第7話 あやかしにできること
校舎裏の平原には、1組の生徒とパートナーがいて、当然だけれどすごく賑やかだった。
みんなパートナーをクラスメイトに紹介したり、あやかしもまた、自由におしゃべりしてる。
「金星さん、本当に狐なんだ……」
「でも、黒いしちょっと珍しくない?」
「色だけだろ」
「実は、なにかあるんじゃねぇか?」
私とクロウに気づいたのか、クラスメイトのそんな声が聞こえてきた。
あんまりクロウの前で、変なこと言って欲しくないけど。
狐を連れている子は、私以外にも何人かいた。
もしかしたら、パートナーを見つけられなかった子かもしれない。
「ひかりちゃんのパートナー、ちょっと変わってるね~」
そう声をかけてきたのは、桃瀬くん。
やっぱり黒いから?
「高いところも平気で、度胸あるんだ~」
私とパートナーになってくれるくらいだし、ね。
「桃瀬くんのパートナーって……」
桃瀬くんの肩にイタチのような子が乗っていて、それがかまいたちだと気づく。
「すごい、頼りになりそうだね」
「ちゃんと言うこと聞いてくれるといいけど」
いくら強くても、言い合いになったり、ケンカにでもなったら大変。
そんなことを考えていると、
「あ、お嬢だー」
また声をかけられた気がして、そっちに目を向ける。
目を向けた先、少し離れたところに、影山くんがいた。
右肩と、頭の上に猫を乗せている。
猫又の2匹と、仲良くなれたみたい。
「かなたー。お嬢がこっち見てるよー」
私の視線にいち早く気づいた猫が、影山くんに伝える。
影山くん、そういえばかなたって名前だっけ。
「お嬢ー、お嬢ー!」
「よ、呼ばれたから見ただけなんだけど。それと、そんな大きな声で、お嬢って呼ぶのは……」
少し戸惑っていると、影山くんが私のところに来てくれた。
「ほとんどのやつには伝わってねぇみたいだから、安心しろ」
「あ……そうなんだ」
「そうだよー。そもそも聞こえなかったり、普通の猫の鳴き声みたいに聞こえるみたい」
頭の上の猫が、そう教えてくれる。
にしても影山くん……ずいぶん猫たちに自由にさせてるなぁ。
「お前のパートナーは、そいつか?」
影山くんが、私の足元にいるクロウを見下ろす。
「う、うん」
「俺の勝ちだな……」
そう口にしていたけれど、見た感じ、勝ち誇ったりはしていない。
「……そうかもしれないね」
「負けてないって言いたいのか?」
「レア度は、お狐様の方が低いかもしれないけど……その分、人と身近だし。仲良くなれると思ったから、この子をパートナーにしたの。パートナーを比べて、どっちが勝ちとか……そういうのは、あんまり……」
「……つーかお前、本気出してないだろ」
「え……」
「お前が本気出せば、こいつらをパートナーにすることだってできたはずだ。手ぇ抜きやがって」
そんなつもりはないけど。
「ボクたち、お嬢に本気で頼まれたら、お嬢のパートナーになってたかもしれないね」
「お嬢に頼まれたらね」
猫たちの言い分に、影山くんが顔を歪める。
「頼まないよ。その子たちが影山くんと組みたがってたのは、なんとなく伝わってたし」
「……そうやって、あやかしのことわかった風に言うんだな」
それは、この2匹がわかりやすかったからで、あやかしのことを詳しく理解できてるわけじゃない。
「また妬んでる。ひかりちゃん、気にしなくていいよ~」
桃瀬くんがそうフォローしてくれるけど、私は、自分よりクロウの方が気になった。
「クロウ……」
「私は平気。レア度やランクより大事なものがあるって、ひかりはわかってるだけ。2匹をパートナーにしたところで、結局、うまく戦えなきゃ無意味だし」
影山くんは、もしかしたら痛いところを突かれたって、思っているのかもしれない。
顔を歪めたまま、クロウを見下ろしていた。
2匹をパートナーにするってことは、それだけ負担も大きいはず。
うまく戦えるかどうかは、たぶん、影山くんの実力次第……。
妙な空気になってしまっていると、黒川先生がやってきた。
「みんな、揃ってますね。それでは授業を始めます」
騒がしくしていた生徒もあやかしも、先生の一言で静かになる。
生徒はともかく、あやかしまでこんなにちゃんと静かになるなんて。
先生の実力みたいなものを、察しているのかもしれない。
「訓練場は、この場所以外にも水辺や森、ホログラムを使用した屋内施設なんかがありますが、ひとます今日は、こちらで各自、パートナーができることを把握しましょう」
パートナーになったものの、実際なにができるのか、よくわかってないんだよね。
たぶん、他のみんなもそうだろう。
「さて……あやかしは、人の精神力に反応してくれます。精神力が、あやかし自身の能力を向上させると思ってください。もともと持っているあやかしの技や技術を確認したのち、その力が強化されるよう、声や体を使って、あやかしや能力そのものに伝えるのです」
そう言われても、いまいちピンと来ていない生徒たちを見てか、黒川先生の近くに狐が駆け寄ってきた。
「たとえば、この子は狐火を出すことができます。これは、最初からこの子に備わったものです」
狐の尻尾に小さな火が灯る。
「灯よ、炎となれ。炎よ、大木を焼け」
先生の言葉に応えるようにして、尻尾の火が大きく育つ。
炎となった火は、少し離れた大木に引火し、大木が炎に包まれた。
「おお、すげぇ!」
周りの生徒から、拍手や歓声があがる。
ホント、すごい……!
黒川先生って、いつも淡々としゃべってる感じだし、なんていうか、あまり熱があるようには見えなかったけど、心に秘めた精神力はすごく強いのかもしれない。
普段とのギャップで、より一層、気持ちが伝わるみたいなことも、あるのかも。
「ありがとう。さて……来い」
黒川先生は、狐の頭を撫でると、次に河童を呼び寄せた。
といっても、来いって口にしただけだけど。
「河童は、自身に多くの水分を溜め込んでいます。空気中の水分を吸収する力も持ち合わせているので、やる気にさせることができれば……水よ、集まれ。炎を消せ」
河童の周りから溢れてきた水が、大木を飲み込む。
そうして、あっという間に炎は消えた。
また歓声が上がる。
「命令することが必ずしもいいわけではありません。反発するあやかしもいるので、その辺は、パートナー次第になります。心を通わせてください」
クロウに命令するのもちょっと抵抗あるし、お願いしようかな。
「ひとつ、注意して欲しいのは、あなたたちの精神が不安定ですと、パートナーはそれを感じ取ってしまいます。力を発揮できなかったり、パートナー自身も不安になってしまいますので、気をしっかり持つように」
やる気とかも、伝わっちゃうのかな。
クロウのためにも、不安にならないようにしないと。
「では、直接攻撃を行うあやかしはこちらに。補助的な能力を持つあやかしは向こうに。間接的な攻撃や支援を行えるあやかしは、そちらにわかれましょう。わからなければ、僕に聞いてくれてもいいですし、あとから随時、移動してくれてかまいません。順に見ていきますので、パートナーができることを各自、確認してください」
えっと……私は、どれになるんだろう。
「ハナちゃんは、補助的な能力だと思うから、私たち、向こうに行ってくるね」
「うん」
マチ子ちゃんとハナちゃんが、私に手を振って向こうに行ってしまう。
一緒に受けられないのは、ちょっと寂しいけど、私にはクロウがいてくれるもんね。
「クロウは、直接攻撃になるのかな」
「間接的な攻撃や支援もできるけど……」
「そうなの? すごい!」
それじゃあ、かまいたちみたいに風を起こして戦況を変えたりできちゃうのかな。
先生がさっき指をさしていた方へと向かおうとしたけれど――
「ひかりちゃん、狐ならこっちじゃない?」
佐那ちゃんに声をかけられる。
パートナーが見つからなかったのか、佐那ちゃんも狐だ。
「でも……できるって、この子が……」
近くにいた他の子たちが、疑うようにクロウと私を見た。
「その狐ができるって思いこんでる……とか?」
「金星さんのパートナーだし、自分を大きく見せたいのかも」
「狐だしやっぱり……ね?」
もしかして、狐は人を騙すものだとか疑ってるのかな。
たしかに、人と身近な上、賢い子もいる狐は、人を騙してからかうイメージも少しあったりする。
でも、このタイミングでクロウが私を騙したり、からかったりするとは思えない。
見栄を張ることも……ないと思うけど。
「……直接攻撃ができないわけじゃない。こっちでいい」
話を聞いていたクロウの方が折れてくれる。
「あとで移動してもいいみたいだし、それじゃあ、まずはこっちで……」
かまいたちを連れている桃瀬くんは、間接的な攻撃や支援ができる子たちのところへ向かう。
影山くんは、私と同じで直接攻撃をできるグループみたい。
みんなそれぞれパートナーに話しかけたり、先生に確認する子もいたりして、移動に少し時間がかかっていると――
「おい」
影山くんに声をかけられる。
いまは近くに桃瀬くんもいないし、フォローしてもらえなそう。
「な、なに?」
私は、少し警戒しながら返事をした。
「……さっき、黒川先生の狐がすげぇ技使ってただろ」
「うん。あんなすごい炎が出せるなんて、思ってなかったよ」
「ひかりの狐がどんくらいやれんのか、まだ知らねぇのにレア度だけでこいつらより下だって勝手に判断した。それは……謝る。悪かった」
最後の方は、すごく小声だったけど、なんとか聞き取れる。
「う、ううん。実際、レア度は猫又より下だし」
クロウも『レア度が低くて、低ランクだって言われてる狐で手を打たなくても』って言ってたから、猫又より低いのは自覚しているはず。
でも、黒川先生を見て、私も改めて思った。
パートナーである人間の実力次第でもあるんだなってこと。
「ちゃんと、お前らの実力見てから判断する」
そう言い切ると、影山くんは私に背を向けてしまう。
「お嬢、またね」
「お嬢なら大丈夫だよ」
2匹の猫だけがこっちを向いて声をかけてくれた。
「お前ら、どっちの味方だよ」
「どっちも敵じゃないよー」
「どっちも味方だよー」
言い合ってるけど、やっぱり仲良さそうだな。
「クロウ……私、どうすればいいんだろう」
私はその場にしゃがんで、クロウと視線を合わせる。
「もしものときは私が助けよう。いまは、ひかりの好きなようにしたらいい」
「私の好きなように……」
「影山かなたは、受験で落ちた仲間の想いまで背負ってる。ひかりに勝ちたい気持ちと、ひかりに勝って欲しい気持ちがせめぎ合ってるんだろうね」
「もしかして、受験のときクロウもその場にいたの? まさか試験官?」
「試験官のようなものだったのかもしれない。私は誰とも話さなかったし、合格させなかったけどね」
「そ、そうなんだ……」
話したいって思える受験生がいなかったってことかな。
でも、私と話してくれるのは……。
また、金星だからなんじゃないかって考えが頭をよぎる。
そういえば、パートナーになるとき『私は、ひかりが金星だからパートナーになるわけじゃない』って、クロウが言ってくれたっけ。
私は、その言葉をぐっと噛み締めた。
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