第11話【オープニングアクト】(LIVE編)

今週もやっと終わりか。

結局、夏梅なつうめさんと話したのは週の始めにPINEを交換したあの日が最後だった。

まあ、本人も学校で向き合うと照れちゃうと言っていたことだし…。

またPINEするねともあったので、今のところは気にしすぎないようにして、あちらからのアクションを待とう。



「じゃ、ここで。LIVE、明後日だから。またね」

「うん!それじゃ!あ、ライラさん!…当日は気をつけて来てね!」

「…おぅ」

俺とライラさんの帰り道は途中まで一緒だった。

こちら方面は他に誰もいないので、2人で喋りながら帰っている。

妹・千歌ちかのことを話したり、共通の趣味であるアネクドートロスの曲について語ったり、それぞれの得意科目を教えあったり…トークに自信のない俺だが意外と話題は尽きない。

LIVEはもう明後日か…!

こんなに休日が充実するのはいつぶりだろう。

父さんの仕事が忙しくなる前は、観光地で宿泊したりしたこともあったっけな。



ライラさんとお別れして、1人になった家までの道のりで、俺はまた口角が上がっていることに気づく。

彼女と過ごしたり、彼女のことを考えていると、いつも自然にこうなっている。

ライラさんとLIVE…、楽しみだな。

でも…LIVEに着ていく服がないな。

……服を買いに行く服もないな。



昨日は興奮してなかなか寝つけなかった。

夕方には大好きなアネクドートロスのLIVEだ!

「くぅぅぅ~~~だあっ」

軽い伸びをして気合いをいれる。

待ち合わせ場所のバス停に到着したが、ライラさんと合流するまでに大分だいぶ、時間の余裕がある。

よし、今のうちに!

ショーウィンドウのガラスを鏡代わりにして自らの全身をチェックだ!

ああ、結局シンプルな黒のTシャツに落ち着いてしまったな。

ファッションのファの字もない。

トロスってロックバンドだけどおしゃれ系なんだよなぁ…。

夏フェスならまだしも、屋内LIVEだし…、浮かないといいなぁ…。

それにしても、出がけにぐずった千歌ちかをなだめるのには苦労した。

「日曜日はいっつも家にいるじゃん!ねぇ~!遊んでよ~!!お姉ちゃんと2人でなんてズ~ル~い~!!」

そんなの…俺が一番ズルいと思ってるさ。

2…か。

動物園は3人だったけど、今回は俺とライラさんの2人きり…う、緊張するかも。

「また3人で遊ぶチャンスはあるよ!そもそも千歌ちかは、アネクドートロスの曲なんてほとんどわかんないだろ?」

「そんなことないもん!!お兄ちゃんが好きだってゆーから!お母さんにたのんで流してもらったもん!!」

「ほう?何を聴いたの?」

「らぶ…、ら…ざ?みたいなやつ」

「そっか、帰ったら話そう!じゃ!!」

「あっ!まってよ~!お兄ちゃ~ん!!!!」

すまない!妹よ!

玄関を開けて、勢いよく駆け出した!

が、財布を忘れて取りに戻った…。




さて、いよいよ待ち合わせの時間が迫っているが、ライラさんはまだ来ていない。

PINEにも連絡はないけれど…。

「大丈夫かな?」

と、その瞬間。

「おはよう」

「うわあっ!お…おはよう、ライラさん」

突如、背後から声をかけられて情けない反応をしてしまう。

「あはは、ビビリすぎだって!遅くなってごめんな」

あれ?

彼女の見た目がいつもと違うような?

制服でないのは当然として、なにかが…。

「…あんまりジロジロ見ないでよ、は、恥ずかしいから」

「あっ!メイク!!」

「慣れてないなりに、頑張ってみた。時間ギリギリになって焦ったけど。どう?……かわいいでしょ?」

ライラさんはスタイルがよくて、女子の中では背が高い。

ただ、それでも俺の方が数センチだけまさっている。

そのせいで、ときどき破壊力抜群の上目うわめづかいをモロにくらってドギマギしてしまう。

「う、うん。…世界一かわいい」

「…ッ!あ~あ!」

「トロスのメンバーにアピールするために、頑張ったんだね」

「なっ、違うから!」

「そうじゃないの?」

「…あたしはその…あんたに…バカ」

「…ンス?」

「……あ?」

またやってしまった。

呪われた癖だよ、ほんと。

「なんでもない!忘れて!さ、行こうか!」

「バカンスに?」

「うぅ…ライラさんの意地悪っ!」

俺のボケがスベって流そうとするのを、彼女は絶対に見逃してくれない。

「ところでさ…服の方も見てほしいんだけど?」

「もちろん世界一かわいい」

「そうかよ……褒める語彙ごいそれしか持ってないのか?」

「いや、本当にかわいくって。でも、なんか先週と雰囲気が…」

動物園でのアクティブなファッションとは真逆の、奥ゆかしさを感じさせる純白のブラウスと淡いピンクのロングスカート。

ショルダーバッグやシューズは変わっていないが、全体の色味が柔らかくて透明感が増している。

横に並んで歩くのが申し訳ないくらい、おしゃれだ…。

「姉貴に『男の子とお出かけするなら、もっとかわいくしなきゃ!』って服屋に連れてかれたんだ」

「お姉さんいるんだね」

「年が離れてて世話焼きなのが1人…。さ!バスが来たぞ、に行こう!」

「うぅ…そうだね」

ほしたくてはしした あしめたらきずえぐれるから かたちたもってるいまに Go beyond the limit t,t,t,t,t,t,t,t, Star to dash』

バスが発車すると同時に、俺の大好きなトロスの【Star to dash】という曲が頭の中をループし始めた。





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