第13話【アネクドートロス】(LIVE編)

今回のLIVE会場は〰童武どうぶオリオンアリーナ〰

開演30分前の16時30分頃、俺たちが会場内部に入ったときには、既に席はあらかた埋まっていた。

「こんなに広々としてるんだ!すごいね!」

「あたしも来るのは久しぶり…、席番号は…お、なかなか当たりなんじゃないか?」

「右端か…、他の人を気にしないですむね」

「座り心地いいな」

「うん、これなら腰痛くならないや」

「LIVE始まったらみんなずっと立ってんのかな」

「バンドTシャツ着てる人ばっかりだし、そうなるかも…。今のうちに足を温存しておかないと…」

『本日はアネクドートロスのLIVEにお越しいただき……』

アナウンスで一通り注意事項の呼び掛けが終わると、照明が消され、辺りはほぼ何も見えなくなった。

周囲の期待が増していくのを肌で感じる。

いよいよ始まるのか。

「ライラさん、楽しもうね」

「ああ!」




バイオリンとピアノのアンサンブルが壮大なオープニングを奏で、メンバーが順番に登場した。

「Are you ready?」

最後に現れたヴォーカルのわざかみさんが、マイクを通さずともはっきりと聞こえてくる声量で会場全体をあおる。

それを合図に、ドラマーのランデさんがビートを刻み始め、ギターの黒江さんがアンサンブルから音を引き継ぐ形で印象的な【キリケムリ】のイントロを掻き鳴らす。

ベースの潮さんは唸るような表情で、音の輪郭りんかくを際立たせている。

一瞬にして会場のボルテージは最高潮になり、歓声に拍手、果てはどこからか、既にすすり泣く声すら聞こえてきた。

そして、わざかみさんが歌いはじめる。

突然とつぜんいたみにおそわれて けずられて なにのこせたの かたらないままじゃげられて えかけて なにのこらない 未来内みらいない ないならないいないならいらない いだいた期待感きたいかん かなわない ないならないいないならいらない いたんだ期間きかんは わらない』

アネクドートロスが…完成する瞬間だった。

きりけむりでもいい おおかさなって えなくなっても らしつづける とどけよう あてなき かざらない 未来譚みらいたん かまわない いざかん』

こんなに…、こんなに。

秋ってこんなにアツかったのか。




夢のような時間だった。

こんな体験ができたのも、すべてはライラさんが俺を選んで誘ってくれたおかげだ。

LIVEではその後も息をつく暇もなく2曲目、3曲目とヒットソングが連続で披露される。

特別なアレンジが加わっている楽曲、メンバーによる煽り立て、そしてわざかみさんの口から音源以上な歌唱力によって、会場は大盛りあがりだ。

あっという間に時間が過ぎ去り、わざかみさんはこう告げた。

「次でラスト一曲、まだ声出せますか」

最早もはや、出せる、出せないではなかった。

喉が千切れるほどに叫んだ。




身も心も全てを燃やし尽くしたが、LIVEにはまだがあった。

「アンコール!!!!!!」

最もステージに近い客席から、張り上げた大声で発せられたその熱は、瞬く間に波及はきゅうしていった。

かなり長い時間、声を枯らしてもなお、その言葉をただひたすらに叫び続けていた。



「外、雨降ってるって聞きました。この雨、僕たちで吹き飛ばしませんか」

わざかみさんがいつの間にかメインステージの中央に戻ってきていた。

右手で空を示し、左手でマイクスタンドを握るわざかみさん!

スタイリッシュすぎる!!

歌だけでなく、ビジュアルも洗練されている彼のパフォーマンスに、黄色い歓声は止まない。

「これが本当のラスト一曲です、聴いてください。【また旅に】」

【また旅に】__!!

…この歌は、俺のために作られた歌。




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