第6話 パートナー

 翌日もまた、午前中で授業が終わる。

「明日から、午前は通常授業、午後は悪祓いの授業になります。明日の悪祓いの授業は、校舎裏の平原で行うため、パートナーを連れてきてください。パートナーがいない子は、昼休み、昼食後に体育館まで来てください。そこで、パートナー決めをします」

 帰り際、黒川先生からそう説明を受けるけど、みんなの反応はいまいちだ。

 まだちゃんとパートナーが決まっていない子がほとんどなのかもしれない。

 昨日聞いた限りでは、マチ子ちゃんは、だいぶハナちゃんといい感じらしいけど。

 黒川先生が教室を出て行った後、何人かはまた、一目散に教室を出て行った。

「あいかわらずだねぇ~」

 そう言う桃瀬くんもあいかわらずで、全然、焦っていない。

「桃瀬くんは、パートナー見つかったの?」

「一応ねぇ。正直、自分で見つけなくても、明日になれば、先生が選んでくれるみたいだし、それでもいいかなぁって思ってたんだけど」

「それだと成績に影響するみたいだよ」

「無理やり焦って選んだパートナーと授業受け続ける方が、成績落ちそうじゃない?」

 たしかにそうかもしれない。

 それに比べて、先生が選んでくれたパートナーなら、ある程度、扱いやすい子のはず。

「でも、見つかったんだね」

「今の段階では、ただ仲良くなっただけだし、お互いわからないことだらけだけどね」

 短い期間だし、わからないことだらけなのも当然だ。

 私も、あの黒い狐のことは全然わからない。

 これから、わかっていけるかな。


 昼食を終えると、私はマチ子ちゃんと一緒に、あやかしのいるエリアまで来た。

 今日は私も、昼間からしっかり動いてみることにする。

「それじゃあ、マチ子ちゃん。お互いがんばろう」

「うん! またあとでね」

 マチ子ちゃんは、昨日ハナちゃんがいた家へ。

 私は、黒い狐と会った場所へと向かった。

 まだ昼過ぎだし、寝てるかもしれないけど。

 おにぎりを持って、昨日と同じベンチに座る。

 会う約束はしていない。

 それでも待っていると、少しして、どこからともなく黒い狐が現れた。

「あ……」

 あの子だ。

「えっと、ごめんね。お昼寝する時間だよね」

「別に、ひかりが謝ることじゃない」

 私の名前……覚えててくれたんだ!

 それに、今日は狐のままだけど、しゃべれてる。

 昨日は、ただ黙っていただけだったのかな。

 それとも、いま私に聞こえるように合わせてくれてる?

 どっちにしろ私と交流する気はあるみたい。

「昨日、名前聞きそびれちゃったんだけど……」

「名は……クロウ」

「クロウちゃん」

「クロウでいい」

「じゃあ、クロウ。今日もおにぎりあるんだけど、食べる?」

 私が鞄からおにぎりを取り出すと、クロウは人型に変化してくれた。

 私の隣に座って、おにぎりを受け取る。

 おにぎりなんかで釣る気はないけれど、それでも、少しは警戒心が解けてるんじゃないかな。

 ……あんまり時間もかけてられないし、いま、言ってしまおう。

「クロウは、もう誰かのパートナーだったりする?」

「……誰のパートナーでもないよ」

 クロウは、私の方も見ず、おにぎりを一口かじった後、そう教えてくれた。

「じゃあ……その、私のパートナーになってくれないかな」

 少し、沈黙が生まれる。

 今度は、私の方を見ながら、クロウはゆっくり口を開いた。

「ひかりなら、もっと上を目指せる。レア度が低くて、低ランクだって言われてる狐で手を打たなくても……」

「そういう期待をしてる人もいるかもしれないけど、私、突然ここに来ることになったから、上を目指すとか、まだちょっとピンと来てなくて。それより、仲良くなれる子がパートナーになってくれたら、いいなって……」

「強さは求めてないということ?」

「そりゃあ、弱いよりは強い方がいいけど……あ、もしかして、クロウは、もっと上を目指したい?」

 こんなやる気があるのかないのかわからない私じゃ、不満かな。

「妙な期待をされるのは、ごめんだと思っていたところ」

 妙な期待……この子、ちょっと私と似てるかも。

 だから、こうして会うことができたのかな。

「たぶん、平均以下ならがっかりされるだろうし、強くても金星だからあたり前だって言われちゃう気がしてる。だから、そういうのにパートナーを……クロウをつき合わせるのは申し訳ないんだけど……」

「わざわざ言うんだね」

「う、うん……。あとで嫌な思いして欲しくないし」

「先に覚悟しておけって?」

 そうなっちゃうのかな。

 つい俯いてしまう私の手に、クロウの手が重なった。

「そういうのは……慣れているから平気。つき合わせるだなんて思う必要ないよ」

「え……?」

 慣れてるって、どういうことだろう。

「少なくとも、周りの評価を気にして選ぶパートナーよりは、いいパートナーになれるだろう」

「それじゃあ……!」

 ついクロウに期待の眼差しを向けてしまう。

「私は、ひかりが金星だからパートナーになるわけじゃない。それはわかって欲しい」

「う、うん」

 これは、私のために言ってくれてるんだよね?

「それと、妙な期待もしないで欲しい」

「クロウとなら、うまくできるんじゃないかって、期待しちゃってるんだけど」

「それは妙な期待じゃない。希望だ。私も、ひかりに希望を抱いているよ」

「希望……」

 なんだか、心地いい。

 クロウが言う通り、これは希望なのかもしれない。


 明日の昼休み、会う約束をして今日はお別れ。

 夕方過ぎ、部屋にマチ子ちゃんが戻ってきた。

「マチ子ちゃん、どうだった……?」

「ハナちゃん、パートナーになってくれたよ! ひかりちゃんは?」

「私も、黒いお狐様が約束してくれた! 2人とも、希望通りだね!」

「よかった~」

 これからクロウと一緒に悪祓いの授業を受けるわけだけど、全然、相性合わなかったらどうしよう。

 コンちゃんと同じお狐様だし、きっと大丈夫だよね。




 翌日、教室は朝からパートナーの話でもちきりだった。

 ちゃんと見つけられたか、どのあやかしをパートナーにしたか。

 見つけられなかったって子も、やっぱりいるみたい。

「ひかりちゃんは、どんな子とパートナーになったの?」

 佐那ちゃんに声をかけられる。

 他にも数人、近くにいた子がこっちを見た。

「私は、狐のあやかしだよ」

「狐かぁ。ちょっと意外だけど、狐、かわいいよねー」

 佐那ちゃんは、そう笑顔で答えてくれたけど、周りの子は、あまりいい反応をしていなかった。

「狐って……レア度星2のやつだよね」

「見つけられなかった子も、レア度星2以下がパートナーになるみたいだし、第一候補だよね? 一緒じゃない?」

「ってか、金星さんって案外、普通?」

 全部、聞こえてるんだけど。

 私は、クロウが言っていた『妙な期待をされるのは、ごめんだ』という言葉を、思い出していた。




 昼ごはんの後、私はまたおにぎりを持って、マチ子ちゃんと一緒にあやかしがいるエリアに向かった。

 いったん別れて小川につくと、私を見つけてくれたクロウが足元に来てくれる。

「今日も、おにぎり持ってきたよ」

「ありがとう」

 人の姿になったクロウが、私からおにぎりを受け取る。

「ひかりは、ちゃんとご飯食べてる?」

「大丈夫だよ。おにぎり小さいし、残りのご飯もおかずも食べてるよ」

「それならいい。けど、なにも献上してくれなくとも私は手を貸す。パートナーなら対等でいよう」

 お供え物とか、ご機嫌とりしてるみたいに感じたのかな。

「あげたいって思っただけだけど、無理はしないでおくね」

「ところで、私は狐の姿で行けばいいのかな」

 そういえば、みんなどんな姿で行くんだろう。

 人型になれないあやかしもいるだろうし、そのままの姿かな。

「狐の方がラクなら、狐でいいと思うよ」

「ラクというわけではないけど、そうしよう」

 おにぎりを食べ終えたクロウは、また狐の姿に戻った。


 その後、さっきマチ子ちゃんと別れた場所までクロウと一緒に向かう。

 そこには、すでにマチ子ちゃんがいて、足元にはハナちゃんもいた。

 ハナちゃんとは、2日目に会ってるけど、マチ子ちゃんがクロウと会うのはこれが初めてだ。

「マチ子ちゃん、お待たせ。この子が私のパートナー。クロウって言うの」

「クロウくん? ちゃん……かな。よろしくね」

「クロウでいい。よろしく」

「こっちは、ハナちゃん」

 マチ子ちゃんは、クロウにハナちゃんを紹介していたけれど、ハナちゃんは少し警戒しているみたいだった。

「あ、あの……よろしく」

 それでも、クロウに向けてそう挨拶する。

「よろしく」

 小さいハナちゃんからしてみれば、クロウは自分くらい大きいサイズの狐で、緊張するのも無理はない。

「それじゃあ、行こうか」

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