第3話 見つからないあやかし
翌日。
私はマチ子ちゃんと一緒に、教室へと向かった。
「あやかしの授業ってどんな感じだろう。難しいのかな」
マチ子ちゃんが、少し不安そうに呟く。
「今日は実技じゃないみたいだから、そんなに難しくないといいけど。どんな子をパートナーにすればいいか、わかるといいなぁ」
「私も、自分に座敷わらしがあってるのか、考えたいな」
昨日の夜、マチ子ちゃんから少し話を聞いたけど、座敷わらしには会えなかったらしい。
やっぱりレア度、星3ともなると、難しいのかもしれない。
教室に入ると、どこか暗い雰囲気が漂っていることに気づく。
「どうしたんだろう」
呟く私の隣で、マチ子ちゃんも首をかしげる。
「なんか、昨日とは全然違うね」
わからないでいると、昨日、話したおっとりした雰囲気の男の子が、私たちに気づいて声をかけてきた。
「おはよう。ひかりちゃんに、マチ子ちゃんだよね」
「おはよう。えっと……桃瀬くん?」
タブレットでは、クラスメイトの写真と名前が確認できるようになっていた。
昨日、話した子の名前は、一応、確認しておいたんだよね。
「うん。よろしくね~」
桃瀬くんは、昨日とまったくかわりない雰囲気だけど……。
「なにか、あったの?」
「うーん。しいていうなら、現実を突きつけられたってとこかな~」
「現実……」
よく見ると、暗い雰囲気を出しているのは、昨日、すぐに教室を飛び出していった生徒たち。
あやかしと、交渉できなかったってこと?
「まあ、そう簡単には、いかないよね」
「ひかりちゃんでも、そう思う?」
「いきなりパートナーになって欲しいなんて言われても、向こうも困るんじゃないかなって思って……」
「それもあるけど、どうもそれ以前の問題みたい」
それ以前?
マチ子ちゃんは、なにか気づいた様子で呟く。
「もしかして見つけられなかった……とか。私も、少し覗いてみたけど、目当ての子とは会えなくて……」
「そういうこと。目当ての子どころか、レア度の低い子すら見つけられなかったって子もいるみたい」
全体的に、あやかしの数が少ないのかな。
それとも……。
「黒川先生、あやかしの中には、人間に擬態できる子もいるけど、3日間は、能力の判断がつきやすいように、本来の姿に近い形でいてくれるだろうって言ってたっけ」
昨日のことを思い出しながら、口にする。
「そうだったね~」
「じゃあ、景色に馴染んで見つけにくいのかも。本来の姿のあやかしは、よく見えないって人もいるみたいだし」
「一応、受験に受かった子たちは、みんな見えてるはずだけど……」
マチ子ちゃんが、こそっと教えてくれる。
「あ……そ、そうだったね。でも、あやかしにもたくさん種類があるから、この子はよく見えるけど、この子はぼんやりとしか見えないみたいなのが、あるんじゃないかな」
「黒川先生が言ってた『能力の判断がつきやすいように』って、そっちの意味かぁ~」
桃瀬くんが、納得したみたいに頷く。
「そっち?」
「僕はてっきり、あやかしの能力がわかりやすいように、本来の姿に近い形でいるんだって意味だと思ってたんだけど。能力を測られてるのは、僕たちの方だってこと。本来の姿に近い形でいるあやかしを、ちゃんと見つけられるか……ね」
そういうことか。
自分と合いそうなあやかしを見つけられたら、声をかけてみてくださいって言ってたけど、いま思えば、それもちょっとおかしかったかも。
見かけたら、とかじゃなく見つけられたらだもん。
なかなか見つけられないって言ってるようなものだったのかもしれない。
「受験では、あやかしに入学を認めてもらったけど、今度は3日間で、パートナーとして認めてもらわなくちゃならないわけだね~」
桃瀬くんに言われて、いま行われていることを改めて理解する。
受験の延長みたい。
見つからなければ、先生が用意してくれるみたいだけど……。
ここでちゃんとパートナーを見つけて、受験を突破するだけの実力はあるんだって、みんなに示しておかないと!
このままじゃ、親の力で入学したって思われても、しかたない。
「まあ、1日探して見つけられなかったくらいで、落ち込むことないよ~」
暗い雰囲気の子たち方を見て、桃瀬くんは明るく話していたけれど、みんなの表情は、どこか暗いまま。
近くで話を聞いていた影山くんが、小さく舌打ちをする。
「落ち込んでる場合じゃねぇってことだろ」
「そうとも言うねぇ。だからって、がむしゃらに探して見つかるものでもないだろうけど」
たしかにそうなんだよね。
あやかしと本気のかくれんぼなんてしたら、勝てるはずないし。
思ってた以上に難しい課題みたい。
「ただ見つけられるかどうかじゃなくて、見えるかどうかの問題でもあるんだね……」
マチ子ちゃんがそう言いながら、うーんと考え込んでしまう。
「向こうもこっちを見てくれてるだろうから、パートナーになりたいって思ってくれたら、見つけやすい姿になってくれるんじゃないかな」
座敷わらしなら、仲良くなりたい子を選んで出てくることも考えられる。
昨日は会えなかったみたいだけど、私とマチ子ちゃんで、楽しく遊んでる姿を見せたら、出てきてくれるかも……。
そんなことを考えていると、傍で聞いていた男の子が声を荒げた。
「パートナーになりたいなんて、あやかしにどう思わせるんだよ!」
「そ、それは……あやかし次第だし、それがわかれば苦労しないけど……」
私もつい言い返してしまう。
「そうだよねぇ。そこが今回の課題なわけだし」
桃瀬くんも、うんうん頷きながら、私の意見に寄り添ってくれる。
少しホッとしたけど、
「……お前はなんもしなくても、思われるかもな。なんたって金星神社の人間だし」
さっき声を荒げた男の子が、不機嫌そうに私を見ながらそんなことを言った。
その子だけじゃない。
もしかしたら、みんな思ってるのかも。
私なら、あやかしの方からパートナーになりたいって思われるんじゃないか……って。
実際、どうなんだろう。
神社の子だからなんて理由で、あやかしの方から寄ってきてくれたりするのかな。
もしそうなら……パートナーが見つけられても、それって私の実力じゃないのかな。
否定できないでいると――
「そりゃあ当然、神社の子で、悪祓いも身近で、あやかしのこともある程度わかってる人の方が、あやかしを見つけられなくて怒ってる人より、いいに決まってるよ~」
桃瀬くんが、そう男の子に指摘する。
こ、これ、火に油注いじゃってない?
桃瀬くん、おっとりしてるように見えて、結構はっきり言う子かも。
「くっ……」
その子は、不機嫌なまま、遠くの席へと離れてしまう。
あやかしが、どこまで神社のことを知っているのかわからないけど、コンちゃんが試験官として紛れてたくらいだし、まったく知らないってことはないのかもしれない。
だとしたら、やっぱり私、ずるいのかな。
申し訳ない気持ちになってくる。
「気にすることないよ」
そう声をかけてくれたのは、髪をサイドにまとめた女の子。
昨日も、しゃべってくれた子だ。
「灰田さん……」
「あ、名前覚えてくれたんだ? 佐那でいいよー」
「佐那ちゃん。ありがとう」
「ううん。それより、ひかりちゃんがどんなあやかしをパートナーにするのか、そっちの方が楽しみ」
「え、ええ……?」
「あたしらじゃ到底、手に負えない高ランクのあやかし、従えちゃったり……ね?」
「そ、そんなのとは、私も仲良くなる自信ないよ」
「え~? でも推薦入学だし。ね!」
親が全部手続きしてくれたけど、たぶん推薦入学って扱いなんだろう。
推薦されるだけの実力があるんだって、思われるのも当然だ。
むしろ、ないとおかしい。
視線を感じて横を見ると、影山くんがジッとこっちを見ていた。
「見つけらんねぇとか言わねぇよな」
「そ、それは……」
まだ、あやかしがいるエリアを確認したわけでもないし、わからないけど。
「……言わないよ。見つける」
自信はないけど、さすがにそう答えるしかなかった。
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