4ー3 真駒内駐屯地・2025年(現在)
真駒内駐屯地の地下で、野村の推理は続いていた。
中西のスマホが鳴って、遮る。右耳に嵌めたワイヤレスイヤホンを操作して通話を聞き終えた中西は、わずかに顔を曇らせた。
野村が尋ねる。
「また事件か?」
「いや、基地司令からの依頼だ。陸幕長が到着した。レネから直接話を聞きたいと言ってきた」
レネが首をかしげる。
「報告はその都度上げていますが?」
「自分も、陸幕長が来るという話は聞いていないんだ……」
「急に? なんのお話でしょうか?」
「顔を合わせておきたいそうだ。財閥の代表に対する礼儀、ということらしい」
「日本的、ですね」
野村が言う。
「俺も行くのか?」
「いや、部屋を出ないでくれ。レネと2人でいい」
「分かった」
中西はレネに目をやった。
「しばらく付き合ってくれ」
「お役に立てるなら」
「隊の回線でギャラガー氏に連絡を取ってもらうかもしれない」
*
襲撃は、10分後に始まった。ノックに続いて、男の声――。
「中西二尉からの連絡です」
中西からは、『自分以外の人間が来てもドアを開けるな』と厳命されている。だが、自衛隊基地の最深部の〝隠し部屋〟に襲撃者が接近できるはずもない。野村は中西の指示も忘れて、反射的にドアを開いた。その途端、鼻先に拳銃を突きつけられた。
迷彩服姿の見知らぬ兵士が言った。
「ついてこい」
「中西の部下か?」
兵士は、冷たい笑いを見せた。そして野村の腕を掴む。
廊下に引き摺り出された野村は思い知った。
『次はない』のだ。
その瞬間だった。廊下の曲がり角から何者かが飛び出し、銃を放つ。兵士の拳銃がはじき飛ばされた。さらに撃ち込まれた銃弾が、兵士の体を吹き飛ばす。廊下の陰からさらに数人の男たちが現れた。1人が飛び出し、倒れた兵士を取り押さえる。
彼らの背後に立っているのは中西だ。穏やかに命じる。
「死なせるな。背後関係を洗い出せ」
「了解」
男たちは兵士を引きずるように廊下の先へ消えていった。中西の背後にレネが現れ、彼らを眺めている。中西は陸幕長に会いに行ったのではない。野村を1人にして、あえて襲撃を誘ったのだ。野村は、敵対組織をあぶり出すための囮だ。
野村は中西を見つめて、つぶやく。
「俺が殺される危険はなかったのか……?」
「万全の対策は打った。襲われる確証もなかった」
「だが、襲われた」
「だから防いだ。これは僥倖だと思え。敵が駐屯地の最深部まで入り込めるということは、上層部から情報が漏れている証拠だ。だがそれを辿れば、敵の核心にも近づける。おそらくSVRの手の者だろうが、中国や北朝鮮も除外はできない。黒幕を暴ければ、交渉材料にもできる。この情報はファイブアイズで共有される。すでに共同のセーフハウスを構築した。すぐそっちへ移動する」
ファイブアイズはアメリカを中心とした情報機関の連合体だ。米NSAと、旧大英帝国の英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの情報機関がUKUSA協定によって緊密な連携をとっている。日本もまた、その協定に参加することを検討していた。
「いつまでも流浪の民だな……」
中西は野村を無視し、レネを見て言った。
「無論、君にもご同行願う」
レネは無言でうなずいただけだった。
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