第18話【ハレルヤ】(変化する関係性編)

俺と夏梅なつうめさんは今一度、ライラさんとお母さんのいる501病室にやってきた。

「…あたし、一人にしてって…」

「ごめん、ライラさん。夏梅なつうめさんの話を聞いてあげてほしいんだ…!」

宍嶋しししまさん、私は確かに猫成ねこなりくんに告白した、…でも本当は宍嶋しししまさんと仲良くなりたくて…そこに転校してきてすぐの猫成ねこなりくんがお揃いのチャームをつけてたから、焦っちゃって」

「…つまり何が言いたいの?」

「……」

夏梅なつうめさん。

俺は彼女の背中を少し押した。

「っ!私は!宍嶋しししまさんのことが好きなの!!!」

しばしの間、沈黙が流れる。

「はぁ!?」

「…うぅ~!!猫成ねこなりくん!後はよろしくね!!」

夏梅なつうめさん、頑張ったね…!ここからは俺に任せて!」

彼女は耳まで顔を赤らめて、ぎこちない早足で、逃げるように病室から出ていった。




「…果耶かやがあたしのことを…、そんなふうに…」

俺は夏梅なつうめさんがライラさんに恋心をいだいていること、俺たちが仲を深めるのを妨害したくて俺に告白してきたことを、彼女の代わりに伝えた。

果耶かや…変わったな…」

「え?」

「いや、…なんでもない」

ライラさんはそう言って、少し嬉しそうに微笑ほほえんだ。

やっと笑顔を見せてくれた。

彼女には笑顔が一番似合う、悲しむ顔は見たくないな。

「ライラさん、俺、まだいてもいいのかな?」

「いてほしい…。…手、繋いでもいい?」

「もちろんいいよ。それで、君の気が楽になるなら」

「…ありがとう」




病室の中は思っていたよりも、静かだ。

この白い無音の空間が、ライラさんの心をむしばんでいたのだろう。

「…お母さんはどういう状態なの?」

「昨日の朝から、眠ったまま起きないんだって…。看護師さんが声をかけても、体を揺さぶっても…。」

「30時間以上…」

「あたしはLIVEがあったし、姉貴も仕事が忙しくて、電話に気づいたのは夜になってからだった…、適切な処置はしてるそうだから、後は見守ること…しか……」

ライラさんの声がだんだんと震えていく。

理屈なんてどうでもいい。

俺はライラさんにこれ以上辛い思いをしてほしくない……!!

「お願いです…!!ライラさんの曇った顔は…!ライラさんの大好きな貴方にしか!晴らせないんです!!」

病院なので、大声は出せない。

その代わり、心を込めた言葉を吐き出す。

茂道しげみちくん…」


その瞬間、奇跡は起きた。

「あ、目が…!!」

「…らい?」

「…お母さん!!」

「…泣かないで…蕾来らいら

大粒の涙を流して、ベッドに顔を伏せたライラさんの頭を、お母さんが優しくポンポンとでる。

「…あなたは?」

「ライラさんの"友だち"の猫成ねこなり茂道しげみちです」

「そう…お友だち、ふふふ」

お母さんは笑い方が紗菜いさなさんに、笑った顔がライラさんにそっくりだった。

「あたしはどうしてたのかしら?」

「…ほんの少し、長い夢を見ていただけですよ」





「遅いのにいいの?」

「うん、今日は送らせてほしいんだ」

お母さんの容態ようだいが安定したのを、お医者さんに確認してもらい、病院を出た。

2人で宍嶋しししま家を目指して、夜道を歩く。

「ねぇ、茂道しげみちくんはさ、"友だち"として、あたしのこと好き?」

「はい??!!」

果耶かやの気持ちに、向き合わないとなって、…参考までにさ」

「あ、ああ、俺は…」

間もなく宍嶋しししま家に到着するという所で、ライラさんが急に足を止めて、真剣な眼差まなざしでこちらを見つめた。

「……好きなら目を開けてて。…好きじゃないならつむって」

…どういう意図があるのだろう?

俺はライラさんのことを"友だち"として好きだ…。

それは間違いない。

"友だち"として…?

学校一の美少女、夏梅なつうめさんから告白されても、ライラさんのかわいさが頭から離れなかった。

それに、俺は誰も知らない彼女の魅力に気づいている自覚がある。


「…目、開けててくれるんだ?」

「……」

かがんで」

あれ、この流れ、また…。


ここからの展開は昨日のLIVE後とは違った。

ライラさんが俺のほほに両の手をえて、じっと目をあわせてくる。

き、綺麗きれいなお顔が近すぎる…!!

自己紹介を失敗したときよりも、夏梅なつうめさんに告白されたときよりも…俺は今、人生で一番照れている。

それでも、目をつむったり、らしたりはしなかった。

『好きなら目を開けてて』

俺はライラさんのことが好きだからだ。

"友だち"としてではない。


ちゅっ

「あたしも好き」

あっ、えっ?

「また明日!」

走り去っていくライラさんの後ろ姿に、ひどく胸がめ付けられた。


      



      変化する関係性編 完




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