにあたりを駆け回る。

 あのサイズで体当たりしたり、噛みついたりできたら、それだけで立派な攻撃だ。

 他の子たちのあやかしも、技らしきものを出してはいるけれど、影山くんや黒川先生みたいに派手なことはできていなかった。

 クロウは、どうだろう。

「クロウ……火、出したりできる?」

「出せないことはない」

 私が尋ねると、クロウは尻尾の先から小さな火を出してみせる。

「すごいよ、クロウ。それじゃあ、火よ、おおきくなれ!」

 そう声に出しながら祈ってみたけれど……。

「あ、あれ?」

 クロウの火は、ほんの少し火力を増した程度だった。

 そんな私のすぐ近くで、ボウッと、大きな音がした。

「わぁっ、ありがとう! 立派な炎だね」

 佐那ちゃんの狐だ。

 白っぽい狐の尻尾から、立派な炎が溢れてる。

 佐那ちゃんの狐だけじゃない。

 他の子たちの狐も、負けじと炎を出していた。

「競い合うことで、より力を発揮できる者もいます。あやかし同士、高めあうのもいいでしょう」

 人の精神力だけじゃなく、あやかし自身の感情も、当然、影響するってことだろう。

 かろうじて小さな炎を出しているクロウと私のところに、黒川先生がやってくる。

「これは……」

 黒川先生はクロウを見下ろしながら、顔を歪めた。

「本気を出していませんね」

「え……」

「どういうつもりですか」

 もちろん、褒められるとは思ってなかったけど、そんな風に言われるなんて。

「す、すみません……」

「いえ、金星さんに言っているわけではありません。僕はこの人に……」

 この人って……クロウ?

「あなただって、本気を出せばそこの狐を使って、あの大木を焼き払う以上のことができたはず。加減しているのでは?」

 クロウは、先生相手に遠慮なく言い返す。

「そういう話をしているわけではないのですが……いいでしょう。言い方を変えます。真面目に取り組んでいませんね?」

「この姿で炎を操るのは疲れる。苦手なだけ」

 クロウって、人型でいた方が炎を操りやすいのかな。

 そもそも、間接的な攻撃や支援もできるとか言ってたし、やっぱり直接攻撃には向いていないのかもしれない。

「……まあいいでしょう。しかし、あなたがサボれば、パートナーの成績もさがります。パートナーのことを思うなら、考えてください」

 黒川先生は、そう言い残して、他のグループの方へと行ってしまう。

「ひかりちゃんの狐、やっぱりちょっと変わった子なのかな」

 近くにいた佐那ちゃんが、クロウを見下ろしながらそう言った。

「ちょっと、そうかもしれないね。佐那ちゃんの狐は、火を扱うのが得意みたいだね」

「私はパートナー見つけられなくて、先生が決めてくれた子だから、最初から言うことも聞いてくれるし、ある程度、できる子なんだと思うよ」

 レア度は低いかもしれないけど、クセがなくて優秀なあやかしとパートナーになれてるってこと?

「金星さんも、先生に頼んでパートナー選び直してもらったら?」

 近くにいた女の子が、こそっと私に提案してくれる。

「いくら金星さんが優秀でも、パートナーがそんなんじゃあもったいないよ」

 別の子も、心配そうにそう言った。

 でも、せっかくクロウと仲良くなったところだし……。

 そもそも私自身、優秀ってわけでもない。

「なにができるか、一緒に考えてみるよ。私の精神力の問題かもしれないし」

 黒川先生は、私に言ってるわけじゃないって言ってくれたけど、やっぱり、受験を突破してきた子と比べて、本気度が足りていないのかもしれない。

 ただ、この日の授業は、ほとんど結果を出せずに終わってしまった。




 午後の授業を終えると、私たちはパートナーのあやかしと別れて教室に戻った。

 帰りのショートルームで、黒川先生が思いがけないことを口にする。

「さきほど、みなさんの現時点での戦闘力をA、B、Cにランクづけしました。明日の午後、時間を取りますが、ランクや、できることを参考に、4人チームを作ってもらいます。チームごとに戦闘訓練をするため、Cランクの子は、Aランクの子がいるチームに入ってください」

 チームを作る話は聞いてたけど、まさか今日の授業がランクづけされてて、それが関わってくるなんて……。

 チームごとの成績をある程度均等にするのも、当然なんだけど。

 こんなことなら、もうちょっとがんばったのに……なんて思ってしまう。

 でもそう思うってことは、やっぱり『本気じゃなかった』ことなんだよね。

 私とクロウのペースで出来たらいいけど、これから先、チームメンバーに迷惑はかけられない。

「なるべく、みなさんで話し合って決めてもらうつもりですので、事前に、声をかけ合ってもいいでしょう。ランクは、タブレットで確認しておいてください」

 黒川先生が教室を出て行くと、みんないっせいにタブレットを確認し始めた。


「私とハナちゃんだけじゃ戦闘訓練も難しそうだから、チームでよかったよ」

 マチ子ちゃんに言われて、黒川先生の話を思い出す。

 2人だけですべてを解決するんじゃない。

 他のポジションは、別のチームメンバーに任せるんだって話。

 あのときは、チームバランスのことまで考える必要ないって言ってたけど、実際、チームを作るとなったら、そこまで考えなくちゃならない。

「とりあえず、ランク確認しないとね」

 ポジションもだけど、ランクも重要だ。

 私の言葉に頷いて、マチ子ちゃんがタブレットに視線を向ける。

 できれば、マチ子ちゃんと同じチームになりたいけど……。

 タブレットでこっそり自分のランクを確認する。

 C。

 それが私とクロウにつけられたランクだった。

 BかCだろうなとは思ってたけど、残念ながらBにも届かなかったみたい。

 火は、あまり大きくならなかったし、クロウができるって言ってた間接的な攻撃や支援もよくわからないまま。

 先生は、本気出してないとか、真面目に取り組んでないって言ってたけど、結局、その気になれないのなら、これがいまのクロウと私のランクであることには変わりない。

 少しテンションが下がってしまう私とは対照的に、影山くんの周りは盛り上がっていた。

「影山くん、Aランク? すごーい!」

「一緒のチームになろうぜ。俺もAだから、最強じゃね?」

「ダメだよ。Aの子は、Cランクの子の面倒見てよね」

「C入れるにしても1人でしょ。Bだけど、影山くんのチーム、入れて欲しいなぁ」

 Cランクは、肩見がせまくなりそうだな。

 本気出してなくてCとか、なおさら、感じ悪いし。

 そういうの、影山くんは嫌いそう。

 そもそも、クロウが本当に本気を出していないのか、それもよくわからないんだけど。

「ねぇ、ひかりちゃん。クロウは攻撃タイプなんだよね? 私とハナちゃん、攻撃できる人と組まないと戦えないから……その、Bだったんだけど」

 マチ子ちゃんが、目を輝かせながらこっちを見る。

 今日の授業中、別のグループにいたマチ子ちゃんは、私の残念な状況を見ていない。

 Bランクくらいだと思われてるのかも。

「じ、実は、うまく攻撃技出せなくて。それで……」

 声には出しづらくて、タブレットの画面をそっとマチ子ちゃんに見せる。

「あ……そうだったんだ。でも、1人Aがいれば大丈夫だと思うから、一緒のチームになれないかな」

「私は嬉しいけど……」

「私も嬉しいよ」

「マチ子ちゃん……」

 Cランクの子なんて、入れなくて済むなら入れたくないだろう。

 マチ子ちゃんの提案に救われる。

「ありがとう。Aの子、探さないとね……」

 影山くんはAなんだろうけど。

 その影山くんと一緒のチームになろうって言ってた男子……青田くんだっけ。

 青田くんもAのはず。

 でも、最強チームでいたいみたいだし、私は入りにくいかも。

 ひとまず、私はマチ子ちゃんと一緒に、寮へと戻った。

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