第17話【本当の気持ち】(変化する関係性編)

ライラさんではなく、お母さんが体調不良…?

「…どういうことですか?」

蕾来らいらちゃん、今朝自分で学校に連絡してたから、みんなを心配させすぎないように、軽い体調不良って先生には説明したのかもね。LIVEのチケットについては、何か言ってなかった?」

「確か、仕事の都合で親が来られなくなったって…」

「……。蕾来らいらちゃんらしいわね」

紗菜いさなさんは、ぽつりぽつりと事情を語りだした。

「実は…、うちの母が交通事故にって、今入院してるの」

「そんな…!!」

夏梅なつうめさんが悲痛な叫びをあげた。

「相手側が居眠り運転していたことが、原因だったそうよ。…それでも、母は気丈きじょうに振る舞っていて、楽しみにしてたLIVEも他の人を誘って行っておいでって…。」

「…そうだったんですか」

「それが、昨日の夜…、蕾来らいらちゃんが猫成ねこなりくんと別れて帰ってきた後、病院から連絡があったの」

紗菜いさなさんは一呼吸置いて、続ける。

「母の容態ようだいが悪化したって…」

それを聞いて、俺は居ても立っても居られなくなった。

紗菜いさなさん!ライラさん、ライラさんは今どこに!?」

蕾来らいらちゃんは、童武どうぶ総合病院に行ったわ…。…あたしはこんなときでも仕事が許してくれなかった」

「俺、ライラさんに会ってきます!!」

何ができるわけでもないけど、"友だち"として、彼女が一人で苦しんでるのを放ってはおけない!!

「私も行くわ!猫成ねこなりくん!!」

「…蕾来らいらちゃんは、素敵な友人を持ったのね、それとも…、それ以上かしら」




宍嶋しししま家から出発するときに、ライラさんに送ったPINEのメッセージは未読のままだ。

病院の受付カウンターで、入院中の宍嶋しししまさんの面会に来たと説明し、中に入る許可を得た。

「あ!猫成ねこなりくん、こっち!」

501号室…、ここにライラさんのお母さんが…。

きっと、ライラさんもここに。

ノックをして、扉を開ける。

ベッドで眠っている女性の横にライラさんが座っていた。

「あ、あんたたち…、どうしてここに…それにその服…」

彼女の顔には涙のあとが浮かんでいる。

声も少ししわがれていて、どことなく心労が感じられた。

紗菜いさなさんに会ったよ、課題を届けに行ったんだけど…、お母さんの話を聞いて…」

「…あの、バカ姉貴。…果耶かや、あんたはなんで?」

「え、え~と、宍嶋しししまさんが心配だったから…」

「…嘘つかないでよ、あたし、あんたが茂道しげみちくんに告白するところ、見てたんだから」

温厚なライラさんが、珍しく苛立いらだった様子を見せて、気まずい空気が流れた。

果耶かや茂道しげみちくんと一緒に居たいだけなんでしょ!あたしのことなんか嫌いなくせに!!」

「…そ、そんなこと、私は…」

夏梅なつうめさんが震えている。

いや、おびえているのだろうか。

この状態はよくない…。

「ライラさん、落ち着いて…。夏梅さんは俺を家まで案内してくれたし、本当に君のことを心配してたんだ」

「…来てくれてありがとう。…でも、今は一人にして。あんたに…こんなみにくいあたしを見られたくない…」

ライラさんの声に、普段のハリや覇気が一切ない。

ここは本当に一人にした方がいいのかもしれない。




病院を出て、公園のベンチに座って肩を落とす。

「…なんのために来たんだって感じだよね、ライラさんの力になるどころか、不快な気持ちにさせちゃうなんて…」

「…うっ、ぐすっ…ぐすっ。ひっく、うぇぇぇ~ん」

「な、夏梅なつうめさん、なにも泣かなくても…」

クラス一の美少女が、隣で子どものように号泣しているという異様な状況に、俺は混乱した。

「…私、うぅ…私はぁ、しししまさん、が…うぇ、ごめんなさい…ごめんなさい…猫成ねこなりくん」

「…ゆっくりでいいよ」

何かを伝えようとしている彼女の背中を、LIVE会場でライラさんにやってもらったように優しくでる。

「…私、宍嶋しししまさんの…ことが、好きなの…!」

「え…?」

「…友だちとしてじゃなくて…、その…、恋愛の方で」

「そう…なんだ」

「だから、ごめんなさい!!あの告白、嘘なの!私は最低な嘘つきで!宍嶋しししまさんと猫成ねこなりくんの距離が近づいてるのが、もうどうしようもなく、苦しくて…!!」

「正直、俺も変だと思ってたんだ…。夏梅なつうめさんみたいなキラキラした人が、なんで俺なんかをって」

「…本当にごめんなさい…」

「いいよ…。こんな言いづらいことを話してくれてありがとう」

「ううぅ、猫成ねこなりくん優しいよぉぉ~。…私、宍嶋しししまさんに嫌われたくない~!!」

「そうか…、そうだよ!結局、ここにはライラさんのことが大好きな2人がいるだけなんだ!!」

「ふぇ…?」

「もう一度…、病室に戻ろう!!」





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